6オルター入手
そもそも、なぜ丸腰なのか?
服が用意されているのに、それ以外は用意されていないなんてあり得るのか?初期武器すら存在しないのか?キャラクタークリエイトの武器選択とはなんだったのか?と、ソウルオルターの事前情報無しだとこの現状に放り出されたら考えてしまうだろう。
通常武器がないなら、武器を用意するためにクエストをこなしたり、購入するための行動を起こすだろう。
しかし、ソウルオルターに用意すべき武器は存在しない。メイン武器となる物はプレイヤー側には存在しないため購入することもできない。だからこそ、プレイヤーは最初にオルターと言う武器を手に入れる必要がある。
アキラが立ち止まってオルターの獲得を決めたのも、テスターからのまとめ情報があったからだ。ソウルオルターにインして【1番初めにすること】と書かれた項目がある。
そこには「必ず最初にオルターで攻撃手段を確保すること」と書いてあった。なぜならそのまま指示を無視したら、丸腰の状態で敵が蠢くフィールドに放り出されるためだ。
メニューも閉じることもできず、鬱陶しい視界のままにフィールドを探索する羽目になるくらいなら誰もが最初にこのクエストらしき物をこなすだろう。
そもそもオルターとはなにか?
オルターとは、自分の魂から作られる武器であり、自分の分身とも呼ぶべき存在である。キャラクタークリエイトで武器を決めたプレイヤーは、武器と同時にオルターも決めていたのだ。そしてオルターとはプレイヤーが一から育てる疑似人格を搭載している。これはAIであり、人らしい感情を持つ武器となる。
と言うのは、アキラが事前情報を調べてわかっていたことだ。
「最初に武器が手に入るなら、是が非でも手に入れなくちゃな!」
アキラは心配事の一つが片付きそうなのを感じて、安心しながら表示されている指定箇所に触れる。
しかし、この心配事が片付く頃には、2段も3段も上の厄介事がやってくるのだが、この時のアキラは知る由もない。
触れると同時に、狼が一頭林から飛び出てきた。アキラは、マジでフラグだったのか!?と焦るが、狼はこちらを伺ったまま一向に動かない。頭上には〈フォレスト・ウルフ〉と表示されていた。
アキラが訝しんでると、いつの間にか半透明のウィンドウが表示されている。
(パニクり過ぎてて気づかなかった…なになに【魂を覚醒させてオルターを呼び出せ!】ねぇ…)
ウィンドウに記載された説明には、選んだ武器を使っている自分や、武器のモチーフ等を想像しよう!と出ている。
取り敢えず武器が手に入ると言うことと、事前情報の通りになるかを実験するため、記載されたことを実行する。
キャラクタークリエイトで選択した武器に明確な自分をイメージするため目を閉じ、イメージを始める。
この時既に、アキラはフォレスト・ウルフのことは忘れさっていた。
イメージはやはり出来る限り自分が考え得る最高形だろう。アキラが使いたい武器とは、銃である。
アニメキャラクターのように、アクション映画のように銃を自由に使い、銃を使った格闘技を扱う自分を妄想する。
一度の攻撃で地形を変え、山を吹き飛ばすような威力の弾丸。
そして、狙う対象に対してのみ癒やしを実行するゲームで見たことのある銃撃。映画やゲームならではの利便性の高い行動。自分がやってみたいと思うアクション。イメージによって攻撃方法を生み出せるための銃。実用的ではないがゲームならなんとかなりそうな二丁拳銃を扱う自分。拳銃を握りながら行う格闘技。
一度始めると、妄想は止まらない。事前情報でこのことを把握していたアキラは、ある程度構想を練っていたので尚更だ。アキラのイメージもとい、妄想は止まらない。
アキラはイメージだけでなく、それぞれの考える銃に対してモチーフを付ける。アキラは銃だが神話のモチーフをイメージする。
なぜなら、その方が強そうだからだ。
ではなく、このモチーフはテスターの助言が出てから考え続けていた案の一つだからだ。
何故こんなにも武器をイメージするのに、大袈裟とも言える時間とイメージをしているのかというと、これも同じテスターの言葉にオルターを創造するのに重要なことは「イメージだ」とあったからだ。
「ゲームなのに想いに意味はあるのか?」と言う意見が大半を占め、テスターを装った未プレイ者の悪戯だろうと意見が出た。
しかし、アキラはそういうのは嫌いではなく、今起こっているファンタジーな現状を鑑みると大切なことに違い無いと考え、ひたすら思い描く。
イメージが終わると目を開け、息を吐き出す。なんで自分はこんなに銃のことを考えているんだ?と集中して疲れたせいか疑問に思い始めるアキラだが、とあるアナウンスがその寝ぼけた思考を打ち消す。
【魄の定着を確認】
ソウルが共鳴した。
オルターを獲得した。
どの位の時間そうしていたのか、森林から差す日差しが更に強くなる頃、女性っぽいアナウンスと共にアキラの目の前に一丁の黒い銃が出現した。集中力を欠いたアキラは、その銃を受け取れずに土の上に鈍い音を立てて落下する。
その存在を主張するかのように、地面に一丁の白い線が3本入った黒い、見た目自動拳銃らしき物が落ちていた。短くはない時間を掛けてイメージし、そのイメージが完了と同時に完成アナウンスが流れたのだ。
アキラは自身が妄想したマグナムタイプの凄くゴツい銃を期待していた。妄想では強そうな銃を手に入れる予定だったのだ。
そして、アキラが第一印象を一言呟く。
「イメージ関係無いじゃん…」
そう、アキラが思い浮かべた銃と落ちている銃は見た目全く別物だった。一般的にベレッタと呼ばれるタイプの銃が地面に横たわっている。