【8話】アンデッド騒動
【パルスティア王国・ルペン伯爵領(ストイレ町)】
この町では最近、アンデッドの出現が相次いでいる。
それも町のいたるところで突発的に出現するため、何か不吉なことが起こるのではないかと町の住人たちはおびえている。
町の役人や冒険者ギルドもこのことの原因の調査に臨んでいるが未だにその原因のしっぽすらつかめていなかった。
原因がつかめない中でも、アンデッド出現の報告は後が起たない、それどころかその出現数は日が起つにつれ増えていたのだ。
ゾンビやスケルトンの一体や二体なら真正面からであったら村人だけでも倒すことができたのだが、ここ最近では町のど真ん中に突然30体ものアンデッドが同時に現れ、賑わっていた夜の繁華街は騒然となった。
それ以来、町の中の警備はより厚くなりいたるところに警備兵が置かれるようになったが、それでもこの町の全域をカバーするには全く人数が足りておらず、ストイレ町の統治者であるドクトリン=ヴィクトリア=ルペンは頭を抱えていた。
「はぁ…どうしたものかねぇ、これは」
彼は、目の前に積みあがっている書類の山を見て思わずため息が出る。
この書類の山の大半はこの町の警備に関するもので、パラパラと紙をめくってみても
『南側への人員増加願い』
『東側の警備費用が未だに届いていない事に関して』
『南側のアンデッド被害による修理費』
『南側のアンデッド対策費用増量について』
etc...
「はぁ...」
どう考えてもこの量は一人でやれるような量ではない。
だからと言って他の奴に任せるのは不安が多い、基本的にここいら辺境の統治者など目先の自分の利益しか考えないような馬鹿ばかりでもし費用を与えたら何かにつけて予算の増量を言ってくる。
だがまぁ、そんな奴らにも一応は脳はあるようで、自分を守るための防衛費は比較的有効に使ってくれるのは唯一の救いだ。
コンッコンッ
そんなことを考えていたら突然ドアがノックされた。
一瞬この忙しいときに誰かと思い眉をひそめたが、この忙しいときに空気を読まず入ってくる者など一人しかいない。
「入れ」
ガチャリとドアが開かれ、赤いドレスを着た一人の女性が入ってくる。
彼女はティタ―ニア=ヴィクトリア=ルペン、我が愛しの妻だ。
ティタは銀のトレイを手に持っておりその上にはティーカップとポットが置かれている。
「そうため息ばかりついても始まりませんよ?」
「外まで漏れていたか?」
「えぇ、私ものすごく入りにくかったです」
彼女は私の机にティーカップをそっと置き慣れた手つきでその中へ紅茶を入れていく。
入れられた紅茶から出てきた香りを吸うと、少し気分を切り替えることができた。
「そうか、それはすまなかった...とはいっても、やはりこの量を前にするとため息もつきたくもなるだろう」
目線を目の前にそびえたつ書類の山へと落とす、本当にみるのも嫌になる量だ。
「そういうものはつべこべ言わず片っ端から片付けていけばいいのです!それが一番早く終わる方法です!」
彼女は置いてあったインク瓶を自分の近くへと近づけ、羽ペンを手に握らせる。
「ティタ...そなたはなかなかに鬼じゃな、そういう時は励ましの言葉を最初に欲しいところなのだがな」
「早く終われば、その分私とあなたとで一緒にいられる時間が増えるのですから、そのためには私は鬼にもなりますよ」
「わかったわい...それじゃ、終ったら一緒にどこかへ旅行へ行くというのはどうじゃ?」
最近では各地でのアンデッドの出現によって夜の野外での活動は控えるように執事などに言われるが、この仕事が終わるころにはそれも終わっていることだろう。
そうすれば星のきれいな丘に行き熱い一夜を過ごすのがいいかもしれないな。
そんなことを思っていると顔がだらしなくなっていることに気づきすぐに顔を元に戻す、幸いティタは自分がいたことを考えてくれているようで別の方向を向いていた。
「そういうのは終わる目安がついてからいうものですよ、でも旅行ですか...フフフッいいですね、行きましょう」
まるで聖女のような微笑みに久しく自分の心が高ぶるのを感じる。
「よかった!!ならば早く終わらせねばな!!」
「がんばってください、それじゃあ私はこのあたりで...」
彼女はすっと座っていた椅子から立ち上がり、扉へと向かう。
「おう!ティタのためにも頑張るぞい!」
そういってこの領主はこの後3日三晩寝ることなく仕事を続けるのであった。
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【テトラのお店】
あれからしばらくの間、テトラと俺はいろんなことを話をしていた。
話し始めてからこの国の経済状況だとか、周りにどんな国があるのかとか、周辺国の動きがどうだとか政治的経済的な話ばかりをした。
最初は俺からの一方的な質問攻めだったが、次第にテトラから俺に対する質問や俺からテトラに対する質問をするようになっていった。
そして、一番気になったのが今の話。
「アンデッド...ですか?」
「そうです、近頃はどこからともなく現れてっという被害がいろんなところであるんですよ」
「突然っていうと集団墓地や洞窟からではなく町中に突然ということですか?」
「はい」
ふむ、町中に突然アンデッド...そんなことがあるのだろうか?
アンデッドの常識としては墓地や洞窟から現れるっていうのが定石だろうし、もしやここがゲームで言う湧きポイントに設定されていたとかいうのだろうか?
いや最近現れ始めたっていうことは前まではなかったんだろうしそれもなしか...
「最近なにか起こった変化とかってないですか?」
「変化ですか?いえ、特には...」
変化も目立ったことは起こってないってことはこれは自然災害とみるよりも人為的だと見たほうがいい。
自然災害であるならばすぐに解決はできないだろうが、人為的ならばいくつかアイテムを使えばすぐに解決もできるだろう。
そして変化もないってことは上位魔法【スポーンアンデッド】でアンデッドが作り出されたってことはないかな、あれは追加効果で範囲内が霧でおおわれる効果があるし。
と、なるとアンデッドを作り出せる方法は極級魔法【滲み出る屍】、極級アイテム【屍の宴酒】か【冥府への道(序)】の三つだ。
ただこの中で継続的にアンデッドを発生させれるとなると極級魔法【滲み出る屍】と【冥府への道(序)】の二つだ。人為的に考えられるとすればこの2つ...いや、この世界特有の魔法や魔法道具ということもあるか?
といっても今考えられるのはこの2つしかないのだ。
このどちらであったとしても俺には探し出す方法はあるのだ。
【報復への執念】と呼ばれる超級アイテムで、アイテム、魔法を使った人物の特定をすることができるのだ。
一応それへの対抗策としての魔法も存在するのだが、そこらへんはこちらも対抗アイテムを重ねることで対応できる。
自分一人で物量戦術ができるというは生産職だからこそできる戦い方なのだ。
「あの、ウェシルさん?急に黙りこんでどうかしたんですか?」
そう考えているところにテトラが突っ込みを入れる。
「おっすまない、アンデッドが湧き出てる理由を少し考えていたんだ」
解決する方法は浮かんだが、このアンデッド騒動勝手に終わらせて良いものだろうか?
ふとそんなことが思い浮かぶ。
「すごく真剣に考えているようでしたが何かわかりましたか?」
「あっうん、一応どうやれば犯人が見つかるのかまでは思い付来ましたけど...」
「そうですよね、領主が総出で探してわからないですし当たり前___っていまなんて!?」
テトラは手に持っていた紅茶をこぼしそうなほどの勢いでリアクションをする。
「いや犯人を特定する方法を見つけただけですよ?」
「いやいやいや!?それだけでもすごいですって!」
「そうですか?てっきり犯人がレジストしているから捜査が難航してると思いましたけど」
レジストとは逆探知を防いだり、それに対してのカウンター魔法を仕掛けることだ。
だから俺は初期の逆探知系魔法である上位魔法【復讐の灯】の上位互換である【復讐への執念】を使おうと思っていたのだが、まさか逆探知系魔法を使っての探索をしていないとは思ってもいなかった。
「そもそも逆探知の魔法なんて王都の中の一握りしか使えない魔法じゃないですか?」
「は?」
思わずそんな声が出る、ゲーム内ではほとんどの人間が超級魔法やら神級魔法を打ち合うのが当たり前であったため、感覚が少し違うのだろうが自分とこの世界のレベルとの差にあまりにも自分の存在が異様であるように感じた。
だが、これでもし誰かほかの戦闘職の人がこの世界に来てたら、この世界の均衡が崩れるようなバランスブレイカーだぞ...
もし神がいるならばその神になぜこの世界にと疑問を言いたくなった。
「あの、また何か考え事してるところ悪いんですけど、もし何かわかったのなら領主様に報告するのがいいのでは?」
テトラの言葉に、確かにと思うが、よく考えればそれは無理だろう。
「いや、俺みたいなまだこの国での戸籍登録もしてないような人間の話をその領主がホイホイと聞いてくれるとはとても思えない」
俺は、この世界に来てから未だこの国の住人として認められるような手続きはしていない。
そして俺はどこかから許可を経てやってきたというわけでもないため、実質不法入国に近い。
「であれば、冒険者ギルドで登録してきたらどうですか?」
冒険者ギルド、先からの会話で何度か登場する異世界ラノベでは当たり前に存在する組織、当然この世界にもあった。
テトラの話を聞く限り、冒険者ギルドでは難民保護の名目で住民登録ができるらしい、もちろん冒険者という職で登録されるため実際には傭兵を格安で手に入れその代わりに登録をするといった感じらしい。
「なるほど、今からの動きだったらそれが一番いいかな」
「でしたら!冒険者ギルドまで案内しましょうか?これのお礼も含めて」
テトラの手にはポーションがもたれている。
借りを返す意味を踏まえてとあるが、今までの会話で彼女なら何も借りがなくとも案内してくれそうな気もするが、この際は彼女にも不満が残らないようにそれを引き受けるのがいいだろう。
「はい、それじゃあお願いします」
彼女は急いで外に出る準備を始める。
そして、数分後彼女は白いレースに麦藁帽のようなお茶を飲んでいた時とは正反対な服装をしていた。
だが彼女の性格的にはそれが一番会う気がする、というかすごくかわいい。
「はやく行きましょ!もうお昼も過ぎてるんですからぁ!」
そうして俺は彼女の後ろをついて行き、冒険者ギルドを目指すのだった。
うん、眠い
なぜか最近すごく睡魔に襲われます。当然今も。
今回はちょっと文字数多めです、何か誤字脱字あったら教えてくれると幸いです。