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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
158/175

149剛権執行罪都

割烹にも書きましたが週一投稿ができない確率が高いです。ごめんなさい!

今回も遅れに遅れてですが、番外編と149剛権執行罪都を投稿します。


これからも懲りずに見ていただければ嬉しいです!


 執行官が折檻と称してアキラに振り下ろした透明な刃が正にぶつかろうとしていた。


(ふざけたことばっかり言いやがって……なんでこいつはこんなにも偉そうに出来る? どうしてこの程度(・・)の力しか出せないのに傲慢に振る舞える? 相手が拘束されているからって、自分が優位だと信じて疑わないのはなんでだ? 現に、こいつは何も出来ない俺に対して何も(・・)出来てない)

「なっ、どうし――」


 聞こえた声は叫び声でも苦悶の声でもない。振り下ろし、斬りつけた切っ先は止まっていた。それは仮面の額部分、真っ正面から受けるも微塵も身体所か頭さえも揺るがないためだ。


「なっ、じゃねぇよ。武器に頼ってこの程度か、さっきの執行者ってのよりも威力が無い。たかが俺みたいな無抵抗な奴にちょっと言われただけでどうしてそんな声を荒げる? 人としての器も無ければ実力も無い。なんでこの執行者よりお前は上なんだ? この組織は無能ならより上に行ける仕組みにでもなってるのか? あぁそりゃ言葉も理解出来ないのが上級とか言われっ――」

「――黙れ、それ以上の侮辱は看過できん」


 アキラとの距離を一瞬で縮めた上級執行官と呼ばれた男は、杖の先端で抉るように腹部を突いていた。身体が浮くほどの威力に身体が折れる。そしてその一撃で大体の力量を理解した。


「うっ……こ、言葉より先に、手が出せるんなら、山賊でも、出来そうな仕事だ、なっ!」


 そして言葉の終わり際に蹲った姿勢から後頭部を思いっきり振り上げて前のめりに殴っていた上級執行官の顎を打ち抜く。今のアキラは手を出さずにはいられない。近づいてくれたのなら止める理由はあっても見ない振りをする。


「っぐ!」


 何とか上級執行官は手を間に挟み、威力を弱めて軌道を逸らしたがたたらを踏んで後退した。アキラは振り上げた流れのまま飛び膝蹴りに繋げる。不安定な体勢で対策も出来ずに上級執行官は倒れた。


「き、きさっ――がはっ」


 狼狽えている間に着地したアキラは慣れない拘束のせいでバランスを崩して転けそうになるが、姿勢を低くし重心を安定させて駆け出し、タックルの要領で先程の執行官を檻に押しつける。その勢いが強すぎたのか檻が若干んだ。打ち所が悪かったせいか、まともに立てずに地へ顔から突っ伏して気絶した。


「なんだよ本当に無能だったのかよ」


 最後に立ち上がろうとした上級執行官の顔面を思いっきり蹴る。鼻血を吹き出し、鮮やかな真っ赤な扇を作って彼も意識を手放した。


「あ、あんたなんてこと……へ?」


 この中で意識がある無傷の青丸と呼ばれた執行者が間の抜けた声を上げる。


「な、なにしてんだ?」

「むかつく奴らにやり返しただけだ。スッキリしたし、取り押さえてくれていいぞ」


 そう言うアキラはうつぶせになっていた。これ以上は抵抗しない意思を示しているが、一番立場が弱く、経験が少ない執行者である青丸にはとてもその状態が安全には見えないため警戒する。


「……いやいや、マジで抵抗しないから! あ、じゃぁあれだっ俺が転けた隙に上に乗ったってことにして、あんたが取り押さえた体でいてくれ! そんで逃げる意思は無かったってことにしてくれると助かる」

「はぁ?」


 急展開についていけず、疑問の声を上げる。それすらもどかしいアキラは、遠くから来る気配に焦っていた。


(向こうから近づいてくる人数が多すぎる。間違いなく能力が制限された今の状態じゃ対応出来ない。そもそも今逃げるつもりなんて本当に無いんだからこの人もこの人で早く取り押さえてくれよ! ……よし、こうなったら)


「あんたが取り押さえないならこうだ!」


 両手が使えないが、鞭のように身体をしならせ器用に立ち上がると倒れてる執行官両名にアキラは追撃の蹴りをお見舞いした。呻き声が聞こえるものの起きる気配はない。


「ぅ……」

「や、やめろ!」

「じゃぁ取り押さえてくれよ!」

「わ、わかったからやめろっ!」

「よし! ……後一発だけ」

「おいあんた!」

「それじゃ乗って取り押さえてくれ!」

「くっそ……何が何だか」


 言われるがまま職務としては正しい行動なのだが、いまいち納得出来ないままアキラを取り押さえた。


「この二人を必要以上に痛めつけてた俺が転けてあんたに乗っかられて取り押さえられたってていだからな、マジで俺脱獄する気無かったから。もし今言ったこと以外に余計なこと言ったらあんたに迷惑の掛かる最悪の場面で問題行動起こすからな。どうせ処刑される身だ、半端じゃなく形振り構わない形で迷惑掛けるからな」

「ど、どんな脅しだよ? わ、わかった……」


 当たり前だがアキラに処刑される気は毛頭無い。それを知らない相手だからこそ通じそうな言い分だった。それに拘束された状態からでも自身より実力が上の2人をいとも簡単に昏倒させたのだ。その実力で捨て身の迷惑がどの規模なのか想像も出来ない。どっちにしろ処刑される彼に同情する面もあり、青丸は渋々頷く。そして、例えアキラが提案しなくとも青丸はほぼ既定路線の未来を思い描いていた。


(必要以上に折檻するのは禁止されている。それもあってこのお二方は囚人が脱獄しようとしたなんて絶対言わない。そんなことしたら全てを報告しなければならないし、この人も移送される。そんなことになったら報復・・する機会を奪ったとか言われて何をされるか……)

「おい! わかったなら早く大声で人を呼んでくれ」

「あっ……おーい! 誰か居ないか!」

「よし……少し暴れるからな? ………………くっそ! 離せよ! こいつら許せねぇ!」

「あっ! おい暴れるなっ! やっぱりおま――」

「しっ! そのまま乗ってろ」

「な、なんなんだ一体?」

「どけよ! こいつらこのままじゃ俺の気が済まねぇんだよ!」


 落ち着いてみればわかるが、暴れているのは格好だけで乗っている青丸は全くと言って良いほど振り落とされる気配を感じない。ぐらつくだけでアキラは藻掻くだけだった。


(乗っかられるって思った以上に身動き取れないもんなんだな)


 暴れながらそんなことを思うアキラだったが、青丸が要請した応援が複数の音を響かせながらやってくる。


「どうした!? 何ごとだ!」

「離せよっ! くそ! こいつら思い知らせてやる!」

「おわっ! た、大変です! こいつが突然暴れてっと」

「おい! 誰か手を貸せ!」

「じ、自分だけではダメです! 協力を!」

「わかってる! この囚人を取り押さえろ!」

「はっ!」

「何があった?」

「隙を突いて暴れ出し、必要以上に執行官殿を痛めつけていました……」

「離せぇ! こいつら絶対に許さねぇ!」

「うぉっ」

「しっかり押さえろ!」

「はっ!」


 青丸と同じ複数の執行者がアキラの側面から足を含めて取り押さえて身体を持ち上げ、抵抗出来なくする。アキラは叫びながら相変わらず形だけの抵抗は続けていた。


「くっそ!」

「拘束されてるってのに無茶苦茶な奴だな……取り押さえたのはお前だろ? 経緯を説明しろ」

「はっ! ……執行者殿と上級執行者殿の隙を見て暴れ始め、昏倒させられていました。続けて危害を加えていましたが、途中足を滑らせて転けたのでその隙に背に乗り取り押さえました」

「いい機転だったな、怪我は無かったか?」

「幸いわ、私は檻の外に居たので」

「よし、逃げようとはしなかったか? 他に変わったことは」

「は、はっ! その素振りはありませんでした。格子が空いているのに手を加え続けていたので癇癪を起こしていただけかと」


 報告する青丸は次第にやってしまったと心の中で嘆く。だが今更撤回は出来ない。


(でも、この人達も囚人に折檻してたらやり返されて気絶させられたなんて絶対言えない……むしろよくやったと言われるんだろうな)


 青丸のエルフはこれからの展開に色々な感情をごちゃ混ぜにされながらこの先の展望を憂いた。






「罪人の自白を確認致しました。刑は予定通り一週間後に執り行います」

「わかった……ん? 顔が腫れているが、何かあったのかね?」

「い、いえ、牢の石に足を取られ転けてしまって……」

「にしてはやたら顔の腫れが酷いが?」

「ぶつかった先がたまたま鉄格子なもので」

「なるほど」

「では失礼します」


 赤い制服の胸の位置に紫色で六角形のバッジを付けた上級執行官――アキラに昏倒させられた者が動揺を隠し、心の中を怒りに震わせながら何事も無く退出した。






 天井が見えないほどの闇、だが天から垂れ下がる光源は眩しいほどに明るくどこを見るのにも不自由が無い。不思議なことに明る過ぎても目も頭も痛くならなかった。壁は整えられた石で出来ていて、地面は柔らかく茶色い毛皮のような質感をしている。


(なんで柔らかいんだろ)


 そう考えながらアキラは初めて見る青丸と呼ばれる執行官の後を付いていく。背後には緑の制服を着た執行官がアキラを見張りながら後に続いた。暫くすると鉄柵で塞がれた通路に到着する。


「囚人Z-2036到着!」

『囚人の到着を確認』


 ヴィー! ヴィー!


 どこからか聞こえるスピーカーを通したような声と同時に、ブザーが鳴り鉄柵が持ち上がる。


「ここに入れ」

「どうも」

「本来なら暴れたお前を特房から出すわけにはいかない……が、処刑まで残り一週間だ。残りの短い時間位は一般房で過ごしてもいいとのお達しだ。わかっていると思うが脱獄なんて考えるなよ? その首輪・・がある限りこの罪都からは出られないからな」

「散々聞いたよ、もういいだろ?」

「あぁ、囚人の移送完了!」

『移送を確認した』


 またブザーが鳴りながら鉄柵が静かに閉じる。静かな地鳴りと共に閉じた鉄柵を眺めながらアキラは胸中複雑な思いだった。


(……静かだな……俺は本当に囚人、みたいだな)


『囚人Z-2036! そのまま線を跨げ』

「ん? これか……は!?」


 地面に描かれたラインを越えると目の前にあった筈の白い空間が急変した。太陽が降り注ぎ、左右に広がる鉄製の格子が壁のように設置され、弧を描いて並んでいた。それは反対側まで続き、上空から見れば円を描いた形をしているのは容易に想像が出来る。


(牢屋で全体を囲ってるのか? よく見れば二段三段と続いてるし所々階段もある……んーなんかコロッセオみたいだな)


 後ろを見ればついさっきまで居た白い空間が見えるものの、鉄柵は見えなかった。


「囚人、早くこっちに来い……よし後ろを向け」

「……」


 先程のスピーカーと同様の声に呼ばれて近づき、言われたとおりにする。緑の執行官がアキラの拘束具のロックを外した。あまりにも呆気なく外されて驚いていたが、当然暴れたりはしない。静かに首輪に触れる。


「改めて説明するが、その首輪が付いている限りこの罪都からは文字通り出ることは出来ん。個々の能力にも制限が掛かる。首輪が鳴ったら我らの指示に従え」

「わかった」

「これから10分以内に牢へ入らなければ懲罰の対象となる。死刑囚は一番奥のZブロックだ。見回りはするが案内はしない」

「……行っても?」

「構わん。細かいことは担当の執行官が居るからそいつに聞けばいい」






「なんか疲れた……早く横になろう」


 漸く解放、と言うには語弊があるが、今までに休憩も無くあまりにも色々なことがありすぎた。彼は精神共にも肉体的にも困憊しているためZブロックへと重い足取りで向かうのだった。

次回もよろしくお願いします。

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