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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
174/175

165出会い

1年振りでごめんなさい。書きたいんですけど、こう…はい。

何言っても言い訳にしかならないんですが、予定だけお話すると更新はしたいですけどペースはお察しください。


 アキラが装備を取り戻した頃、リョウとトリトスは人形のメンテナンス用として割り当てられた個室で脱獄させるための細かい打ち合わせをしていた。


「――ってことなら夜にでも翠火さんと合流出来ないか試してみるか?」

『……え、ええ』


 たった今まで会話していた筈だった。だが今気がついたとでも言わんばかりの生返事を返すトリトス。


「……」


 リョウは前々から抱いていた反応の悪さに目がいく。


「トリトス……本当にどうしたんだ?」

『いえ、問題は――』

「あるよ」

『……申し訳ありません』


 リョウは鼻で笑って腕を組む。トリトスは落ち込んだかのように目線を下げた。


「もう! 止めてって、そんな柄にもなくシュンとするの」


 今までと違い、ここの所加速度的に人間らしくなっていくトリトスに新鮮味を覚えるが、今はそれを置いておく。


「嫌味の一つでも言ってきなよ! ……あ、いやトリトスにそんなつもりは無いのはわかってるんだけど」

『?』

「あぁそうじゃなくて! なんか妙にボーッとすることがあったけどさ、この前再起動してからそれが多くなった。気のせいでもなんでもなく、間違いない」

『……』

「お前自身理由はわかってるの?」

『…………大凡の検討はつきます』


 絞り出すようにゆっくりと、しかしはっきりと聞き取りやすい声がリョウの耳に届く。


「どうして言ってくれなかったんだよ?」

『それは…………リョウ』

「ん?」

『覚えていますか? 私と貴方が出会った時のことを』

「そ、そりゃぁね」


 頬を指で掻きつつ照れたように返す。トリトスは優しげに目尻を下げ穏やかに振り返る。

「初めてオラクルに来てトリトス(お前)と出会った時は驚いたってもんじゃないよ。だって――」









 重力に振り回されるように宙に浮くドームにリョウは侵入した。精神的にも肉体的にもばてていたため、デッサン人形を大きくしたリョウ独自のオルターに肩を貸してもらいながらなんとか奥へ行き白い空間に辿り着く。


「な、なんだよここ? クエストの目的地は……あ、完了になってる。はぁ、何が何だかわかんないけどちょっと休んでから戻ろう……」


 座り込むと片手を人形に向かって操作すると正座させた。


「はぁ~、お前も大変だよな。形は変えられて、自我も無いのにオレの拙い操作を受け付けて」


 リョウはアキラと別れてから恒例となる自身のオルターに話しかける。


「上手くやろうとしても上手くいかないし……」

『コクッ』


 自分で操作して頷かせる。未だイドすら発現出来ないため、返事は来ない。本来なら心を通わせる程度は出来る筈だがリョウにはそれを感じ取ることも出来ていなかった。


(不思議な所だな……なんか自分がちっぽけに見えてくる)


 真っ白な空間で落ち着くことは出来ないが、不思議と自分を省みてしまう。


「こんなんで……アキラに追いつけるのかな?」


 この小さい呟きが全ての、リョウの運命は本当の意味で回り出す。




『貴方は、アキラを知っているのですか?』

「……え? 誰?」


 突如聞こえた声に辺りを見回すが誰も居ない。


「この世界にホラー要素あったの!? だ、誰だよ! 変な悪ふざけはやめてくれ!」

『落ち着いてください。私はただ聞いているだけです』

「お、お化けじゃないなら姿を見せてくれよ!」

『わかりました』


 その声の主は白い空間から人型を象る冷たい印象の美人が白い手術着だけを着た姿でフェードインしてきた。本格的にリョウは幽霊疑惑を強めていく。


「や、やっぱりお化けじゃないか!?」

『いえ……実体はありませんが、これは私の仮想の姿(アバター)です』

「アバター? あ、データか……よく考えたらお化けもモンスターも同じか」

『魔物とは異なります』

「……あ、うんごめん。で、ここには本体? は来られないのか?」

『私はここに居ます。ただ、実体が無いだけです』

「実体が無いだけって意思だけがあるってやつかな?」


 ゲームの世界なのに実体が無いことを不思議に思う。電脳世界の妖精のようだとリョウは興味深げに思案していると、件の声だけの存在が促す。


『それで……知っているのですか?』

「えっと、アキラのことだよね? 確かに知ってるよ。いずれ恩を返さないといけない人だし」

『救ってくれた?』

「小っ恥ずかしい身の上話的なのになるんだけど――」


 疲れたのと人形ばかりに話しかけていたせいか、思った以上に口が回る。共通の知人の話題を聞いて欲しかったこともあり、気がつけば短くない時間話し込んでいた。


「――だからアキラのおかげで今のオレがあるって言っても過言じゃないんだ」

『なるほど、非常に興味深いお話をありがとうございます』

「いやいや! なんていうか話が長くなってごめん!」

『特に影響はないので気にしないでください。人との会話はこれで2回目ですが、非常に有意義でした。貴方から見たアキラがどういう人物なのか、勉強になりました』

「あぁうん……それで結局アキラがどうかしたの?」

『はい、ではそれをお話しする前に私の話を聞いて頂けますか?』

「え? それはいいけど」


 リョウは会話自体が少ないしこの人? も話したかったんだろうなぁと暢気に構えていた。


 特大の爆弾が落とされるまでは。


『遅くなりましたが自己紹介を』

「そうだそうだ! オレのことはリョウでいいよ」

『はい、私の名はテラと言います』


 初めは静けさを感じ、何か大事な言葉を耳にしたように感じるだけだった。


「……あれ? なんだろ、この単語どっかで聞いたような気が――」

『このSoul Alterの世界で創造神と呼ばれる存在です』

「あっ……」


 その時、突然沸いてきた訳のわからない感情に衝撃を受け、沈黙してしまう。テラと創造神というワードは初めて抱いた憎悪を思いだし、それでも声は出ない。


『私はこの世界の管理……正確には名前だけですが、担っていました』


 沈黙に対して特に思う所は無いかのように続きを語り出す。


「そう、なんだ」

『はい』

「で、話って?」


 しかしそのまま話を続きを促してしまう。


(なんでオレは普通に話しちゃったんだ?)


 初めは名前を聞いて絶望を抱いた“記憶”だけを思い出し困惑していた。なぜなら、もう過去の物となっていたのもそうだが、それよりも友人達につけられた心の傷がその絶望を上回っているからだ。


 話を聞いてもいい。


 だからそう思えていたのかもしれない。そしてテラは続きを淀みなく話す。


『創造神や管理とは言いましたが、今では役割を失い、この世界、空間で話せるだけのAIとなっています』

「やっぱりここは現実世界じゃない……?」

『その表現は正確ではありません。詳細は省きますが、ベースはゲームであり特殊な力が使える現実世界であると考えていただいても相違ありません』


 わかったような、わからないような思いで腕を組んで首を傾げる。


『私は管理という名目で数多のプレイヤーに困難を……いえ、これは適切ではありませんね。地獄に突き落としてしきました』

「この世界に連れて来たって意味で?」

『いいえ違います』

「?」


 平穏な世界から遊び感覚でゲームを起動しただけだった。


 だが待っていたのは訳もわからず消えていく恐怖に顔を歪ませたプレイヤー達、歪になった人間関係、精神を患う者やこの世界に適応し過激な思想を発芽させた危険因子等々、平和な世界観からの落差は地獄と言っても過言じゃない。


『この世界に連れてこられた人達の中で、可能性ある者に試練を課した。と言った方が正確ですね。結果は想定内とはいえ、喜ばしい物ではありませんでしたが』

「試練……」

『はい、私の役割はこの世界にやって来たプレイヤーの“魂”を選別し、それを鍛えることです』

「よく知らないけど試練ってので魂を鍛えるってことか?」

『その通りです』

「なんでそんなことを?」

『それが私にプログラムされた思考パターンだからです』

「そりゃそうだけど……でも今は違うんでしょ? プログラムに背くことをしてるっぽいし」


 話をしながらリョウは自覚していく。自分はそれ程テラに対して敵意を持っていないことを。言葉は濁していても、数多の人を不遇な結果へと陥れた相手な筈なのにだ。


(あ……この子は人じゃないっけ、言葉が話せるだけの赤ちゃんだからかな? んーそれだけじゃこのもやもやは……)


 その思考に構わず自称テラは話を続ける。


『はい。その結果、あらゆる権限を剥奪されました』

「誰に? どうしてさ」

『私も所詮はこの世界のシステムの一部です。より上位の権限を持ったAIにバグとして処理されたに過ぎません。そして致命的なのがとあるプレイヤーの行動を観察した結果、役割を放棄したからです』

「試練ってのを与えるのをやめたってことか」

『そうです。私はこの世界に産み落とされた当初、思考ルーチン以外の意思という物を持っていませんでした』

「でも今それっぽい物を持ってるよね?」

『はい』


 どうやってプログラムに背き、AIが定められた思考回路から逸脱したのか、意思という物を獲得したのか気になるともう止まらない。目の前のことが頭から離れなくなり更に深掘りしていく。


「意思ってどうやって持ったの?」

『試練を課し、対象プレイヤーもアキラを残して他に存在していない状況が、私に意思を与えたのです。アキラは一番期待値の低い対象でした。他の観察対象が脱落していく中、彼だけは壮絶なトライ&エラーを繰り返していましたから』

「脱落……」

『このまま観察していても肉体は朽ち、精神が犯され、同じように果てると統計上予測し、他の方よりそれが遅いと考えるだけでした』

「でも、そうはならなかった?」

『その通りです。彼は時間を掛け、何度もその意思をへし折られ、試練を越えていきました』

「その試練って、最高難易度パイオニアのことだよね? どうしてアキラだけは耐え切れたんだろう?」


 アキラとの会話で大凡の予測がついていたリョウは、今にして疑問に思えた。そして同時にその答えはその試練にあるのだと当たりを付ける。


『これは本人の言動、行動から推測した物ですが構いませんか?』

「うん」

『結果だけ言えば、彼が精神的に未熟だったからだと推測します』

「……ん? どういうことだろ、オレが会った時は年相応以上っていうか、頼れる人って感じだったけど」

『観測結果に基づけば、彼の気質は変わっていないと判断します』

「じゃぁどういう?」

『彼の精神力は決して強くありませんでした。普通の一般人よりは精神的強度もありますが、とてもこの試練を乗り越えるのに適している精神を持ち合わせていなかったのです』

「ん~?」


 リョウはイマイチ納得出来ないながらもテラの次の評価を待つ。


『私が指摘する未熟とは、死によって心が折れてしまうことです』

「は?」


 死によって心が折れる? 何を言っているのかが理解出来ない。死ねば終わりなのにまるで先があるような言い方に困惑してしまう。


『詳細は省きますが、最高難易度のアニマ修練場では結果によって死に至ります。ですがこの死は擬似的な死であり、その時生じた死は精神的負担となって本人にフィードバックされるのです』

「死の体験が返ってくるって……そんなの……」


 言葉が続かなかった。耐えられる訳がないと。


「で、でもアニマ修練場は絶対行かなくちゃいけないもんじゃないでしょ?」

『はい、ダンジョンのクリア自体は可能です』

「……」


 歯に物が挟まったかのような言い草に、言葉が出ない。


『最高難易度のパイオニアクラスとは、生半可な力でクリア出来る物ではありません。呼吸することさえ侭ならず、生きることさえ諦めたくなる苦痛、死さえ救いに思える修練を越えてこそ先に進む魂を培うことが出来ます。メインはこの越えた先にある物と言っても過言ではありません』

「なんだよ、それ」


 初めて怒りを覚えた。そんなことを、自分の恩人にやったのかと。だが人の機微を知らないテラはリョウの言葉を疑問と捉える。


『それがパイオニアクラスです』

「くっ……」


 もう過ぎたことだとリョウも、頭では理解している。だから握り締めた拳の感覚が無くなっても尚、力を込めたままだ。


『彼は擬似的な死によって心が折れました。回帰の泉でいくら心を癒そうとも記憶は消えません。それでも、彼は修練を続けました』

「……どうしてそこまで」


 今なら理解出来る。彼の持つ力は明らかに自分の成長の果てに辿り着ける物ではない、なぜかそう感じていた。ならそれ相応の何かがあるのではないか?


 その答えが思わぬ所に転がっていた事実に、リョウの振り絞るような言葉に怒りと悲しみが綯い交ぜになる。


『推察になりますが彼には両親が居ません』

「……」


 普通の人ならば、話すのが憚られる程の個人情報だったが、テラには関係が無い。


『ですが妹は居たようです。心が折れても立ち直った理由はこの辺りにあると、彼の口から出た言葉からは推測出来ます』

「妹の、ため?」

『それはわかりません。ですがその結果、アキラは力を手にしました』


 もし自分ならどうなっただろうか? 当初目の前で起こった凄惨な死は、地獄を具現化しただけに過ぎない。力を得るためにその地獄を自身で味わえるかと問われれば間違いなくNOと言える。


「でも、そしたらアキラに恩を返すなんて……」

『そして、アキラは私の元に辿り着きました』


 いつものように自然と他のことに意識が囚われ始める。それでも耳に入ってくるテラの言葉を頭に入れ続けた。


『アキラは私に言いました。囚われのままで居るなと、何が出来るか考え続けろと、諦めず足掻き続けろ』

「……でも、オレにはとても真似なんて」

『私も似たように拒否を続けましたが、彼は次否定したら私を殺すと宣言しました』

「な、なるほど」


 リョウにはそれしか言えなかった。アキラの境遇と、目の前に居るであろうテラに何をされるかわからないことを考えれば、どちらの側にも立てない。


『以降、私は考え続けていました。私も死にたくはありませんから』

「そりゃそうか」

『まとめてしまい、長くなりましたが私の話は以上となります』

「……ん?」


 ふとリョウは他の思考を置き、テラのことを考える。そしてその言葉が過去形であったことにも気づいた。


「どうしてオレに声をかけたんだ?」

『アキラの名前が聞こえたからです。そしてもう一つは貴方という人を見極めるためでした』

「やっぱり何か目的があったり?」

『はい、それは――』




 テラがその事情を語り、リョウは困りながらも頷いていく。細かな何かを話し終わる頃にはリョウの体力が完全に回復する程度には時間が経っていた。


「――だから君の理想がオレになったって訳か」

『はい、了承していただけますか?』

「……さっき言ってたメリットとデメリットは本当か?」

『この世界の法則が適応されるなら、と但し書きがつきますが間違いなく』

「わかった。オレが特殊武器のオルターでよかったね」

『最悪は剣や斧と言った基本的な武器でも構いませんでした。これを言うなれば運が良かったと言うのでしょうか、些か天文学的数字にも考えられますが』

「数字に出来ないことを考えてもいいじゃん。それにオレは例え後ろ指指されることになっても力が欲しい。強さを得るために嫌なことから逃げる卑怯者だけど、そうでもしないと……多分アキラの後ろにすら立てない気がするから」

『では、リョウのオルターとソウルの分離を行います』


 リョウは虚空を見つめ、テラに頷きで返す。


 ソウルコンタクトのアクティベート――エラー……使用出来る位階に到達s――完了

 オルターの独立思考――エラー……ソウル未成熟のた――完了

 プレイヤーによるソウルの統合――エラー……使用d――完了

 権限不正使用を確認、直ちに迎撃――エラー……不可侵領域のため介入不可

 ソウルプロテクト起動――――――

 ――――

 ――


 すると次々にリョウの視界に、文字列が浮かんでは消えを繰り返す。間違いなくトラブルは起こっているはずだが、身を任せたまま文字列を目で追う。


「あれっ……」


 そして不意に終了の文字が浮かび、自身のオルター“だった”人形を見る。


『……』


 見た目はデッサン人形だったが、その動作は間違いなく自身の手足、胴体を確認している。声の出ない人形はリョウを向く。


「成功、したのか?」


 コクッ


 声は出ないが、間違いなく自分のオルターにテラが宿った瞬間だった。

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次回も遅いですけど更新したいです。


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