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星が降る遊園地  作者: ミー子
冬~追憶の時~
14/17

光の粒に彩られて

核心に触れました今度こそ。

12月17日。星降りが丘遊園地に、イルミネーションが灯る。

17時になり、移動中の従業員や、お客さんの歓声が聞こえてくる。

幾百、幾千、幾万もの鮮やかで透明な光の粒が、鮮やかに木々を、花壇を、建物を

乗り物を飾り立てる。

星まつりの町で働いていた千夜は、イルミネーションが点いたことに気づかず、歓声を聞いて

そのことを知った。

星まつりの町の天井にも、イルミネーションが点き、子供がきれい! と声を上げた。

外を見て、思わず息をのんだ。


(私たちが、飾り付けた場所だ!)


自分が飾り付けたところは、輝きを増して見える。

ここはどこだ? と思うくらいに輝いていた。


「綺麗なイルミネーションですね」


小さな子供を抱っこしたおばあさんに千夜は話しかけられ、我に返った。

おばあさんは、銀色の髪を1つにまとめ上げ、ロングコートを着込み

すっと伸びた背筋は千夜よりも高く、なんとも上品な雰囲気を纏っていた。

子供は、1歳半ほどで、おばあさんに抱かれ、千夜をじっと見つめる。

ピンク色のかわいらしいコートを着ていて、短い髪は、星のヘアゴムでゆわれていた。

小さな手には、なぜか落ち葉が握られていた。


「ええ! ありがとうございます! 従業員が、飾り付けたんですよ」


思わず嬉しくなり、はきはきと答えた。


「あら、そうなの? 今日は、孫と遊びに来たのだけれど、広くて、びっくりしちゃったわ」


「お孫さんと、ですか?」


千夜は、子供と目線を合わせる。

きょとんと、千夜を見ていた。

おばあさんは子供をゆすり上げ、千夜に挨拶するように促した。


「おねえさんに、すごいですねって、ご挨拶して」


子供は挨拶する代わりに、手に持っていた落ち葉を千夜に渡した。


「あら? くれるの? ありがとう」


千夜はニコニコと受け取る。

おばあさんは、穏やかにに話しかける。


「こら。お姉さんに葉っぱを渡しちゃダメでしょ」


もらった落ち葉を胸ポケットにしまいつつ、千夜は自分がいるところが的あてゲーム

のコーナーにいたことに気づき、マジックテープのまかれたボールを1つ、子供に手渡した。


「はい。葉っぱをくれたお礼。よかったら投げてみて」


200円で3つなげられるボールのうち、1つを子供に渡して

説明をする。


「あのカラフルな的に、ボールをくっつけられたら、お姉ちゃんの勝ちね。

あの真ん中に当たらないで、ボールが外れて落ちちゃったら、私の勝ちだよ」


おばあさんはニコニコして子供に、あら、頑張らなきゃね! と話しかけて

子供は、千夜にめがけてボールを投げた。


「あら! ごめんなさい!」


おばあさんが、驚いて謝り、千夜は驚き、何が起きたのかを理解すると笑った。


(そうか。ボールをぶつけられたのね。ならば……)


「おねえちゃん。私に当てても何も出ないよ!」


千夜は、そう言い、場を巻き込んだ。いつも、イロが使っている手を、使ってみたのだ。

周りのお客さんたちは、その光景を見て、爆笑していた。

星まつりの町にいた従業員たちも笑っていた。


「赤ちゃんに持ち帰えられて、どうするの?」


影から様子をうかがっていたらしいイロに、頭をわしゃっとかき回された。

彼女のほうが背が低いので、つま先立ちをしている。

その姿がおかしくて、かわいらしくて、千夜はまた笑った。


「よかったら、そのゲームやらせていただいても、いいかしら?」


おばあさんが、200円を千夜に渡し、それを受け取り、とちょっと待っててください。

と、伝えて、ボールを用意する。

黄色、ピンク、オレンジの3つを渡して。簡単なルールを説明した。


「そのボールを、あのカラフルな的の真ん中に当てて、ボールがくっついたら1等賞で

豪華な景品を選んでいただけます。ボールが的の外側に当たったら小さな景品を選んでください。

当たらずに落ちたら、残念賞で、飴を1個だけです」


世知辛いですねぇ。と付け加えると、おばあさんはくすくすと笑った。

千夜も笑う。

星まつりの町にいる、皆の顔笑顔が、イルミネーションに照らされて、穏やかに、華やかに輝いていた。

従業員の笑顔が、お客さんの笑顔が、色どりが華やかなイルミネーションの光を受けて

どこか夢見がちな雰囲気に包まれている。

クリスマス・イブまで、あと1週間だった。なんだかワクワクしてきて

衝動的に、千夜は手に持っていたボールを的にめがけて投げた。

そのボールは、的には当たらずに、壁に当たって跳ね返り、千夜の足に当たる。

運悪く脛に当たり、思わず声にならない声を上げた。

その声を聴いて、子供はきゃははっと、無邪気に笑った。


「~~~!!」


布でボールを作るように、今度提案してみよう。そして、子供の無邪気さは

時として残酷であった。

そう。千夜は、ボールのコントロールが絶望するレベルで悪かったのだ。

おばあさんが軽くしかりつけている声が聞こえたが、そんなことは今はお構いなしだ。


(赤ちゃんに笑われた……)


「千ちゃん! おつかれ。交代だよ!」


絶望した気分でいると後ろからナミの声が聞こえた。

首だけを動かして、後ろを見ると、ナミが笑いをこらえたような表情で

交代に来ていた。


(み、見られていたのね……)


千夜は、ナミに、子供に笑われたところを見られて、顔を赤くした。


「お疲れ様です。ナミさん。特に異常はナシです。小さい子が多いです」


ナミには挨拶をして、引継ぎをする。おばあさんには


「引き続きこちらのお姉さんがご案内します」


と言ってその場を後にした。

目の前には、鮮やかな光を放つメリーゴーランドが、子供の微笑みを乗せて

オルゴールのような音楽を奏でていた。

隣では、中型のジェットコースター『ミルキィ・ウェイ』が、軽やかに走っている。

乗り物を担当している従業員が、いってらっしゃい! 楽し気に声を張り上げていた。

いつもは、サーカスのような音楽が流れ、太陽に照らされた、おもちゃ箱をひっくり返したような

にぎやかな雰囲気の遊園地だが

今は、キラキラとした、透明な光の粒が降り注ぐ、幻想的な空間に装いを変えている。

これで、雪が降ったらきっと、綺麗なのだろうと思い、空を見上げる。

藍色の空には、星が浮かんでいた。

休憩所まで、お客さんの笑顔を眺めながら、のんびりと歩いていると

ふと、視界の端に、ミルクティー色の影がよぎった。

その影のほうへ、目線を向けると、あの、夏の日に見た、女の子だった。

直感的に、追わなければ、と思い、後を追った。

きっと、今追わなければ、永遠に追いつくことができない。


(あの子を……)


連れて行かなければ。待っているあまねさんのところへ。

シューティング・スターのところに連れて行かなければ……!


「待って!」


思わず、声を上げる。

周りのお客さんたちは、何事かと振り返っていたが、気にせずに追い続ける。

遠くに、ミルクティー色の髪の少女が見えた。


「千ちゃん!」


後ろから、ナミの声が聞こえた。

ナミは、お客さんをよけながら追いかけてくる。


「ナミさん、星まつりの町は?」


立ち止まり、ナミに尋ねた。

星まつりの町は、激しく混むということはあまりないが

それでも、かなり混んでいたはずだ。

1人抜けたら、回らなくなってしまうはずだ。


「イロちゃんが、2人分働くから、大丈夫だよって言ってくれたのよ」


ふふふ、と笑いながら答える。

ナミの言葉を聞いたら、ほっと肩の力が抜けた。


「前に言った子を、追いかけているんでしょ? 

はやく追いかけよう。待っているあまねさんに、会わせてあげなきゃね」


ナミが千夜を促して少女が消えて行った方向に足を進めた。

恐らく、シューティング・スターの方向に向かったはずだ。

あそこは、ラビリンス・スターが、あったところだ。

クリスマス・イブの1週間前だが、奇跡が起きるのなら、起きてほしいと願った。

真冬の冷たい空気が、頬を撫でた。

千夜の、セミロングの髪が、風になびいた。

ナミのショートヘアが、風に揺れた。

夜空では、銀色の砂を蒔いたような星が、イルミネーションに負けないほどの光を放っている。

シューティング・スターは、遊園地の外れのほうにあるので、近づくにつれてあたりが暗くなった。

暗くなると、星が良く見える。

まるで、幾千もの銀色の鈴が、チリチリと鳴っているようだ。

星明かりと、月明りが、2人の従業員の顔を、青白く浮かび上がらせた。

シューティング・スターの近くには、沢山のお客さんが、ガラスのコースターに

乗ろうと、並んでいる。

シュルシュル。という音と、カラカラッという、乾いた轟音が繰り返し響く。


「手分けして探そう。15分後、ここに集合ね。いい?」


ナミは、自分たちが今いる出入口を指さしてから

入り口の人込みの中に、消えていった。

千夜は、降り口付近を探す。

茂みの中、人がほとんどいない詰め所付近も、念入りに探した。

何分か過ぎて、寒さで体が凍える。

人がいないので、何しろ寒い。


「どこ? どこにいるのよ」


震える唇で思わず漏らした。

辺りの暗さと、寒さで気がめいってきて、溜息が無意識のうちに出る。

光源が、シューティン・グスターのライトアップの明かりしかない。

ずっと同じ音を聞き続けて、気が狂いそうになる。


「なんで私だったのよ」


人間の自分に、できることなど、たかが知れている。

あまねに、似ているとはいえ、真っ赤な他人だ。

寒すぎて、手の感覚がない。足の指の感覚もない。


「もうっ」


人がいないのを確認して、植木を囲んでいる縁石に座り込む。

冷たいコンクリートの感触が、スラックスを伝い、染み込んでくる。


「私は、魔法使いじゃない」


人間よ。

誰も聞いていないであろう呟きは、轟音に溶けて消えた。

誰でもいいから、会いたい。

そう思い、立ち上がる。


「……? 何?」


ふと、視界の端に、微かな淡い黄色の光が見えて、顔を上げる。

そこには、淡い光が、人の姿をかたどり、立っている。

うっすらと、顔も見えたので、あまねだと分かった。


「まさか、あまねさん?」


恐る恐る口を開くと、目の前の女性は、頷いて、微笑んだ。

次回に続きます。

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