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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
173/175

164プチ脱出

今月もう一回投稿出来たらいいなって雰囲気を感じてもらえればと考えてる自分がいると思っているかもしれません。


『……』

「何か言ったらどうだ?」

『――っ―――――ぅ』

「はん何言ってるか聞こえねぇよっ! はっきり喋れ! はっきり!」


 もう何度目かわからない仕置き棒の殴打、そして弱者を痛ぶることで優越感に浸れる自身の立場、そんな自分に都合のいい執行者という職業に感謝していた。仕置き棒を振るう度にその喜びを実感出来る。


ビチャ


 だから濡れた麻袋が落ちた音は聞こえていても、認識出来なかった。


「これで聞こえるか?」

「……は?」


 だからこそだろう、縛っていた腕の紐を軽々と引き千切って麻袋を取り去ったアキラを見て、そんな間抜けな声しか出せなかったのは。


「散々痛ぶってくれてありがとう。そう言ったんだ」

「だっ――」


 正確には「脱走!」のだの部分も言おうとしたが言えていない。なぜならアキラは座ったまま手の届く距離に居る緑子えんじの、首を掴んでいたからだ。


「すぅーはぁぁぁ……すっごい息苦しかった。やっぱ呼吸は自由に出来なきゃな。それにしても、よくも散々やってくれたな?」

「あがっ……ぃぉまぁ!」

「今、この状況で、お前は「貴様」って言ったのか? ……ほんと凄い度胸だな、まぁ状況判断能力がここまで欠如してるんだからそれ位は言えるか」


 同じ立場なら、自分は絶対言わないだろうなと考えつつアキラは首を絞めた相手の顔面、主に口の部分を中心に殴る。


「ぁがっ!」


 たまらず仕置き棒を落としてしまい、呼吸さえ苦しくなる。


「カヒュッ……ィ」

「戦うのとただの暴力がここまで違うのか? まぁ止めないけど」


 アキラは形だけ戦ったダンミルとのことは忘れてはいないが、一方的に相手を嬲るのをやはり楽しいとは思えない。だが報復は絶対に止めなかった。


「げぇっ! ぁめっ――でぇ……」


 緑子も抵抗はしているが、人は強い力で首を絞められると首より下に力を入れづらくなり、重心が安定しないため余計に動きづらくなる。首を強い力で締められた特殊な経験が無ければ、手をばたつかせる程度の動きしか出来ないだろう。


 そしてこの緑子の手が届く範囲はアキラの腕と仮面程度で、腕に爪を立てられても力は一向に緩まない。顔面を引っ掻こうとも仮面があるのでノーダメージだ。ゆっくりと足の紐を解いて身体を自由にする。


「ぇのぉ!」

「俺はお前を殺したりはしない」

「がっ……」


 更に手に力を込め、喉を押し潰すように締める。そしてすぐに手を離し、朦朧とした相手に向かって右手を軽く振りかぶって再び口元目掛けてぶん殴った。結果、回転が足りなくてバック宙に失敗した人のような格好でうつぶせに倒れる。歯が飛び散るが、アキラの拳は無傷だった。


(……すっごい飛んだ)


 アキラは自分の手の平を見つめる。あまりにも想定と掛け離れた事象に頭が追いついていない。


(俺はちょっと強く殴っただけだぞ? 今のは、まるでシヴァを握った時のような――)

「ぅう……」

(やべ、今はそれ所じゃない!)


 アキラはすぐに自分の囚人服を脱ぎ、下着一枚になる。そして気絶している執行者の服を脱がす。


(傍から見れば追いはぎか、そっちの気がある奴に見えるだろうな……)


 それでもアキラは作業を止めず、相手の服を全て剥がし、それを身に纏う。そして脱がした相手に囚人服を着せ、置いてあった紐で緑子の腕は腕同士、足はイスに縛り付ける。そして最後にアキラが脱ぎ捨てた麻袋を被せ、その口の紐を引っ張り脱げないようにすれば完成だ。


(後は隠者のマフラーを使えば……)


 アキラは唯一奪われなかった装備の中でもっともレアリティの高い装備、隠者のマフラーを確かめるように握る。


(このマフラーが見逃されたのは見えないからか? どっちにしろ使う機会は無いと思ってたけど……まさか初使用が監獄だなんてな)


 この隠者のマフラーは最後に入ったアニマ修練場で手に入れた物で、使用者にも視認出来ない。それに温度調節機能が付いているので、環境変動にも対応している。特殊な機能に【陰影】と呼ばれるエクストラスキルが付いている。


(まずは影になってる所を探して……)


 陰影とはこの装備を付けている限り使える特殊なスキルで、二回このマフラーに触れるだけで影になっている部分では誰にも視認されなくなり、音等の気配すら消すことが出来る。


 デメリットとして影に隠れていない部位があると、その部分だけが見えてしまう。その短所さえ把握していれば、活用の幅に限りはほぼ無いと言える代物だ。


(コイツの制服だって見られた際の保険でしかない。まさか死刑囚が執行者の服を着ているだなんて夢にも思わないだろうしな)


 そうして薄暗い部屋だが、隅っこの方は暗い。アキラはそこに移動して隠者のマフラーを二回トントンと軽く叩くと、状態異常やバフが載る所に人差し指を立てて合唱している――所謂忍者が忍法を使う代表的なポーズを模した【陰影】のアイコンが表示された。


(発動したな……なるほどこのアイコンが赤になってると、どこか身体が影に隠れてないから見えてるってことか)


 自分ではわからないが、アイコンで判断出来る点はありがたいと思いつつ、アキラは外に出るためドアノブの取ってに手を掛ける。


ガチャ――


 まだ俺は触れてない。


 そんな思考が流れるより早く影に素早く潜る。アイコンは青に変わるより早く扉は完全に開いてしまっている。


(まずい!)

「おい、調子はどう――」

(もう交代なのか!? まだ30分も経ってないだろ! ふざけんな! ここでバレたら終わりだ! こいつも眠らせるしかないのか!?)


 一瞬で文句と保身、予定外の行動と色々な考えが頭を過ぎる。心臓は気がつくとドクドクと脈打ち、うるさいぐらいにアキラの鼓膜をその鼓動が叩いていた。先程まであった余裕は一瞬で霧散し、この後どうするかわからず取り敢えず黙る。いや、黙ることしか出来なかったのが正確だ。


「な……」


 入ってきたのは赤犬で、完全にこちらを見ていた。


(くっそ! バレたか!)


 アキラは言い訳も意味が無いと悟って黙ったままじっとしてしまう。悪いことをしている自覚があるので、戦いとは違って変に身体が縮こまってしまい、上手く動けないでいる。


「……」


 赤犬が黙ったままアキラの方に近づいて手を伸ばす。


(……ん?)


 だが向かったその先は、アキラの目の前に落ちていた仕置き棒だった。


「あいつ……仕事を放棄したのか? いくら逃げられないとはいえ、弛み過ぎだな」

(……あれ? …………バレて、ない?)


 アキラに背を向け、偽装工作で囚人服を着せた緑子に向き直る。


(……はぁ……バレてないのか……心臓に悪――ぃ!)


 仕置き棒に気を取られて赤犬は気づいていなかったが、地面には先程殴って散らばった歯が幾つか落ちていた。


(やばい! あれを見られたら流石に怪しまれる!)


 まだこちらに背を向けている。拾うなら今だが、確実にスキルの範囲外のため姿を見られるリスクが付きまとう。


(やり過ごすか? いや入れ替わりの証拠みたいなのを残したくない! ぇえい、見つかったら眠らす! それでいこう、よし、いっけっぇ!)

『ぅ……』

「ん?」


 その瞬間、縛り付けていた緑子が声を上げる。仕掛けようとした正にその時だったので、アキラの心臓が緊張でどうにかなってしまいそうだった。だが、身体は素早く動く。蛇が獲物をさっと咥えるかのように拾い集め、すぐに元の影に引っ込んだ。


「……相当手酷くやったみたいだな」


 こちらには微塵も気づいていないが、また別のピンチが訪れる。


「どれ」

(おい! 何してんだ!)


 あろうことか怪我を確認するためか、仮面でわからない筈の顔を覗こうと麻袋に手を掛けていた。


(くっそ! きっと好奇心なんだろうけど見られたら終わりだ! 折角の仕込みも、今拾い集めた歯も意味なくなるだろ!)

「ん? あいつ随分きつく結んでるな……」

(当たり前だろ、バレたら終わりなんだから! あぁやっぱ眠らせるか!?)


 もうそうした方がいいとさえ思えてくる。


『ぅ……? うぁぁ! あめぉ!』

「あ、コイツ! 暴れるんじゃない!」


 首元でゴソゴソとしすぎたせいで起きてしまった。


(ヤバイ ヤバイ ヤバイ)


 もう状況はアキラの手を離れつつある。先程まで完璧といっていいほど綺麗に上手く、想定以上にことが運んでいたツケが回ってきたとさえ思っていた。顔を覆いたいほど自体はもう滅茶苦茶になっている。


『ぅ~ぁあああ!』


 想定以上にパニックに陥っている緑子に、段々と苛立ってきた赤犬が吠える。


「じっとしないか!」


 そして仕置き棒でアキラだと思っている緑子を叩いた。


『ガァアアアア!』

「フン、暴れなければいい物を」

(普通声で気づきそうなもんだけど、案外バレないんだな)


 濡れた麻袋の防音効果は思った以上に高く、くぐもった声はアキラと似ても似つかないが、くぐもった声のせいで赤犬は気づいていない。


(なんか、大丈夫……っぽい?)


 赤犬は相手が囚人だという思い込みもあるかもしれないが、アキラが口元に与えたダメージも大きな要因になっている。まともに言葉が喋れないため濡れた麻袋越しでは最早言語になっていないからだ。


「お前が暴れないなら何もしない。わかったか?」

『ぁ……ぅ……』

「聞いているのか!」

『っ! ……!』


 どうやら緑子の方も相手がアキラだと思っているらしい。通常同僚だと気づけば必死に頷いたりはしないだろう。


(湿った麻袋って凄く回りの音が聞こえなかったしな……俺がいたぶってるとでも思ってるのか? なんか思った以上に麻袋が濡れた効果が出てる気がする)


 報復をするつもりではあっても、アキラに加虐する趣味は無い。これからのことを分析するためにも、状況を冷静に省みる。


(あいつらの話だと、仕置き棒で叩かれれば精神にダメージを負うらしいし、あいつは今まともな判断力も無いだろ。もしこの状況にあいつが気づいても何かをすれば赤犬が叩くだろうし、いつの間にか顔を見ようとするのも有耶無耶になってる。後は祈るだけだ、今バレなきゃそれでいいんだし)


 そうして、未だ開きっぱなしの扉側の影に隠れながら外へ出て行く。そして出て行った直後だった。


 バタンッ!


(おっと)


 赤犬がドアを閉じたのだろう。タイミング的にもギリギリだった。


(ふぅ……よかった、出る前だったらまた冷や冷やする所だった。まぁこれでもう本当に後には引き返せないんだけど)


 廊下はやはり明るく、初めてここに来た時と変わらない白を基調とした通路だ。アキラは内心やはり制服を借りて良かったと人心地つきながら歩く。マップを見るためメニューを開くと、ここに来る前と変わらない表示に切り替わっていた。


(あれ? 全部の機能が問題なく使えるようになってる……なんでだ?)


 思い当たる理由がわからないため取り敢えず当初の目的通りマップを見ると今居るエリアは【拘束場】だとわかった。


(拘束場? どっかで聞いた覚えが……)


 拘束場を抜けると、幅の広い廊下に出る。


(院長の総回診が出来そうな位広いな。あ、廊下――もしかしてドエルに見せてもらった地図にあった場所か? じゃぁこのまま進むと……やべ、このまま行けば外に出ちまう!)


 医療ドラマを思い返しつつ、慣れない道を進みながら気づく。アキラは自身に嵌められてる首輪が、脱獄を阻害する機能があると聞いている。だから外には出ず、取り敢えず通路を曲がるしかなかった。


(今引き返しても拘束場があるだけだからな、それに多分首輪が無くても外には出れないと思うんだよな……いくらザル警備でも出入りは厳重にしてるはずだ)


 そうやって奥へ奥へ取り敢えず進む。場内の案内板等の親切設計は当たり前のように無いので、マップを駆使して奥へ行けそうな道をチョイスする。


(保管庫? ……あ、もしかして俺の装備あったりする? 厳重そうでも無いから囚人の私物あがあるかもしれない!)


 適当に進んでいると、マップが保管庫と表記が変わる。奥は奥だが、区画毎に鍵も特別付いていないためそれ程重要ではない物があるとアキラは当てを付けた。


(そういえばここまで全然人が居なかったな? 嬉しいは嬉しいけど、やっぱ時間的にそんなもんなのか)


 今は深夜を回る時間帯により、人が少ないだけなのだが思ってた以上の時間、アキラは気絶していた。


(今なら人の気配をよく見分けられる。好都合って言えば好都合だ)


 保管庫を見回ると食料や、武器、衣類や嗜好品類しかないわからない。ドアにも鍵が掛かっているので、付属の覗き窓から見える情報はその程度だ。


(変に壊してトラブルにはしたくない。でもどうすれば……)


 こんな家捜しのようなことは初めてなため、取り敢えずは気配に気をつけつつ見回る。


(あれ、ここだけ入口がでかいな?)


 今まで見たドアが二枚並んだ程度の大きさの入口だった。


(鍵……あれ、開いてる?)


 押しただけで簡単に開く。中に入ってみると、60cm四方のスチール製ロッカーが大量に並んでいた。更に奥にはアキラの身長より大きなロッカーもあり、中央には大きなテーブルのみが鎮座していた。


(なんか気味悪いな……! これは)


 適当に一つ開いてみると、中からは衣類が出てきた。そこを閉め、続けて隣を開くと煙草や酒が入っている。


(……)


 また閉めて中身を確認、これを繰り返していくと何も入っていなかったり、ホームカードが入っていたり、ガラクタにも見える物や魔物の牙と多種多様で、近くにある大きなロッカーには剣や防具もある。他にも一貫性の無さが目立ち、ロッカーにある番号を適当に読み上げてみた。


「A-62……これってもしかして囚人達の持ち物?」


 階層を表記する前半部分が消えているが、どこか確信に近い物があった。


「ならもしかして……あった」


 そこには、自分の番号であるZ-36と書かれたロッカーがあった。中を開けようと手に掛ける。


「ん?」


 その瞬間、人の気配を近くに感じた。アキラは気になる中身を空ける時間が無いことを惜しみつつテーブルの下に隠れる。陰影は発動したままなので姿は消えた。


 こっち来んなと願ったが、思い虚しくここの部屋に入ってきた。一人は緑の制服を着た執行者、通称緑子(えんじ)でもう一人は青い制服を着た執行官、通称青丸(あおまる)だ。


「よし、探すぞ」

「先輩、やはり止めませんか?」

「何を言ってる。これは決まりみたいな物だ」


 入ってきた緑子は青丸を教育するようにたしなめる。


「……ですがいくら死刑囚だからと言って、囚人の物を盗むのは抵抗があります」

「このまま死刑になれば執政官の懐さ、それにこれは皆がしていることだ。その順番が回っただけで、何もしなくとも結局は誰かが持っていく」

「はぁ……ですが、こんな夜中にするなんて、まるでコソ泥みたいじゃないですか」

「コソ泥とは失礼な、再利用するだけだ。それにそんなこと言ったら、お前は執政官をコソ泥扱いする気か?」

「そ、そんな滅相もない!」

「それにこんな時間なのも、当直がこの時間にパトロールのついでに確認するっていう暗黙の了解があってこそだ。……いいか?」


 青丸が血相を変えて否定する。緑子は追い打ちを掛けるように青丸の肩に手を乗せて還元を吐く。


「お前も聞いただろう? 上級執行者殿が見たこともないアイテムボックスを持つ死刑囚が居たと、その死刑囚の私物は衣服しか無いと聞いたが、その衣服がとんでもない代物の可能性すらあるんだ。そしたらいくらになるか……」

「ゴクッ」

「よし! じゃ行くぞ」


 息を呑んだ青丸を見て、もう言葉はいらないなと確信を得た緑子は意気揚々とZ-36と書かれたロッカーに向かいだした。


(おい! やっぱそれ俺んだろ! ってかアイテムボックスってガンダとのやり取りか!? くっそ、そこまで気が回らなかったな……あんな所でやり取りしたらそりゃ見てる奴も居たか)


 自分の浅はかな行動に舌打ちしたい気持ちを抑えて考えを巡らす。ここで出て行って万が一にでも姿を見られたら不味い。一人なら不意打ちで気絶させることも出来るかもしれないが、二人居るうえに上手く相手が気絶するとは限らず、下手に行動は出来なかった。


(でもどうする? このままじゃ……)


 頭を悩ませていたその時だった。


「うっわ! これヨランダ製じゃないか! え、いや待てよ? これも……これも! マジかよ」

「それって凄いんですか?」


 物色していた緑子に、不思議そうな顔をした青丸が問う。


「一度しか見たことないが、この薄らとデザインされたヨランダのロゴマークは絶対に見間違えない!」

(何それ、俺知らないんだけど)

「薄らと? よくわからないんですけど……」

「ここの襟下の部分を光に当てるように見てみろ」

「……ああ何かロゴがありますね」

「これはヨランダ製のロゴだ。確かにコイツは見え辛いが、逆にその苦労が覚えやすくしてるから余計忘れられないんだよなぁ……」

「でもそんなに珍しいんですか? ヨランダって軍事工房ヨランダのことですよね?」


 青丸は自身に向けられた呆れた目線に困惑する。


「まさかお前、伝説の職人ヨランダを知らないのか?」

「う、不勉強です。申し訳ありません」

「昔、軍事工房ヨランダは荒野に一軒ぽつんと家があるだけだったらしい」

「あの都市がですか?」

「ああ、そしてその家にヨランダの父親が職人やっててな。その人は工房らしい工房も無いってのに作る防具一つ一つが超高性能な装備品だったらしい」

「らしい?」

「荒野にある家に、職人の親子が居るってだけだからな。まさかそこの製品の布地の服に、パイオニア級の効果がある装備があるだなんて誰も思わないからな」

(どうしよ……まぁ出来ることも無いし俺も聞いとくか)


 世間話を始めてしまった執行者達に内心困惑したが、内容が自身の防具の出自だったため聞き入ってしまう。


「でもそんなので軍事都市と言われるまでになりますか?」

「問題なのはヨランダの父親の立場だ。暫くしてヨランダ製の装備が世に出回って騒ぎになったんだが、その騒ぎが“あの”オベロまで動かしたんだ」

「オベロって夜光衛星オベロニクスのことですか!?」

「ああ、なぜならヨランダはオベロニクスの軍属だったらしい。あそこはマキナとは違った意味で謎が多いからな、階級もかなり上としかわからない。だが色々あってその結果出来上がったのが軍事工房ヨランダだ」

(へぇ~あの装備凄かったんだな)


 青丸が関心しながら頷く、アキラもアキラで自身の持つ防具に若干だが造詣を深めた。


「でも先輩詳しいですね」

「お前も執行官になったんだからいずれ修行で色々出回るだろ。そうすれば見聞が広がるさ」

「はぁ、そういうもんですか……あれ?」


 そう言って緑子は装備を元に戻してロッカーに仕舞い、青丸はその動きに困惑する。


「どうしたんですか? 持っていかないんですか?」

「馬っ鹿お前、こんな物どうやって捌くんだよ」

「いつも使ってるルートがあるんですよね? それ使えばいいじゃないですか」

「んで足が付いて俺らが捌いたのがバレてクビってか? 冗談じゃない、それに見たこともない腕輪や指輪、もう触るのもやばいわ」

「あぁ、足が付いたら獄長が得るはずだった利益を掠め取……じゃなくて、僕らが横領したってことになりますよね」

「そういうこった。コイツを扱うには俺らには危険すぎる。小遣いのつもりが、それ以上の損を生むだろうな」

「あの」

「ん?」

「逆に罪人がなんでこんなヤバイ物持ってるんだろうなって思ってしまって……」


 何気ない疑問だったが、緑子は途端に嫌な空気を感じ取った。


「そりゃお前……いや、やめとこう。なんかもう厄介ごと臭いしかしない。今日俺らはここに来なかったことにしとこう」

「そんな! 先輩の性格で来ないとか有り得るんですか?」

「……お前に説得されてこの数分だけ心を入れ替えたんだ」


 そう言って黙って囚人の私物保管庫から出て行く。


「それで次の当直にはいつも通りと」

「ばっかここから出たらもういつも通りだよ」

「ははは、流石です」


 元々あまり乗り気では無かった青丸は小走りで後を追った。


(……け、結局俺は何もしなくてもよかったのかよ……なんか体力使ってないで話聞いてただけなのに、命懸けの戦いをした時みたいに疲れた)


 やたらと今日は精神が疲弊する出来事ばかりだったため、アキラはげんなりしつつテーブルの下から這い出た。


(こんな心に悪い緊張はもう勘弁してくれ……)


 戻ってくる気配も無いので、今度は適度に緊張しつつ自身のロッカーを開き、中の物を回収した。


(やっと返ってきたか……)



手:ミリタリーグローブ

脚:ガーディアンホーズ

足:コンバットブーツ


腕:相反の腕輪

指:氷王の指輪



 今までお世話になっていた装備を取り出す。


(まだ装備する訳にはいかない。ここを出る時にこそ必要になる……よし、まさかこんな収穫があるとは思わなか――)


 装備を全て回収したその瞬間だった。


 ゾクッと背筋に感じた震え、今まで幾度も相対してきた強敵との感覚を感じ取る。


(なんだ……あの花の化け物みたいな嫌な気配は)


 ノートリアスを冠するブラックアビスと戦った時に感じた死を予感させる程の気配、それをこの罪都で感じ取ったアキラは決意する。


(……まだ、戻る訳にはいかないな。あの時みたいに急ぎじゃない、少しでも情報を集めよう)


 時間が伸びれば伸びるほどバレるリスクは上昇する。だがその時はその時と開き直ることにした。


 どうせ自分は死刑の身なのだからと。









処刑まで――

×第一の処刑人【サイクロプス】

×第二の処刑人【双星のオルトロス】

・第三の処刑人【モンスターパニック】【?】

       ――残り3日

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