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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
164/175

155交渉するガンダ


「お務めご苦労様でした」

「ん」


 罪都から出所後、ガンダは自身の依頼完了報告をするためギルドに訪れていた。まるでヤの付く職業の人が出所した後に出迎えられているようだがガンダは気にしない。


「この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。出来うる保証としては今後の依頼受領に対する成功報酬の恒久的な上乗せや保証を――」

「いやいや、報酬もらえんだし構わないかんな」

「いえいえそういう訳にもまいりません」

「んー……じゃギルドマスターに合わせてもらえっか?」


 少々のやり取りを受付嬢としてから行ったこのガンダの要求は既定路線だった。事前に聞かされた通りの優遇措置で魅力的な条件だったが、ガンダはこの世界に骨を埋めるつもりがない。それに死ぬつもりはないが、死ぬことを考慮してもこの措置に旨味を求めるより直接的な利を得る方が自分のためになるのをなんとなく理解していた。


「承知しました。ガンダ様がいらっしゃった際はお通しするように仰せつかっています。こちらへどうぞ」

「ありがとな」


 ガンダは受付嬢に連れられギルドマスターの元へと向かう。現在ガンダは罪都のギルドへ来ていて、アキラに頼まれたこと、主に自身が何をするかを改めて思い出す。









 真剣な表情のアキラが手渡したアイテムボックス、それを自分なんかに託すのはと胸中複雑な思いを抱きながらもマイペースを崩さないガンダは聞き逃さないように集中する。


「頼みってのは俺がされたことの報告と罪状の正当性、それと保護だ。ノートリアスモンスターを倒したのは俺だしその実力の裏付けとしてこのアイテムボックスをギルドに渡してくれ」


 今まで見たことの無いアイテムボックスを仕舞いながらガンダは首を傾げる。


「報告事態はするつもりだったから構わん、だども罪状の正当性ってのは?」

「そうだな……俺がやったことは確かに褒められた行動じゃ無かったかもしれない」

「まぁ結果良ければ全てよしとは言えないかんな」

「ああ、それでも結果的に助けた人は比べ物にならないくらい居た筈なんだ。原因のノートリアスモンスターだって倒しのは俺だと言える。なのにその結果が処刑だなんて納得出来ないししたくない。罪状の確認だって俺の言葉を聞き入れるどころか疑問を肯定と捉える……そんな滅茶苦茶な理不尽、あってたまるか! っと悪い、最後は忘れてくれ」

「……おめぇの事情は説明する。だどもオラにこのアイテムボックスをどうしろってんだ?」

「これは【越冬隧道サハニエンテ】のパイオニアで出てくるボスから出たアイテムボックスだ」

「!?」


 普通と違うアイテムボックスなのはわかっていた。しかしあの自殺コースからの生還者が言葉だけで無く物証を自分に渡す意味がガンダには見い出せない。


「これを届けて欲しい」

「どこにだ?」

「ギルドだ」

「はぁ」


 理由がわからず間抜けな返事を返しつつ、つい差し出されたアイテムボックスをガンダは受け取ってしまった。アイテムボックスを開けばそのアイテムの詳細を見ることが出来る。即ちパイオニアからドロップした物だという裏付けでもあるのだ。そんな物を簡単に渡すアキラに驚きながらも、なんとか何をして欲しいのか聞く。


「んで、オラに何をして欲しいかんな?」

「端的に言えば、ギルドにそれを献上して俺の“保護”を“願い”出てくれ」

「……これから処刑されるのにか?」

「そんな目で見るなって」


 これから活用することも出来なくなるアイテムボックスを無駄にする行為だとガンダは感じていた。それにこのような状況で、なぜ自分で使わないのかもわからない。


「正直言うとさ、俺はこんな所で死ぬつもりは全くない」

「おう」

「そんでこっから先は――もしもの話として聞いてくれ。もしもの話な」

「仮な」

「そうそう、仮だ。そんで仮の話なんだが、この罪都には一人、処刑されるであろう可哀想で哀れで惨めな妹思いの仮面君が居るとする。仮にだ」

「仮な」

「だが妹思いの仮面君はなんとか処刑される前に逃げだそうと考えている」

「仮だかんな」

「そうだ仮だ。でも脱獄なんて大それたことを考えた仮面君は、思ってしまった。例え無事に逃げ出せても逃亡生活になるんじゃないかって、そんなのはまっぴらごめんだ」

「仮の話だかんな?」

「ああ勿論。だから仮面君は考えた。逃げ出しても追われる立場にはなりたくないと」


 アキラのして欲しいことをガンダは理解したが、それがアイテムボックスの献上にどう結びつくのか疑問を呈する。


「アイテムボックスの代わりに保護を求めるってのはわかるかんな。だどもなんで献上なんだ?」


 言外にこのアイテムボックスの価値を朧気にしか理解していないアキラでも、引き替えに保護を求る程の価値があるのは理解しているとガンダは受け取った物を仕舞いながら思っていた。


「アイテムボックスを引き替えには出来ない。その理由は……多分あんたは知らない方が上手く話が進むと思うんだ。あくまでもメッセンジャーでいて欲しい」

「ふむぅ、まぁ頼み事だかんな。わかった」

「献上して保護を求めてくれれば言うこと無し、んで報酬はこれ――」


 話が一段落してアキラが何かアイテムを取りだそうとするが、ガンダが声を上げる。


「あぁ、いやいい」

「え?」

「あの時、オラのせいでおめぇに迷惑かけちまったかんな。これで貸し借り無しにしてくれればそれでいいんだかんな」

「……ありがとうな」

「お礼は素直に受け取っておくけんども、一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「オラがこれを持ち逃げするって思わねぇのか?」


 ガンダがここでの話を握りつぶせばアキラから受け取った物は丸々懐に入れることが出来る。そんな当然のことを聞かずにはいられなかった。自分はアキラを殺そうとまでした奴だ、なのにこんな大切な物を失うリスクを背負ってまでどうして預けることが出来るのかと。


「そうだな……」


 言わなければ伝わらないが、実はアキラはガンダに対して悪い印象を持っていない。性格につていも義理堅く、真っ直ぐで気の良い奴と認識している。だが、なぜかそんな答えを聞きたい訳じゃ無いのをアキラはなんとなく感じていた。


「言わなくてもいいことまで言っちゃうけど、後から頼み事引き受けるのやっぱ止めるって言うなよ?」

「わかってるさ」

「あのな――」









「着きました。ここです」


 受付嬢のノック音で意識が戻る。中から大きくはっきりとした声で「どうぞ」と聞こえると、ドアを開けた受付嬢がガンダだけを中に入れて自身はその場を後にした。


「この度はご協力いただき感謝致します。ガンダ殿、私はここのギルドマスターをしているライヒと申します」

「ガンダって言う。よろしくな」

「よろしくどうぞ」


 大柄なヒューマンが執務机から立ち上がって握手を求める。ガンダもそれに合わせた。


「して、今回の優遇措置ではご不満でしたでしょうか? であるならば別の保証を考え――」

「いんや」


 ガンダは片手で否定しながら制する。ここからはアキラに対する借りを精算するため、慣れない交渉をしなければいけない。


「優遇措置も保証も別に欲しくねぇ」

「確かに罪都の牢に入る時は保留と報告を受けていました。ならば別の償いをお求めでしょうか?」


 大柄な体躯に似合わず丁寧な言葉遣いに、戸惑いも気負いも感じられない。これが彼の自然体なのだろう。


「まぁ償いって思ってくれてんなら頼みがあるかんな」

「聞きましょう。必ず応えるとは言えませんが、出来る限りのことは致します」

「おぉ、それはありがてぇな。交渉は正直得意じゃねぇんでどうすっかって思ってたんだ。でもギルドマスターがそこまで言ってくれたんならオラも単刀直入に言うぞ」

「どうぞ」


 真剣な表情で先を促す。それに応えるようにガンダはアイテムボックスを取り出し、地面へと置いた。


「……」

「その前に、これを受け取って欲しい」

「……氷のアイテムボックス? そのような物は伝記でしか……それにブラックボックスとも違う。そもそもこんな模様をしたアイテムボックス事態初めて見る。それに受付も通さず受け取れとは、随分穏やかではありませんね?」

「オラもそう思う」

「?」

「このアイテムボックスは越冬隧道サハニエンテのパイオニアクラスのボスがドロップした物だかんな」

「パイオニア!? そんな馬鹿な!」

「これを渡したが言うには献上するって言ってたかんな」

「ま、待ってください。本当にこれがパイオニアから出た物だと証明出来ません!」

「オラ達プレイヤーのことは知ってるだろ? オラが調べた情報にゃ【リキッドマシン・ペリメウス】って書かれてたかんな」

「サハニエンテのボスはスノーマンの筈……これを鑑定に回してもよろしいですか?」

「献上した物だかんな」


 ガンダはお好きにと言った体で両肩を上げ、それを見たライヒはすぐさま箱へ近くにあった膝掛けを被せて持ち運ぶ。その間応接室も兼ねているのか、低いテーブルの両サイドにあるソファの一つにその身を沈ませる。


「ふぅ」


 取り敢えずはこれでいいと安堵しながらガンダはライヒが戻ってくるのを待つ。そして数分して出て行った時と同じ布をかぶせたまま戻ってきたライヒが興奮気味にガンダへと問いを投げた。


「こ、ここ、これを献上とは!? い、一体何を考えているんですか! 要求は!? さぁ、仰りなさい!」

「まぁ待て、落ち着けってーの」

「っは!? し、失礼しました。」

「中の物も何かはわかってるかんな」

貴方達・・・は好きに持ち運べるんでしたね。中身や名称がわかった状態で」

「んだな」

「では取り繕っても無駄でしょう。入っている物は、リキッドメタル3個、エクストラスキル【アンチメタル】、生命水の器、極秘研究所跡地の地図でした」

「よくわからんが、そのアイテムボックスに入ってるアイテムはそんなすげぇんか?」

「リキッドメタル1つとっても未知の金属です。機工都市マキナなら扱えるかも知れませんが、物を見てみないとなんとも。それと推測ですが【アンチメタル】は対金属や機械に対して優位になれるスキルでしょう。生命水の器はダンジョンにある回帰の泉、ダンジョン突入時の状態に身体を回復させる持ち出し不能だったあの奇跡の水を保存出来る容器です。極秘研究所跡地の地図は……不明です。研究所跡地の地図は既出ですが、極秘となるとわからないのです」


 ガンダは「へぇ~」と一言返すだけだった。それがライヒには不満な姿に映る。


「献上、と仰いましたが、ギルドに提供いただけるのは本当ですか?」

「これを献上すると言った奴が言うには、あるお願いを聞いて欲しいそうだかんな」


 ライヒは「やはり」と心の中で呟く。このアイテムボックスがあれば、ギルドにもたらす富は金銭だけでも計り知れない。これだけの品があれば名声を得るだけでなく権力さえも動く。持っていき方によっては国さえも穏やかではいられない代物だ。それだけでこれからなされる要求を想像、することさえ出来ずに震えがきそうだった。それでも堪えて必死に、それでも小さく卑屈にならないように問う。


「そのお願いとは、一体何でしょう?」

「1つ目は、ギルドに提出した罪都の牢がしている実体の報告、これを把握して欲しいこと」

「それは当然のことでしょう。言われるまでもありません。私自身も目を通すことを約束します」

「2つ目は、この間あったらしい大規模クエストで処刑を宣告された奴の罪状、その正当性を調べてくれ」

「……正当性を調べろと言うことは、その罪状には正当性が無いと?」

「本人の言葉を鵜呑みにするわけにゃいかんが、そういうことだかんな」

「(本人?)管轄がことなるため厳しいですが、お約束します」

「そんでこれが一番大事なんだが」


 ライヒは自身の唾を飲む。その音が周囲に聞こえているのではないかと焦るが考えをまとめようと務めた。当然の内容である1つ目をわざわざ条件に加える意味、2つ目がそれの繋がりを感じさせる要求、3つ目は何が飛び出すかはわからないが、嫌な予感だけはひしひしと感じている。


「罪都に収監中の罪人、Z-2036……あ、いや今は3階だからZ-3036か、そこに居る仮面の囚人アキラを保護することだかんな」

「それはっ!」


 無理だ。反射的にそう叫びそうになった。どう考えてもギルドが収監中の……それも処刑間近の囚人を保護することなど出来はしない。繋がりからして2つ目の罪状がそのアキラなる人物なのだろう。2つ目の条件の洗い出しにどれだけ見積もっても数週間で終わる物では無いのは想像に難くなく。その間に処刑されてしまえばこのアイテムボックスを貰う条件としては――とそこまで考えた時だった。


「ガンダ殿」

「ん?」

「このアイテムボックスはギルドに献上したのですよね?」

「あぁ」

「そのお願いの成否に関わらず、アイテムボックスはいただけるのですね?」

「まぁそういうことになるかんな」


 ガンダは心の中で舌打ちする。慌てていた相手が落ち着いてしまったせいで献上だけに目が行き始めた。これでは本当にただ献上しただけになってしまう。下手をすれば助けるポーズだけを取って「最大限やってみたがダメだった」と言われれば何も言えない。この時に気の利いた返しが出来ない自分はやはり口が回る方じゃないとことを悔やむ。


「ふむ、しかし物が物です。頂いた以上やれるだけのことはします。とはいえ囚人を保護するのは……」

「オラの要求はその保護なんだがな」

「なんとも難しいですね。せめて捕まる前であれば出来ないことは無かったのですが……」

「捕まる前?」

「はい、容疑がかかっていてもある程度は引き渡しを渋ることも出来ました」


 この言葉を聞いてガンダは一つの可能性を仄めかすことを思いつく。ガンダは地頭は悪くない物の深く物事を瞬間的に考えることが苦手だ。それでも自分がアキラにしてもらった話を彼ほど上手く出来なくてもすれば、状況は良い方に動きやすいと考えた。相手に委ねる危険な賭だが、話した限りはきっと上手くいってくれるとガンダは祈る。


「もしもの話をしてもいいか?」

「? えぇ、それは勿論」

「このアイテムボックスを手に入れたのがその囚人だとするかんな。それになんでかあいつは献上するって言ってる。そんな奴がもし仮に罪都の牢から外に出るなんてことがあればギルドマスターはどうするんだ?」

「そ、それは……」


 このアイテムボックスと引き替えなら答えはNOと突っぱねなければならないし、もらえるのなら精一杯ポーズだけ見せれば義理を果たすことになる。


(だが、果たしてそれでいいのだろうか?)


 ライヒの頭の中でアキラの大まかな行動を予想する。パイオニアをクリアし、正気を保った人物が大人しく処刑なんてされるだろうか? そもそもそんな人物が捕まったこと自体不思議でならない。何か目的があって罪都に来たと考える方が自然だ。


(当然目的を果たせば出てくるだろう)


 なら、その目的を果たした場合、必然的に次の行動は脱獄だ。それをするかしないかは置いておいて、出来るか出来ないかで考える。


(不可能では無い)


 もし本当に最高難度のダンジョンをクリアする実力があるのなら、出来ないわけが無い。アイテムボックスを一人で占有出来る程の実力ならそのパーティが集えば最早力押しでもいけるだろう。むしろその仲間を助けるために化け物揃いのパーティが集うかも知れない。


(それにその判断を独断してしまえる程に、それも第三者に献上、最悪失ってしまってもよい程度にしかこのアイテムボックスを扱っていないのはなぜ?)


 その扱いは兎も角。世間的には価値があるという評価で収まらない品物だ。脱獄後、これ程の品を貴族でもなくギルドに献上してきたのにそのギルドが動かなければどうなるか?


(想像したくもありませんねっ!)

「どうしたギルドマスター?」


 顔色がころころ変わるためガンダが声を掛けるが届かない。その最悪を回避するため更に思考を進める。


(そもそもです! どうしてアイテムボックスを開いていない!?)


 アイテムボックスは冒険者にとってダンジョンでの成果だ。その成果を確かめるだけに止め、手元に置いていた理由が存在することになる。


(どうしてだ!? 開けもせず箱ごと献上してしまえる程度の扱いである理由は!?)


 仮面の囚人にとってこのアイテムボックスを開けもせず、献上してもいいと考え、何がなんでも脱獄の協力や保護等に引き替えを要求してこない意味、最悪失うリスクすら許容しているその理由。


(まさ、か)


 見たことも無い仮面の囚人が笑ったように錯覚した。


(ある、とでも言うのか? パイオニアのアイテムボックスを、他にも所持してるとでも!? だから、無くなっても構わない扱いをしている!?)


 その瞬間、ギルドマスターの腹は決まった。


「ガンダ殿」

「ん? もう大丈夫なんか?」

「はい、失礼しました」


 ガンダは真剣にこの交渉をまとめようとしていたが、あまりにも考え事が長く気が抜けていた。だがそれを見ているライヒには結果を確信してる余裕のような物が滲み出ている貫禄に思えてしまう。ただの勘違いだが、思ってしまった。そもそもがパーティという当たり前の認識事態が間違っているが、それには当然気づくことは出来ない。


「3つ目について、条件があります」

「それは?」

「それはその囚人、アキラ殿でしたか? が、出てきた時に限りギルド側が【拘留するという名目で保護する】ことです」

「ほぉ、なるほど」


 ガンダにはライヒが唸っていた理由はわからない。しかし、目的を達成出来たことだけはすぐに理解出来た。


「いかがですか?」

「あぁ、勿論それで構わん。ついでと言っちゃなんだが、そう考えた理由を聞かせて欲しいかんな」

「……いいでしょう。私は最初、アイテムボックスを頂けることに興奮していました。そこで思ったので。どうして取引ではなく献上なのだろう、と」

「うんむ」


 ガンダは同感だと頷いただけだが、ライヒにはその位は察していると言う風に受け取っている。交渉が不得意という話はもう思考の彼方だ。


「もし取引なら突っぱねなければなりません。そんなことは不可能なので」

「んだな」


 この時ガンダはアキラがどうしてアイテムボックスを引き替えにしないかの理由に思い至って納得した。勿論ライヒの見方は異なる。


「ですが献上する理由を考えれば理解出来るのです。アキラ殿はアイテムボックス、少なくともこれ程の物を複数所持しているのだと」

「あぁ、なるほど」


 ガンダはアキラの考えを理解した。どうして理由を知らない方がいいと言ったのか、もしガンダがアイテムボックスの献上する理由を知っていれば、その考えに沿った行動に移ってしまうからだ。ライヒの答えが合っているかいないかは置いておいて、ふと理由を喋ってしまってもそれを保証することは出来ず、本当にそうなのか? と疑心暗鬼になってしまう。だから物だけを見せ、希望だけを告げるに留めさせたのだ。


 そしてライヒはなるほどを「やはり」と、自分の考えは間違っていないのだと勘違いして受け取る。


「だとしたら罪都から出た後に希望を叶えなかった場合の損失は計り知れません。計り知れない価値のある物がギルドに流れてこず、他にしか流れなくなっては面子も立ちません。それらを加味して希望を聞く判断をしたのです。その罪が冤罪であるなら、なおのこと……」


 人は見聞きした内容に信頼が置けなければ、信じることが出来ない生き物だ。上に立つ人ほど、その立場を守ろうとする人ほどそれは顕著に表れる。その守り崩すにはどうすればいいのか? それは自分で考え、組み立てた内容にリアリティを持たてやれば、自ずと自分からその守りを解き、後は説得力ある流れを自身で思い起こしてくれれば何もせずとも崩れてくれる。なぜなら自分で考えたことまで疑ったり否定してしまっては、今までの自分を信頼出来なくなるからだ。




 と言う考えを、アキラが持っているかどうかは不明だが、結果的にはこの交渉は上手くいった。


「わかった。よし、そうと決まればオラはもう行くかんな。後は任せる」

「……そうですね。こちらも準備がありますからね」


 色々と聞きたいこともあったが、それを飲んで行動に移る。ライヒ自身自分には自分の彼には彼のやるべきことがあるのだろうと思ったからだ。


 ガンダは借りを返して牢生活から解放された憂さを晴らしに行くだけなのだが、それはライヒには関係の無い話だった。

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