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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
166/175

157シンプルな脱獄プラン

罪都編を全部仕上げてから投稿したかったんですが、そんなことしてたらいつまで経っても投稿できそうにない雰囲気が流れてるので上げます。


 ドエルが脱出計画と題した羊皮紙に、アキラはふと疑問を声に出す。


「こんな堂々と計画を話しても大丈夫なのか?」

「問題ない。青丸の執行者なら兎も角、緑の執行官も赤犬の上級執行官も脱獄なんて出来っこないと高を括ってるからこっちに興味も示さないさ」

「へぇ、ならいっか」

「それに、いざとなったらグリットをけしかける」


 赤ら顔の魔人、グリットは任せろとでも言わんばかりに瓶の中の液体をチャポンと鳴らす。理由はわからないが、抑止力になるだろうことは予想出来る。


「アキラとラシアンは今回から本格的に参加する、皆にも復習を兼ねて最初から説明させてくれ。大前提として、俺らはこのエリアに居る」


 羊皮紙に描かれているのは地図で、端にある円形の部分をドエルはトントンと指で指し示した。指は外側を指していて、位置的に自分達が居る牢屋なのは感覚的にわかる。


「そして出口はここ」


 指を滑らせ、1階部分の廊下、広場、拘束場、廊下、門、そして吊り橋の出口を順に指し示していく。途中横に逸れれば、アキラが捕まっていた特房と書かれた場所も載っている。頭の中で歩いた道をなんとなく辿ればそんな感じだろうなとアキラも納得出来た。


「そもそもどうやって“出る”んだよ? さっき高い所からざっと見渡したが上も下も右も左も意味不明な景色があるだけだった。それに……何か手続きみたいなやり取りしないとここの出入り口は通れないだろ?」

「お前……どっか行ったと思ったらあそこ登ってたのか?」

「一応この中は自由に動けるって聞いてるし、気になったからさ……駄目だったか?」

「いや、問題ない。なら外の説明は要らないな? 見ての通り何もない」

「本当にな、なんていうか壁も床も見えない。ただただ目に悪いって感じだった」

「その通りだ。詳しくは俺にもわからんし、脱獄ルートとして考慮はしない……一部を除いてな。話をここは3階部分まで牢屋になってるだろ? まぁ今日から俺らも2036から3階の3036――通称処刑エリアまで“また”上がっちまった訳だ」

(また? ドワーフのラシアンは兎も角ドエル達は何回もこの処刑エリアに来ているってことか……)

「そして牢屋の外も3階建てになっているが、それらは俺らに付けられた首輪こいつの操作室に食堂、後上級執行官の執務室やらなんやらがあるだけだから説明は省かせてもらう」


 首輪を親指で軽く示す。大したことが無い風に言うが、アキラにとっては戦力がガタ落ちする不安要素の塊だ。


「肝心の脱獄方法だが……コロシアムで行う」


 衆人環視の中どうやって? とラシアンとアキラが疑問符を浮かべたのを見て取ったドエルはニヤリと口角を上げて続ける。


「周りに観客が居るのにどうやるかって? わかってるわかってる! 教えてやるよ。コロシアムでお前達、いや俺らか……脱獄するために全員――」






「――死んでもらう」


 周囲は静かだが、牢の外が食事も終わってこの牢の外からは雑談の声だけが通る。だからよりハッキリと静寂が伝わり、その静かな空間がアキラ達を支配……しなかった。


「どうやって?」

「え」

「だから、どうやって死ぬんだ?」


 アキラがあまりにも普通にあっさりと尋ねてくるので、驚かそうとしていたドエルは登っていた梯子を外された気分になる。


「……こうもうちょっと驚くとか慌てるとかだな?」

「文字通りに死ねって言うなら手本見せてもらってから検討するよ」

「た、確かに文字通り死ぬわけじゃないけどよ~……」


 悪戯が失敗してばつが悪いのを誤魔化すためなのか、ドエルは金髪を掻き上げながら片目を瞑って気まずそうにしている。


「え、じょ、冗談?」

「なんだラシアン、おめぇドエルの言葉を真に受けたのか?」

「……よくわかんね」

「はっはっは! おっさん面だが、おめぇもまだガキってことか~あぁ酒がうめぇ」

「グリットも飲み過ぎるな、話を戻すぞ」

「ああ、それで“コロシアム”で死ぬってどういうことなんだ?」

「それはだな――」






 時間も経過し、就寝の時間を知らせる音が鳴る。ドエルから計画を伝えられ、各自自分の質素なベッドに向かいう。釣られるようにアキラも自身のベッドに行き横になるも、眠れないまま天井を当てもなく意味もなくただただ視界に収める。


(脱獄計画……俺が思ってたよりかなり強引って言えばいいのか、本当にドエルの言っていることに従えばいいのか……)


 アキラはあまりにもゴリ押しに近い脱獄計画に言葉が出ず、その場では納得するしかなかった。そしてドエルの言っていることが本当に正しいと仮定するならば、絶対に自分では立てられない内容でもあるため、見落としがないかを改めて精査する。


(計画は単純、コロシアムの魔物にやられたフリをして溝に落ちる。聞いた話だと、コロシアムの周囲に空いている溝は演出の一環で、逃げられない領域を作るためらしい。胸くそ悪くなるのが、落下の恐怖を味わう受刑者を鑑賞するために、客席から眺められる構造になっているようだ。頭おかしいだろ)


「はぁ……」


 アキラは溜息と共に仰向けになって足を組み、両手を頭の後ろに回して枕を作って思考を元に戻す。


(予定通りに落ちることが出来たら、落下死防止用に準備しているらしいクッションらしき何かを使って着地する。そして落下死を装ったまま整備用のメンテナンスハッチを通って脱出し、外に直通する排水溝に繋がるからそこから脱出するって計画、だったよな……落下死を装うってのが、ドエルの言ってた死んでもらうって意味らしいが……)


 情報が無ければ立てられない作戦であり、アキラでは辿り着くのが困難な作戦だった。シンプル故にわかりやすく、それなりに穴がある計画ではあっても、細かい所を詰めれば問題も無いだろうと思われる。


 しかし、それでもアキラは何か突っ掛かりを感じていた。


(前提としてドエルのことを100%信じなければいけない。いや、ドエルを疑っている訳じゃなくて、どっちかと言うとドエルの持っている情報が正しという前提なのが突っ掛かるのか?)


 自身でもなんとも言えないモヤモヤと拭えない不安が纏わり付く。


(警備を突破するとか、牢屋で騒動を起こすとかそういう細かいことしないのか……いやドラマとかはもう考えないようにしないと……にしてもなんで俺はこうも落ち着かない? 派手さは無いが、人知れず脱出出来るいい計画じゃないか)


 自身が気づかぬ苛つきを紛らわすために足を組み替える。


(脱獄は大歓迎な筈なのに、なぜか計画の内容に心から賛同出来ない。何か大事なことを見落としているような気がしてしょうがない……一体なんだ?)









 ジリリリリリリリッ!


『お待ちかねのZ牢! フロア3の牢は急いで準備してね! 今日は大事な二日目! こんな所で人が欠けたら最後まで持たないよ! 頑張ってね!』



 そして答えが出ぬまま朝日は昇る。気がつけばアキラの耳を打つ不快な金属音が覚醒を促し、身体を起こす。


「ほら、これ食っとけ」

「あ、ありがとう」


 ドエルがアキラに投げて寄越したのは朝食だった。中にはチーズとハムの入ったホットサンドが入っていて、簡単に食べることが出来る。


(時間が経ってるせいか、水蒸気でべちょってるけど美味いな)


「随分ぐっすりだった割には寝起きがいいな? 昨日みたいに朝飯食いっぱぐれないように取っといたんだから、もっとありがたがってくれよ?」

「感謝してるよ」

「ならいい、食べながらでいいから移動するぞ……適当な相手で死んだりなんかしたら怪しまれるからな、しっかり準備しないとな」

「……あぁ、わかった」


 ここに来てから迎えた三日目の朝……と思われる時間だが相変わらず時間の間隔がわからない空にアキラは気持ち悪さを感じる。一応寝る前より明るくはあるが、曇りでもないのに薄暗い明かりはまるで自分の不安な気持ちを具現化しているようにも感じられた。









 地下のコロシアムに移動するため、アキラ達は会場直通の昇降機へと集まる。ゆっくりと静かに降りる様は、戦いに自身がない者とって恐怖を増幅させる役割にしかならない。昨日戻る時に感じた上昇速度を考えれば何倍も違う下降速度に違和感しか覚えない。


(余計なことばっかり思い浮かぶな……)


 何分も掛けて再びコロシアムに到着すると、不快な実況が耳朶に触れる。


『お待たせ致しましたぁ!』


 聞こえてきた声はしっかりと通りやすく、ハキハキ聞こえる男性の物で昨日と同一人物ということがハッキリとわかった。


(相変わらず姿は見えないけど、大体の位置はわかるな)


 いつソウルを感覚的に捉える能力を習得したのか、アキラ自身理解出来ていないが、ソウルを持つ者の位置が大まかに把握出来るようになっていた。ここに来る原因にも繋がるノートリアスモンスターの位置も、それを頼りに辿り着くことが出来たためこの感覚を疑うこともない。


『そ、それでは! 紹介しましょう――』


 昨日と位置が違う所に居るソウルを睨みつけると、若干言葉を詰まらせながらも昨日とは違って名前だけを紹介していく。






『――昨日はサブローと呼ばせて頂きましたが、名前が発覚したため改めます! 呪われし仮面を身に着けた哀れなヒューマン! 昨日は一人でサイクロプスを、それも素手で仕留めてしまった大物ルーキー! 最終日まで生き残るかぁ!? その人物の名はぁ……ァアキラー!』


 最後の紹介となったアキラの番になるとスポットライトが照らされる。


(……どうしてだ?)


『でわでわぁ! 昨日は先走った処刑人が簡単・・にやられてしまったのでぇ~……担当の方が趣向を凝らしたそうです! ではどうぞ!』


 突如沸いた疑問について考えを進める間もなく、地面に影が出来ると金属と金属が擦れ合う音が聞こえる。鎖に繋がれた檻が頭上から舞い降りるが、垂れ幕のせいで中身を窺い知ることは出来ない。


『本日はきちんとベットタイムを設けております! 垂れ幕が解かれてから10秒ですよ!』


 アキラ達の頭上で檻の下降は止まり、宙に浮いたまま垂れ幕が解かれる。大きさは大体2メートル四方だとわかるが、位置関係的に檻の床部分しか見えないため少し目線の高い観客席からしか見ることは出来ない。


「ちっ」


(これじゃ俺ら以外全員どんな相手が来るのかわかってるってのか? もしこれが本来の手順なら悪趣味過ぎるだろ! まだ戦いが始まってもないのに、俺達をいたぶるためだけにここまでするってのかよ……)


 誰かの舌打ちと共に、自分の心の中が冷えてくるのが感じられた。怒りに手を震わせているのに心の方が落ち着けと言っているように諭してくる。


 アキラ自身ここまで煽られるような戦闘は今までに経験が無かった物の、死がかかったこの状況で怒りに身を費やすことが、どれ程寿命を縮めるかはこれまでの経験が知っていた。


(……ここからでもわかることを探そう)


 真上から見上げる檻は鉄製の床部分しか見えない。それでも四方の内アキラ側の面は蝶番のように開くための機構が存在している。ドアのように開くタイプでは無く、床に扉を倒して開くタイプの檻だった。


『それでは~~~ベッティング~スタートッ!』


 観察もそこそこに宣言と同時に垂れ幕が解かれる。そして聞こえる観客のざわめき、困惑に近い感情が声から感じ取れた。


「1匹じゃないのか?」

「初めて見るな」

「趣向を凝らすとはこういう――」

「おい魔物の方に賭け――」

「あの仮面がまた魅せてくれ――」

「あ、あれは処刑用の――」


 あれはどうだ、これはどうだと10秒しか無いはずが、どう考えてもその倍の時間を使って漸くベットが終了する。


『以上でベットタイム終了です! そう、本日は趣向を凝らして世にも珍しい双子の魔物をご用意しましたっ! そしてそしてお気づきの方もいらっしゃるかと存じますが、今回ご用意したのは最終日に合わせた処刑用の魔物なのです!』


 周囲のざわつきが一層増す。


「こっちは勝つ方に賭けたのよ! ずるいじゃないっ!」

「これは経験が物を言うのさ」

「いやもしかしたらあるかもしれないぞ?」

「ふざっけんなぁ! ラシアンっ! 諦めるんじゃねぇぞ!」


 様々な感情が入り交じったが、主に阿鼻叫喚と言っても差し支えないざわめきが支配した。


『皆様! 本日二日目ではございますがご安心を!』


 その一言で場内の声が若干トーンダウンする。


『実はこうなったのにも事情がございまして……昨日のこと……』


 後が気になる言葉を実況が重ねるとざわめきも次第に落ち着きを見せ始めていた。


『第一日目のショー……それが、たった一人! たった一人の死刑囚にっ…………処刑用の魔物を殺されてしまった故、なのです! ですから、ですからっ! 私共と致しましても熟考に熟考を重ねた結果、処刑用の魔物を用意した次第なのです!!! くぅ~! 本当に申し訳ありませんっ!』


 申し訳なさそうに感じられない、その言葉と共に檻が完全に地に着き、アキラ達の目の前にその姿を現す。そこに居たのは四足歩行の獣、見た目は狼だが上顎から覗く牙はサーベルタイガーを彷彿とさせる程長い。噛まれれば千切れるのではなく、間違いなく貫通するだろう。


『はいっ! では気を取り直してご紹介致しましょう~本日の処刑人っ! それは双星のオルトロス! それもその双子なのです!』


 手を打ち鳴らす乾いた音と共に空気を一新すると、ベットした観客や心配げにしていた者はその感情を流されてしまった。


「グゥルルル……」


 目つきは人その物を憎んでいるかのように鋭く、その睨みだけで身が竦んでしまうだろう。唸り声を上げず、静かに歯を剥き出す二頭の頭部は檻から解放されればすぐさま飛びかかってくることは容易に想像がつく。


『1匹に頭が二つあるのが普通のオルトロスですが、このオルトロスは驚くことに2匹(・・)共双子なのです! 通常は1匹しか生まれ――』


 実況の声が遠のき、アキラは観察に集中する。毛並みが普通の犬や猫だと思って触れれば怪我をするのは光の反射でわかってしまう。サイクロプスのように、そのまま殴れば自分の拳はおろしがねのように摺り下ろされることは考えるまでもない。


「あの2本の尻尾は要注意だな……」


 近くに居るドエルの呟きに心の中で同意した。2本に別れた尾は先端に向かえば向かうほど細く、鋭く、それが生き物のように蠢いていれば鞭のようなしなやかさまで併せ持っている。もし無防備にくらえばどうなるかなんて想像したくもないだろう。


『――でありますればぁ……あ、はいはい。長かったですね。ではでは――これより処刑二日目を執行致します! 生き残ってくださいよぉ! 6人の死刑囚ゆうしゃ達っ! それでは……執行~開始っ!』


「「うぉおおおおおおっ!」」


 観客のざわめきと共に檻の前側が開かれ、2匹のオルトロスがアキラ達に襲いかかった。






【Zフロア3の3番牢】

処刑まで――

×第一の処刑人【サイクロプス】

・第二の処刑人【双星のオルトロス】

       ――残り5日

ゆっくりですが、書いてはいるので見守っていただけたらなと……


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