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星が降る遊園地  作者: ミー子
夏~思い出を振り返る魔法~
6/17

休園日と雫の歌

日常と確信に近づくといいな

目も回るゴールデンウィークが過ぎ、6月になり、少し遊園地に落ち着きが見えたころ

千夜の働く遊園地は、毎週月曜日は休園日にしていた。

休園日は、いつもと違うことをする。

いつもはなかなか掃除できない操作室を整理整頓したり、乗り物の細かいところを

磨いたりした。

初夏を追いかけている風に、濃い緑の草木が揺れている。

梅雨の季節らしい、青く、さわやかな匂いが、誰もいない遊園地を駆けていった。


「カヤさん、カヤさん」


千夜は、メリーゴーランドの馬を磨きながら、エリア長であるカヤに話しかける。


「うん? なぁに?」


カヤは、メリーゴーランドの天井に作られている蜘蛛の巣や、張り付いているごみなどを長い棒で

取り除きながら千夜の呼びかけに答えた。

ニコとマモは、操作室の整理整頓を。

ナミとイロの若手組は水を汲みに行っている。

ユリコは、副エリア長のイクヤとともに、古くなった馬の装飾を付け替えていた。


「ちょっと、訊きたいことがあるんですよ」


なかなか取れない汚れに悪戦苦闘をしながらも、何とか言葉をつなげる。


「いいよ。何?」


カヤは、長い棒についたごみを払いながら、返事をする。


「カヤさんには、お姉さまがいると聞きました。そのお姉さまも、ここで働いているのですか?」


ん~とね。と、声を彼女は漏らす。


「ねぇさんは、今はいないよ。ねぇさんは、『始まりの遊園地』と言われている

星ノ音遊園地って言う山の中にある遊園地で、働いているの」


再びカヤは天井の掃除をし始める。

天井はガラス張りでできていて、天井の裏は、星をモチーフにした電飾が

暗く静まり返っていた。


「お姉さまの名前は、なんていうんですか?」


少し気になり、千夜はカヤの姉の名前を聞いてみる。


「インカ。インカねぇさん。すごくしっかりしているんだよ」


そして、最高魔術師とも言われていた。

はるか昔に栄えた帝国の名前だった。

かなり変わった名前を持つ人がいるんだな、と千夜は思った。

そして次には、インカに会ってみたいと思った。


「星ノ音遊園地に行く前、ねぇさんもここにいたんだけどね。

シューティング・スターの前にあった、ラビリンス・スターがなくなった後

ねぇさんも星ノ音遊園地に行っちゃってね」


どことなく寂しげにカヤは語った。

姉妹で、離れて働いている人は、恐らく沢山いるのだろうが、カヤも

そのうちの1人だ。

千夜は、1人っ子だったので、分からないが、カヤは寂しいだろう。

ぴちょん、ぴちょん。

雨が降ってくる音が聞こえる。


「あ~っ雨が降ってきちゃったよ~っ!」


ばたばたっと、走ってくる音が聞こえた後に、入り口を開ける音が聞こえた。

その後に、バシャっと、水がまき散らされた音が聞こえた。


「あ~あ、やっちゃった」


イロが目を回しながら、バケツを頭にかぶっていた。

ナミが、やれやれ、と頭を抱えている。


「イロちゃん、バケツの2個持ちはやめなさい。ってあれほど言ったでしょうに」


「持てると思ったんだってばぁ~」


溜息を吐きながら、頭からかぶったバケツをナミがとってやっている。

その姿を見て、カヤは笑い声をあげた。


「イロちゃん! いいねぇ!」


楽しそうなカヤにつられて、千夜、ナミが笑いだした。


「イロさん……まったく、笑わせないでください」


「イロちゃん! 後輩ちゃんに笑われてるよ!」


ナミもおかしそうに笑う。


「なになに? どうしたの?」


ユリコと、イクヤが馬の装飾をつけ終えて1週してきた。


「イロちゃんが頭からバケツをかぶって、みんなで笑ってたところ!」


カヤがイクヤに告げる。


「イロちゃん! 最高だねぇ!」


みんなの笑い声が響く中、マモが操作室から出てきた。

両手には、古い紙の束やら、古い操作マニュアルやら、昔のパンフレットやらを抱えている。


「なんだか楽しそうだねぇ。

ニコ! これはゴミ捨て場に捨ててくればいいんだよね?」


「そうだよマモちゃん。雨降ってきたからボロ傘でよければさしていって」


「いいよいいよ。急いで行ってくる」


マモは、飛び降りた瞬間に、段差に躓き

顔から地面にたたきつけられる寸前で受け身を取った。

びたーん! と音が響いた後に、古い紙の束が、倒れたマモの頭にはらはらと舞っていた。

その姿を見たニコは、爆笑する。


「あっははは! マモちゃん……格好悪い」


目を回しているマモとイロを見たイクヤはよく響く声で言った。


「まったく。マモもイロも最高だよ本当に」


そして、ユリコもナミに話しかける。


「まるで仲良しな兄妹みたいだよね」


「ええ、本当に。カヤさんもそう思いますよね」


「本当だよ、2人は最高に面白いね。千ちゃんもそう思ったりする?」


笑いすぎて涙を流している千夜は、コクコクと頷いた。


「よ~し! あの転がっている2人を片付けて、お昼ご飯を食べたら、シューティングに行こう!」


カヤは、よく通る、透き通った声で言った。

目を回しているマモとシュリを指して。

柔らかな雨が、メリーゴーランドに、全てに降り注ぐ。



休憩所で、昼食をみんなで食べた。

コンビニで買ったパンを食べる人もいれば、お弁当を自分で作ってくる人もいる。

千夜は自分で作ったおにぎりと、即席のスープを食べた。

ニコはカップ麺、マモも同じく。

ナミはお手製のお弁当。

イロは最近、巷で流行っているチョコミント味のメロンパン。

昼食はみんなでワイワイ、ガヤガヤとうるさく食べた。


「千ちゃんは、みそ汁の具なら何がいい?」


イクヤが花林にきく。

千夜がカップスープを飲んでいるところから発展したのだろう。


「やっぱり俺は豆腐とわかめ! かな!」


自信たっぷりに、マモが答える。

すかさずイクヤは突っ込んだ。


「マモには聞いてねぇよ! 千ちゃんに聞いてるんだよ!」


またまた笑いに包まれる。

表情を意識しなくとも、笑えるのが不思議だ。


「私は、ジャガイモとわかめですねぇ」


ユリコは、う~ん。と、首を少しかしげてから答えた。


「イクヤさん、きっついなー!」


マモは、缶コーヒーを片手に、椅子にひっくり返る。


「マモちゃん、残念だね」


にやりと笑うニコ。


「あたしはおいしければ何でもいいですよん!」


ヘラっと笑うイロ。


「イロちゃんは自分の嫌いな野菜さえ入ってなければ何でもおいしいんでしょ」


いつも通りなナミ。

彼女は基本冷静だ。


「もう! みんなうるさいですよ!」


ユリコは全く! と、ポカリスエットを煽った。


ほかのエリアの人たちから、笑いながら「第3エリアは、うるさいよ!」と言われても

気にしていない。

そろそろ休憩時間が終わる。


休憩時間が終わり、外に出た。

雨は、まだ降っている。

空が明るくなってきているので、もうじき止むのだろう。

傘をさして、シューティング・スターへと足を進めた。

植えられているアジサイは、色が濃く、鮮やかだ。

青紫色や、濃いピンクがなんとも言えず綺麗で、千夜はアジサイを横目に

みんなについていく。

シューティング・スターは、雨粒を受けて、鈍色の空にキラキラと輝いてる。


「よっし! 操作室を掃除して、車両を磨いて、ラビリンス・スターの“思い出”を掘り起こすよ!」


カヤは、三角巾を頭に結び、階段をあがってゆく。

その後にイクヤ、それに、ニコ、マモが続く。

ユリコ、ナミ、イロ、千夜は、それぞれ雑巾などを持ち、続いた。


操作室は、普段から簡単な掃除はしているものの、細かいところには行き届いておらず

埃が隅たまっており、薄く灰色になっていた。

灰色の部分を雑巾で拭き取り、いらない紙などは袋にまとめて捨てる。

ラビリンス・スターのマニュアルが出てきたので

捲ってみると、隅が黄ばんでおり、シューティング・スターが出来上がり

そのマニュアルが導入されて、以降は、まったく手を付けられていなかったことが伺える。

それを千夜は、不思議そうにパラパラと捲っており、隣からはシュリが覗き込んでいる。

いつから導入されていたのか、確認してみると、2000年だったことがわかる。

ラビリンス・スターは、確かニコが、20年前になくなったと、語っていた。

稼働年数は12年だ。


約12年はこのマニュアルを使い、解体されてからは、使われていない詰め所に

しまい込まれ、シューティング・スターが完成した2年前に

シューティング・スターのマニュアルとともにこの操作室に置かれ

誰も見ることもなく、隅に寄せられたのだろう。


「ラビリンス・スター……なんでだか、知っているような気がする」


古ぼけたマニュアルを小さな台において、ニコたちとともにホームや車両の掃除に加わった。

千夜は、昔の記憶を探し出す。

ずっと昔、お父さんと、お母さんに手を引かれて、この遊園地に来た。

そして、お父さんはラビリンス・スターに乗りに行った。

お母さんと千夜は、お父さんが戻ってくるのを、出口で、お母さんとアイスを食べて

ベンチで待っていた。

あの後、お父さんは笑いながら戻ってきたが、どうだったのだろう。

セピアの色に霞んだ、柔らかで不思議な記憶。


「思い出なんて、忘れてるようで、案外覚えてるもんだよね。とびきり綺麗だった

思い出は、色あせるにつれて、さらに綺麗になるんだよね」


イロと、ナミの会話が聞こえる。

ナミの言葉にシュリが返す。


「そうだねぇ。綺麗なものは、ずっとそのままなんだよ」


「ねぇ。知ってる? シューティング・スターができる前の、ラビリンスの噂

ニコさんが教えてくれたんだけど」


イロが、声を潜めてナミに話す。


「ええ? 何?」


車両にこびりついた汚れを取ろうとしていたナミが手を止める。


「女の子の霊がいるんだって。アイボリー系の色の髪に、真っ赤な瞳なんだって」


荷物を置く台を磨いていた花林はその声を聴いて手を止めた。

こっそりと聞き耳を立てる。


「日本人じゃないっぽいね」


ナミが相槌を打つ。


「なんでも、誰かをずっと待ってるんだって」


「なんか悲しそうな話だね」


それ以上は教えてはもらえなかったんだけど、とイロが締めくくる。


「ほら! 2人ともまじめに掃除する!」


カヤが、ナミとイロを叱り飛ばした。


「すいません!」


慌てて車両を磨く。

手が真っ赤になるほどに磨き上げ、車両は輝きを増した。

いつの間にか、ゴミを捨てに行っていたニコも戻ってきたので、カヤが号令をかける。


「よっし! じゃあ、思い出を掘り返そう」


階段を下りて、スコップやシャベルを倉庫からイクヤが持ってきた。


「この辺に埋まってそうだね」


土の地面を、カヤが掘り返していく。

ニコたちが見守る中、カヤが淡い色に光るガラス玉を1つ掘り返した。


「見て! この思い出! 懐かしい」


マモがガラス玉を覗き込むと、万華鏡のように、昔の思い出が見えた。


「これは、ラビリンスが出来た当時の思い出だね」


千夜も、覗き込む。

お客さんが驚いた顔や、泣きながら笑っている姿が映し出される。


「わぁ……! みんな楽しそう」


イクヤからシャベルを受け取った、マモとイロが夢中になり、地面を掘り返している。

彼らの周りには様々な色の、鮮やかなガラス玉が掘り返えされている。

カヤは、それらをニコとともに磨き上げて、かごに入れる。

千夜は、鮮やかなピンク色のガラス玉を覗いてみると、恋人同士がコースターに乗っている

思い出が見えた。


「ふふっ」


ラビリンス・スターの出口で、女性が男性に何かを怒鳴っている。

女性は涙まみれの顔で、男性は申し訳なさそうに、手を顔の前に合わせて

ひたすら謝っている。

恐らく、怖くないよと嘘をついて乗せたのだろう。

しかし、仲がよさそうだ。


「何か、見えた?」


ニコが千夜に話しかける。


「はい。これは、カップルさんの思い出です」


「どれどれ」


そのガラス玉を覗き込んだニコは、思わず笑った。


「後で、仲直りできたのかしら」


1時間以上も掘り返して、磨くという作業を繰り返していた。

ユリコは、ナミとともに色ごとにガラス玉を振り分けていく

紅い玉、黄色の玉、青い玉、緑の玉、オレンジ色の玉……

どれも、綺麗な色だった。


「全部、ラビリンスの思い出よ」


カヤが語る。

どこか懐かし気だ。

乗った人の数だけに、物語がある。

それは、千夜がこの遊園地に勤めてから、知ったことだ。


「千ちゃん」


カヤが、1つのガラス玉を千夜に手渡す。

セピア色の、柔らかな色のガラス玉だ。


「これは……?」


てのひらにのせられた、セピア色のガラス玉に、千夜は不思議そうに問いかける。


「覗いてみて」


カヤに促されて、覗いてみる。

目を見開いた。

お客さんとして、初めてこの遊園地に来た時の思い出だ。

それは、お父さんが乗っていた思い出。

戻ってきたお父さんは、お母さんと千夜に、全然怖くなかったと言っていたのに

乗っているときは、ひたすらに悲鳴を上げ、恐怖に顔を引きつらせていた。

ふらふらと車両から降りて、千夜とお母さんが待っているベンチに向かっている。

そして、合流して、感想を聞いたのだ。

お父さんは意地を張り、笑顔で、まったく怖くなかったと語っていた。


「意気揚々と行って、戻ってきて、本当はめちゃくちゃ怖かったくせに」


千夜は笑っていた。


「ラビリンスは、本当のことを知っていたんですね」


「そりゃあね」


カヤは答える。


「この子は、何でも知ってるよ」


もちろん千ちゃんのことも。

懐かしい思い出だが、このガラス玉はどうしようと悩む。

声もなく、サイレント映画のような思い出。

覗き込めば、ずっと覚えておける。

しかし、これは、自分の思い出であるが、同時に、ラビリンス・スターの思い出でもある。

千夜は、何となくラビリンス・スターに、返してあげたい気がした。


「カヤさん。この思い出、ラビリンス・スターに返してあげることは

できますか?」


カヤは笑顔で頷く。


「もちろん。何? 返したくなった?」


「ええ、お父さんの名誉のために。そして、これは、ラビリンス・スターの思い出ですからね」


千夜は、微笑みながらカヤにガラス玉を返す。


「1度見れば、十分です」


そのやり取りを聞いていたニコはよしっ! と声を上げる。


「じゃあ、この思い出を少しずつ、返してあげよう!

申し訳ないけど、しばらく思い出を見ていたいので、半分はまた今度ね」


ガラス玉がたくさん入れられている籠に、千夜の思い出を置いて、カヤは手をかざした。

籠の中の半分が輝いた瞬間に、手を振り上げると、鈍色の空へと舞いあがり

幾千もの粒に飛び散った。

その様は、星が散っているようで、美しかった。

まもなくして、銀色の雨が降り出した。


「お! 来たね」


ニコは短く声を上げて、人差し指で、雨粒に触れる。

そこかしこから、かわいらしい歌声が聞こえた。


「私の魔法、雫の歌です」


彼女は得意げに笑い、胸を張る。

千夜は、その歌が、まるで今は無き、ラビリンス・スターが歌っているのではと

錯覚した。

だらだらとすみません

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