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星が降る遊園地  作者: ミー子
夏~思い出を振り返る魔法~
7/17

イルミネーションの話。

ちょっと息抜き。

世間では、夏休みが始まり、営業時間が少し伸びたある日。

イロが、ようやく、ウェーブスインガーの習熟が取れたと報告をしてきた。


「お盆になる前でよかったよ」


あははっと笑いながら能天気にシュリが言う。

千夜は、拍手をして、心の底から祝う。


「おめでとうございます!!」


ナミも、やれやれというように、イロを祝う。


「まさか、お盆前に本当にとっちゃうなんてね」


「千ちゃんも、もうすぐでメリーゴーランドが取れるもんね! 頑張ろう!」


夏の暑い午後。休憩所では若手組が、おしゃべりに花を咲かせていた。

湿った風が吹き抜けて、ウェーブスインガーのブランコを揺らしてゆく。

お盆を前にした平日は、人影もまばらで、どの乗り物も、お客さんが

乗りに来ることを楽しみに待っているようだった。

だが、従業員は、暑さで操作室や休憩所で完全に伸びきっていた。

あまりにも熱すぎると、乗り物にもエラーが出る。

コインマシンも調子があまりよくない。

あまりの暑さに、いわゆる満身創痍なのである。


「あ~っ! お盆はどの企業も休業の法律をはよ作れ! 総理大臣!」


確実に届かないであろう、願い事を口にしながら、マモが、扉を開けて入ってきた。

後ろにはナグモが付いてきている。

その手には、配線が切れてしまった、イルミネーションが入った籠を抱えていて

あまりの暑さに、その顔はまるで真っ赤なトマトのようである。

シューティング・スターの地面で掘り起こした思い出のガラス玉を

のんきに覗込んでいた千夜は驚いて、思わず、その手から落としそうになった。

カヤは、少しずつ思い出を返してゆくと言って、半分だけ休憩所においてある。

残りは、お盆に返すと言っていた。


「無理無理。無理ですよそんなん」


ナグモは、よいしょ。と、部屋の隅に行って、かごを下ろす。

中には、玉のように丸められた、イルミネーションが詰め込まれている。


「ああ、ナグモさん。お疲れ様です。そのイルミネーションは何ですか?」


千夜は、ナグモに問いかけた。

ナグモは汗を拭き、冷蔵庫から保冷剤を取り出し、水色のタオルにくるんだ。

真っ赤な頬に保冷剤を当て、パタパタと服を引っ張り扇ぎながら答える。


「ああ、これは、配線の切れたイルミネーション。これをちょっと直して

お盆に向けて飾りつけするんだ」


「ええ? 夏に?」


「そう。ちょっと珍しいだろう!」


得意げに胸を張って、ナグモは言った。

それを、隣にいたマモは聞くなり、吹き出した。


「去年は、暑い暑い文句言いながら言ってたのになぁ

夏にイルミネーションをやる意味が分からないって、な」


ナグモは、目を丸くして、照れた。


「もうっ! 言わないでくださいな! 後輩たちの前なんだから!」


「ははっ! 悪い悪い」


マモは、悪びれもせず、頭をガシガシとかいた。

それから、ナグモの肩をたたいて、満面の笑みで言う。


「今年も手伝ってくれよ! 頼むぜ相棒!」


イルミネーションを設置するのは、男の役目だ。

女は、どんな色を使ったら綺麗かなどの、色の仕分けをする。

何となく、イルミネーションは冬に飾られるものという意識が、千夜の中にはあった。

がやがやとナグモと、マモが出ていく。


「夏のイルミネーション……ちょっと、常識はずれ?」


何となく口にすると、ナミは、ふむ。と、声を漏らす。


「確かに常識はずれかもねぇ。でもね、常識だけがすべてじゃないかも?」


頬杖をついて、千夜に告げる。

そうかもねー、なんてのんきな声を上げていたイロは、時計を見るなり

顔色を変えて、鞄をひったくり、休憩所から駆け出して行った。


「交代に遅れそうだったんですね。でも、まだ5分前だというのに」


イロちゃんだからね~、とナミはのんきに言って、マモに話かける。


「じゃあ、マモさん。この後、色の仕分けをしに、千ちゃんと、ホール裏に行けばいいですか」


「そうね、俺が迎えに来るから、ここで千ちゃんと待ってて。

よし、ナグモ。ホールのイルミを持ってきて、仕分けするぞ!」


マモはナグモを促して、外へと出ていく。

お盆まであと、1か月だ。

暑い夏にイルミネーションの組み合わせは、何となく新鮮に思えて、見てみたい気がした。

灯篭に彩られるお盆を、こちらではイルミネーションで彩るのだろう。

そんなことに思いをはせていると、休憩所の内線が鳴る。


「私出るね」


ナミが席から立ちあがり、内線に出る。


「はい、第1休憩所のナミです」


一連のやり取りを聞いていると、ナミの声音が、1オクターブ高くなる。


「なるほど。了解です。変わりますね」


「千ちゃん! カヤさんから!」


慌てて受話器を受け取り、お電話変わりました。

と、言う。


『ああ、千ちゃん? お疲れ様です』


カヤの声は明るかった。


「カヤさん! お疲れ様です」


『あのね、千ちゃんに話があるんだけど、いきなりだけど

明日、メリーゴーランドの見極めをやろうと思ってね。だから、今日は最終確認

しておいてね。マモには、千ちゃんは、イルミネーションの仕分けに行けないって

話しておくから』


見極めの言葉を聞き、千夜は驚いた。

もし、見極めに合格すれば、1人でメリーゴーランドを動かすことができる。

千夜は、ワクワクした。


「はいっ! わかりました!」


上気した声で、返事をする。

その返事を聞いたカヤは、電話越しに笑い、それから

じゃあ、よろしくね、と言いおいて電話を切る。

ナミは、カヤさん、なんだって? と千夜に尋ねるが

千夜はその問いに答えず、自分の荷物をひったくって、休憩所を飛び出した。

何かあったのかな? とナミは不思議に思ったが、大方見極めの話だろうと

思い、自分もホールに仕分け行こうと立ち上がり、帽子をかぶり

荷物をもって、外に出た。


外は、セミの大合唱に、トンボが忙しく飛び回っている。

空は真夏の色に染め上げられ、どこまでも青い。

暑いせいでお客さんは少ないが、それでも遊びに来ている人は楽しげだった。

途中、ウェーブスインガーの前を通った。

もちろんイロは伸びていた。

柵にだらんともたれかかり、まるで干された布団のようだ。

あ~、ナミちゃんお疲れぃ、と気の抜けた声で話しかけられ

ナミは、苦笑いをした。


「イロちゃん、伸びてるけど、ちゃんと水分取りなね」


そう言ってイロをなだめて、ホールに向かう。

裏口から入ると、マモとナグモ、ほかのエリアの数人が

どの色のイルミネーションを、どこに使っていくかを話しながら仕分けていた。

籠の中には、丸められたイルミネーションが入れられている。


「マモさん、ナグモさん。お疲れ様です」


ナミの声を聞いたナグモが顔を上げた。

彼は、イルミネーションを丸めていたのだ。


「ああ! ナミお疲れ」


マモは、何かを書いた紙と睨めっこをしていたが、ひょいと顔を上げて、何かを思いついたのか


「この案はどうだ!」


と叫んで、ダッと外へと駆けだしていってしまった。


「マモさんは、何かを思いついたようですね」


「そうだね。ニコさんは、絶対にいいよ。はしないと思うけど」


その言葉を聞いて、ナミはフフッと笑う。


「懲りませんね」


「懲りないあたり、イロと似ている」


ちょっぴり毒を吐いたナグモであったが、先輩であるマモを尊敬していた。


「さてさて。今年の夏は、どんな飾りつけをしようか」


ナグモは再びイルミネーションの色を分け始める。

緑色のイルミネーション、水色のイルミネーション。

金色のイルミネーション。銀色のイルミネーション。

夏は寒色系が合うだろう。

また、みんなでワイワイと飾りつけをするのだ。

ナミも、使えるイルミネーションや、直したら使えるものなどを

分けた。


外では、トンボが飛び回り、蝶がペチュニアに止まって休憩していた。


そして、千夜の楽し気なアナウンスが、空に昇って行った。

本題に入れそうでは入れない

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