【1話】異世界転移
#8月10日編集
タイトルの変更
西暦2029年『Ω-オメガ-』正式サービス開始1年後
ガチャリと音を立て夜の民家のドアが開き、開いたドアからフラフラとした足取りで人が入って来る
「ふぅ〜〜疲れたぁあああ」
仕事帰りの疲れた声を発しながら無駄に広いリビングのソファーに一人の男がぐったりと横たわる
しばらくの間ソファーへ寝転んだ男はその重い体をゆっくりと起こし、無言でテキパキと仕事用のスーツから寝巻きへと着替えるとカバンの中からエナジードリンクを取り出し一気に飲み干す。
「ぷっはぁあああ!やっぱ◯ンスターは最高だぜ!!」
すでに時間は深夜の1時を過ぎているというのだがそんなことは彼には関係がない、今日一日仕事でたまった疲労とストレスを吐き出さねば仕事なんぞやってられない!!今の彼の中にはそんなことしか頭にないのだった。
彼の名は黒井 誠、22歳、独身サラリーマン、童貞
趣味はゲーム
ちなみに彼女はいたことがない
彼は飲み干したエナジードリンクをデスクに置くとソファーの傍に置いてあったVR機器を手に取る
「さあて!今日もやるかぁ!」
自分の声が広いリビングに響き、次の瞬間には静寂が訪れ、それと共に虚しさも訪れる。
まだ住み着いてから間もないためほとんど汚れていない部屋は、一人暮らしという物を強く実感させてくる。
「やるか……」
一人暮らしでの寂しさに苛まれ、凹んだ心を癒すべく手に持ったVR機器を頭へと装着する。
そして、VRを起動する。
すると真っ暗な視界に白い文字が浮かび上がってくる。
__________________
システムチェック………以上なし
起動するゲームを選択してくだs___
「『Ω-オメガ-』」
起動ゲーム……『Ω-オメガ-』
ログインパスを確認します
「114514」
ログインパス確認中……承認しました
プロフィールデータ表示
プレイヤー名……『ウェシル』
キャラクターLV,264
種族:エンシェントドワーフ
職業:オールマターメイカー《創造者》
所属:☆ヘルメス☆商業ギルド
このキャラクターで間違えないでしょうか?
[はい] [いいえ]
「はい」
それでは、起動します………
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白い光が視界を覆い、すぐさまその光が収まり視界には少し薄暗い机が入る。
顔を上げるとそこには『黒井 誠』……もとい『ウェシル』のよく知ったおっさんが座っていた。
「やあ、『めかぶmkⅡ』さん」
そう呼びかけると『めかぶmkⅡ』と呼ばれた人物がこちらに気づいたようでハッとした顔をする。
「おぉ!やっと来たかおっさん!」
「まぁ、ここは俺の店だからな……ってかおっちゃんって呼ぶのはやめろよな?見たくれはぴっちぴちな少年なんだからさ、というかリアルでもおっさんじゃねぇっつの!まだ22だぞ!?」
そう、ここは俺の店だ。
そして今、目の前に座ってるこの人は俺の店じゃ珍しい常連客の一人で、このゲームじ有名攻略サイトにも情報を上げているガチ勢と呼ばれるプレイヤーの一人だ。
ちなみにこの人とはゲームを始めて早々のころからのフレンドで、前に一度だけこのゲームの運営主催のオフ会イベントで顔も合わせている、だからこの人からはおっさんと呼ばれてるのだ、俺は22歳なのだが若年寄な顔をしており、顔だけ見れば35歳に見える...らしい
逆にこの人はゲーム内ではおっさんなのにあってみたら意外に若く23歳で、俺と彼は1歳しか変わってなかったのだ、ゲームの世界の見た目っていうのは当てにならないというのを痛感した時だった。
平日は深夜しかやっていないためここへ来る客は俺と同じ社会人、もしくは彼のようなガチ勢なのだ、知る人ぞ知るっていう感じの店だが客数は少なくはない。
というより、このゲームの巷では俺の作っている武器や薬品の性能がいいと評判らしく、高値で買い取ってくれる人が多いため売り上げ自体は普通の鍛冶屋やアルケミストより稼いでいると思う。
まぁ、それでも俺の入っている商業ギルドの中じゃ下から数えた方が早いのだが、うちのギルド全体の稼ぎが今の『Ω-オメガ-』内じゃ一番なんだから俺も持ち金は中上位だと思う。
それはそうと、早くうちのギルドの稼ぎ目標達成させとかないとなぁ、まだ達成してなかったのか……まぁ最近は仕事疲れで長時間ログインできてなかったし仕方ないか。
さっさと開店して掲示板にでも報告しとかなきゃな。
……ん?そういえばまだ俺の店は開店してないはずなのにどうしてこいつがいるんだ?
「まだ開店してないのにどうしてここに?」
「あぁ、うん、ずっと待てったんだ」
「……前回のログアウトからですか??」
「そんなわけあるか!お前、前回のログイン4日前だぞ?俺は延々としたレベル上げは好きでもただ待つのは苦手だって前に言ってたろ?」
「でもよくわかりましたね、私がこの今日ログインするって」
「いや、お前が今日ログインするなんてわかるわけねぇじゃねぇか、ただ最近見ねぇから顔を出したら偶然ログインして来たってわけだ」
「それは僕のことを心配してくれてということですか?めかぶさんってそんなに優しい人でしたっけ?どちらかといえばリアルの電話を鳴らしてまで「ウェシルぅ〜最近ログインしてせえへんな〜ギルドのノルマは達成できるんやろなぁ〜?」っていって来るようなイメージでしたけど」
そう言われると、めかぶさんは頭の上にビックリマークがつきそうなほど表情を変化させる。
「おいおい、俺のイメージってそんなんなのかよ!」
そういうとどうやら心当たりがあるったようで、苦笑いをしながら話を続ける。
「…まぁ、俺がただ心配して見に来たわけじゃないがな」
「ほらやっぱり」
「でも少しは心配してたんだぜ?武器製作のついでくらいには」
「ついでってところがめかぶさんらしいですよ。それで?武器の制作にきたんですよね?早く素材出してくださいちゃっちゃと終わらせますから」
「おうよ!」
そういうと『めかぶmkⅡ』は突然何もない空中へ向かって手を伸ばす。
すると空中に亀裂が入りインベントリが開かれる。
そのなかから慣れた手つきでモンスターの皮や鱗などをだし、机の上へ並べていく。
そして全ての素材を出し終えるとインベントリを閉じ、それをこちらが見えるように押し出してくる。
「んーっと、これは確かクシャナの鈍皮、そしてこっちは烈冥龍の鱗、でこれは腐れカブトの素材一式か……」
「作るのはアルニグマ、もしくは不浄の鎧だな?」
「おぉ!やっぱりそのレシピを知ってたか!えっとな、今回作って欲しいのは不浄の鎧のほうなんだ、早速頼めるか?」
「あぁ、もちろん」
素材を見て作る物を察するのは鍛冶屋として当然だ、と他のMMORPGプレイヤーなら言うだろう。というより、ほとんどのゲームでの防具や武器製作なんてシステム上の簡略化で素材さえ集めれば掲示されている武器防具を作れるというのが定番であるため、覚える必要すらないというのが従来のMMORPG
というものだ。
もし生産職に手を入れているゲームであっても、大抵は防具の種類が少なかったり加工ができないなどの制限から日本人の物作りへのこだわり、つまりクリエイト魂を満足させるには至らないものが多かった。
だがしかし、このゲームのやり込み要素として上級以上の武器防具の製作にはまず研究者と呼ばれる職が億を超える素材同士の組み合わせを試してレシピを見つけるところから始まり、何度か回数を重ねることで武器や防具の設計図として鍛冶屋が作れるようにする必要がある。その設計図においても素材の消費を少なくしたり、その機能の変更など細かいところまで設定できるため、研究者が作れる武器防具のレシピだけで言ってもその数は計り知れない。
新たに発見されたレシピなどは自動的に全生産職のレシピブック(生産職を取ると最初に手に入る本)に登録される。
そして、ここからようやく鍛冶職が武器を作ることができる。
鍛冶職が作り出した武器にはNPC鍛冶屋にはない能力補正がかかる、そしてその能力補正というのは鍛冶屋の武器を作ると溜まっていく熟練度によって振れ幅が生まれる。
熟練度が一定以上上がると、防具の見た目を変えることができたり、色を変えたりもできる。
ちなみに、ウェシルの職業はオールマターメイカー《創造者》となっているのだが。
これは全ての生産職の最終職まで行ったということを表す。
全ての生産職(【研究者】【アルケミスト】【鍛冶屋】)を最終職にするには、最低でも200lvが必要である。
そして今の俺のレベルは264、つまりレベルのほとんどが生産職に費やされているということになる。
あとの64lvも【盗賊】を派生させる事で手に入る【探索者】を手に入れるための40lvと最低限の防御を確保するために【剣士】の壁職である【護衛】を取るための20lv
そして、最近育て始めた自分で素材を集めるために必要な戦闘力を確保するための【魔術師】を4lvという感じなのだ。
俺の商売のやり方は基本的に素材を貰って商品を渡すという加工貿易のようなやり方ばかりやっている、戦闘に関してはおまけという感じだ。
ってなわけで、俺は完全にこのゲームの戦闘面を無視して全てを生産職に捧げているために作れる武器はこの世界で最高品質なのは保証できる。
「それじゃ、ちょっと待ってて下さいね」
そう言いながら素材を手元に取りそれを炉へと投げ込む。
すると、炉の中から光の粒子が出て来てウェシルの目の前にある金床に集まる。
そしてその集まった光へ向かって金槌を振るう。
カン!カン!カン!
音を立て金床を叩くごとにその光の塊は防具の形へと変わって行く。
「あ、そういえば色の指定とかあります?」
「え、できんのか!?ってか熟練度足りてるのか!?」
「あぁ、うん全然足りてる、もう少しでmaxになるくらいには」
今作っている不浄の鎧っていう装備は前回ログイン時の少し前にレシピが発見された新レシピで、その装備の情報が公開されて知ったから速攻ログインして熟練度を作りまくって上げてたから熟練度が高いのだ。
まぁ。そのせいで寝不足になって仕事に影響出て大変だったんだよなぁ
それでも俺はスミスの最終職【アルティメットスミス】である以上熟練度の上がりも早いはずなんだがなぁ……
やっぱ最上位スミス装備一式(課金装備)で染めた方がいいのかなぁ…あぁ、これはまた貯金が飛ぶなぁ
そんなことを思っているウェシルをおいて、唖然とした顔を浮かべているめかぶさんが今度は少し呆れが混じった顔でこちらを見てくる
「まぁ、できるんならそれでいいが良いけどよ、当然金は余分に取るんだろ?」
「そんなのは当たり前だろ?色素材を買うにも結構高いんだし」
「ん〜……どうしたものかねぇ」
「ちなみに言っておくけど、『Ω-オメガ-』内じゃまだ不浄の鎧を色付け出来るスミスは聞いたことないぜ?」
普段の丁寧語とは口調を変え、悪徳業者っぽい口調で買おうか迷っているめかぶを揺さぶる。まぁただのノリなんだが。
「ちょっと待ってくれないか?俺今持ってる手持ち金がこれ作る最低限しかないんだ、取り敢えず今作った色無し状態のお金出しとくから、取りに行くまで待っててくれないか?」
そいうとめかぶはインベントリを再び空中に開き、クリスタルのような物を取り出す。
それは、転移クリスタというもので特定の場所に瞬時に移動できるアイテムだ。めかぶさんが取り出した転移クリスタの追記欄には(マイホーム)と書いてあることから自宅用のものだということはわかる。
「つまり追加料金を取りに行くのか」
「そゆことだ、だからちょっと待っててくれよ」
「はいはい」
めかぶさんはその答えを聞くとそのクリスタを掲げる。
するとめかぶさんを中心に魔法陣が展開され、次の瞬間には地面に沈むようにめかぶが消えて行く。
めかぶさんが魔法陣に完全に沈み、魔法陣が消滅する。
「ふぅ、じゃあ取り敢えずこっちも色付け用の素材出すか」
めかぶさんは関西人ということで、口は多少悪いが決して悪い人ではないというのは何度か雑談しながらの作業で知ってる。
それに、あの人はどっかのギルドの長を努めてるって言ってたし約束を破るとは思えないから付けたい色を先に聞いとけば取りに行ってる間に色付けでもして上げたのにな……
そんなことを思いながら防具に色をつけるために必要な素材を倉庫の中から出しておく。
「あっやべ、銀色素材と桃色素材が足らない……」
すぐに銀色と桃色を作るために必要な素材をレシピブックで検索する。
「えっと、必要なのは銀龍の涙と潤滑油…それと桃猿素材か」
必要な物を確認すると自分の工場に備え付けてある倉庫の中を確認する。
しかし、倉庫の中には大量の素材が入っておりどこに目的のものがあるかなど検討がつかない。
そんな時はまぁありきたりなシステムだが整理機能を使うに限る
「検索:銀龍の涙・潤滑油・桃尻猿の毛皮・桃尻猿の体液」
そういうといろいろなものが散らばっている空間にある条件に合わないものが消えていく。
やがて、条件に合ったものが残り、目の前に現れる……はずなのだが
倉庫の中からは全てのものが消えてしまった。
嫌な予感がするが、もうしばらく待ってみる。
そして続けて空間にシステムの文字が現れる。
【お探しのアイテムは存在しません】
やっぱりか〜……
「めかぶさん、付けたい色が銀色と桃色じゃなきゃ良いけど……」
そして、もし付けたい色が銀か桃だったらどうしようか、どうやって謝ろうかと考えているうちに数分が経過する
「にしてもめかぶさんにしてもおっそいなぁ」
すでにめかぶさんがここから出て15分以上経ってる、お金を取る動作なんてホームに戻れば直ぐに行えるはずなんだが。
「…まさか寝落ちなんてしてないだろうな?」
少し冗談のつもりで言ったのだが、めかぶさんは変なとこでマイペースだったりするしも
しかしたら本当に寝てるかもしれないな。
そんなことを考えながら、めかぶさんがお金をとって戻ってくるのを待つことさらに数分……
「これはまさか本当に寝落ちか?だったら素材でも買い出しに行きたいんだが」
空中にシステムコマンドを出し、伝言板という機能を選択する。
「[めかぶさんへ、お金取りに行くの遅すぎです!でもすいません、私も色素材の一部が足りなかったので買い出しに行かせてもらいます]っとこんな感じでいいかな?」
そして、それを店内のどこにいても見えるような店のド真ん中に浮かばせる。
次には買い出しに行こうとルピア(ゲーム内マネー)を取り出す。
その金額を脳内の片隅に入れている素材の相場と比較し、少し多めに取り出しておく。
そして、今日ログインして初めての街への扉が開かれる……はずだった。
いや、そこが街であることには変わらなかった。
ただこの店がある場所は街の中でもわかりにくい裏路地にあるため、開けると直ぐに見えるのはレンガでできた裏路地の壁のはずだ。
そして、この店がある裏路地は日光も通らないため『隠れた名店』という雰囲気を醸し出し
ていたはずだった。
しかし、開かれた扉からは眩しい日光が入り込み仮想現実とわかっていても思わず目を細めてしまう。
その時点で何かがおかしい、バグったかとも思ったがそんな考えは目が光になれると打ち消されることになった。
目の前を馬車が通り過ぎる、
そしてガヤガヤとうるさい人々が目の前をせわしなく歩いて行く、
目の前にあるのは裏路地のレンガなどではなく、ひらけた街の道路だ。
そして、しばらく唖然となっていたウェシルはゆっくりと口を開く
「ここ………どこだ?」
ウェシルは目の前に映るいつもとは違う光景にこれまたしばらく唖然となる。
そう、玄関を開けて出た場所……そこは異世界だった!
『Ω-オメガ-』ないの通貨はルピアです。
日常会話の中では金と言っていますがルピアです。
そして、主人公の独り言が多いのは長年の一人暮らしだから、という設定にしておきます( ´ ▽ ` )
誤字脱字あったらいってね!