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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
152/175

144全ては予言の通りに

短いですが本編です。番外編も投稿しています。


『――ォォォオン……』


 空間を反響させる轟音が竜の鱗で覆われた筈の地肌を叩いたかのように震わす。


(おっかないおっかない。やっぱり来やがったな……あんのクソヒューマンッ!!)


 ダンミルは心の中でテンションの最高潮にいた。


「ダンミル! どうやらあのヒューマン……」


 その逆にこの世界の神に命を捧げることを至上とする過激派宗教、神命教からやって来たヒューマンの男はアキラを見て焦る。自身の手によって生まれたノートリアスモンスター変異種が思った以上に少ないターゲットしか神の元へと導けていないからだ。


「焦るなよ。邪花の眷属の変異種が変わりにその仕事を果たしてくれただろうからな」

「だ、だが……」


 丁寧な言葉遣いをとっくにやめているが、神命教の男は動揺のためか、それすら気に出来なくなっている。


(こいつはほんとに形だけだな。それより……)


 ダンミルは神命教のこの男がそれ程の力が無いことを薄々察している。それなりの地位を持っているが、敵に対する危機感の無さや現在の狼狽え方を見て武力による物では無いと判断した。


「確かに使徒様はやられちまったようだが、その相手・・もただじゃ済んでねぇみたいだな」

「……なら使徒様の仕事を奪ったツケを払わせないとだ」

「あいつは俺と因縁があってな、任せてくれ」

「ふ~ん? なら任せたぜ」

「……ああ」


 ダンミルは逸る心臓の音が耳まで聞こえてくるのを懸命に堪えながら歩を進める。あまりの興奮に頭の血管が破裂しそうな興奮が抑えられない。自分が冷静に声を発せているのが不思議なぐらいだ。


「キヒ、ヒハハァ! やっとだ! やっとやっとやっと!! 奴を葬って翠火をこの手に出来る!」


 彼はどう控えめに見ても真っ当な人物では無い。それでも世の中は残酷に公平だ。


「ツイてやがる! ハハッ……そりゃそうだっ! あんな(・・・)目にあってから必死こいて努力を重ねたんだっ……報われねぇわけがねぇんだよぉっ!」


 そう、ダンミルは思い込みでは無く現にツイている。ブラックアビス・変異種が倒れ、翠火はギリギリで生きており、アキラは最後の一撃を機に倒れている。この状況はダンミルにとってどこまでも理想的な流れで、彼の性格を読み取った神が授けてくれた美味しい状況に他ならない。勿論この流れに乗らない理由も存在しないため、最後の仕上げに掛かる。


「なぁ、アキラ(・・・)よぉ~? どんな気持ちだよ? あんな理不尽に俺を追い詰めて、その俺にこれから――殺される(・・・・)気分はよぉ?」


 彼の目の前には右手の原型はある物の、炭化した腕をしたアキラが意識を無くして倒れている。ブラックアビス・変異種を倒してから負った怪我は自身のシヴァによる反動で受けたダメージのみだ。シヴァのみを強制的にエゴにしていたせいでアキラの腕は炭化していた。


「こんなになるまで苦労したってのに知らない間に逝っちまうんだから、報われねぇよなぁ? ヒィヒヒ」


 本来であればシヴァをエゴに出来たアキラにもその恩恵は与えられるが、エゴが使えない状況で無理矢理シヴァをエゴにしたためアキラ自身にその恩恵が与えられず、自身のスキルに耐えられなかった結果が今の容態だ。


「まぁ意識が無いのは残念だったが……そこまで求めたら罰が当たるよなぁ? って俺は誰に言ってんだってぇのぉ! ……さてと」


 愉悦に震えて漏らす言葉に浸りきると、自身のオルターである刈り取る物(ハーベスト)を呼び出す。最早名前すら呼ばず、オルターからは意思すら感じない。それでも決して弱いと言うことはなく、仄暗い気配を漂わせている。


「二度と関わらず手を出すなっだったな? 誰が守るかってんだ……っよ!」


 ダンミルがアキラの顔面を蹴り飛ばす。


「っち……石でも蹴ったみたいに頑丈だなこいつは……っよ!」


 次に踏みつけようとしたが……。


「!?」


 アキラの左手が今までに無いほどエメラルドに輝きダンミルの足を掴み取る。だがアキラが目覚めた様子は無い。反射なのか、偶然なのか、奇跡なのか? そのどれであってもダンミルのやることは変わらない。


「くっ……さっさとるかっ!」


 もし今の状況から想定外のことが起こればそれこそ苦労が水泡に帰す。そんなことは彼の性格上絶対に認めてはならない。だから両手で杖のオルター、ハーベストをアキラの心臓に突き立てた。


「ぐぶふっ」

「ケヒ」


 また左手が邪魔をする前に掴まれた足でアキラの手を踏みつけたまま全身を使って呆気なくその杖の先端は命を貫いた。






【プレイヤーアキラが死亡しました。】






 確かに光の粒子となって消えていくアキラを見たダンミルは最高潮に達したテンションを我慢しながら必死になって堪え、やっと踏み出すように歩いてその場を離れる。


「後はお前だけだ……待ってろよぉ! 翠火ちゃぁん……ゲェヒヒヒ」


 ダンミルの知る通り、アキラは死んでしまった。






 ここまでは貴族であるクロエの屋敷で告げられた予言通り(・・・・)の内容だ。頭から先まで、その内容を振り返れば全てが合致している。そしてこれから起こることこそ予言師が懸念している物で、アキラがその大きすぎる壁に押し潰されないよう祈っている部分でもあった。






「……これはどういうことですの?」


 それはアキラが死亡した――ことについてではない。彼女、ダンジョンの管理人ロキが与えた物が正常に機能していないからだ。なぜアキラが未だに(・・・)復活しないのか? 彼女はそれを訝しんでいた。


「“死転の面”は死に転じた事実をその仮面が担う物、仮面が消えるなら兎も角彼が消えるなんてことは有り得ない。2回目の致死ダメージを負っていないにも関わらず消滅するなんてそれこそ……え? この気配は……どうして? ゼフトさんは最後のダンジョンをまだ作り始めてもいないというのに!」

《それはダンジョンなんて関係ないからさ!》

「っ!?」


 声が聞こえないのに言葉が理解出来る不思議なコミュニケーションを使う者がロキに語りかける。


《やぁ病弱っ娘ちゃん!》

「デフテロス! どうして貴方がこの世界に!? まだ貴方は来られないはず!」

《そんなの関係ないさ! それはこの世界を創らせた(・・・・)時の人達が勝手にそういう設定にしてたから付き合ってあげただけだよ? そんな曖昧な物はいつでも壊せる(・・・)

「そ、そんな……」

《それにここに来た理由はね……面白い人が居たからだよ》

「ま、まさかアキラさんが消えた理由は!」

《ふぅん、彼アキラって言うんだ? そのアキラだけどね、当然死んでないから安心しなよ! タイミングが良かったから僕が魂を呼び出したんだ。用が終われば戻すから安心してよ》


 笑顔を振り撒きながら語りかけてくる無邪気な様子だが、ロキは一向に警戒を緩めない。


「止めてください! 折角生まれた可能性を貴方の気まぐれで壊されるなんて……」

《仕方が無いね~見つけてしまったんだもの。彼は英雄の資質が全くもって“0”なのに、過去の偉人達以上に強靱な精神と巡り合わせ最悪な運を持っている》

「え? 英雄の資質が0?」

《そうさぁ歴史上全ての神話や英雄、救世主なんかの存在と関わってきた僕が言うんだから間違いないよ。例え一般人でも超常の存在を倒しうることは出来るさ、でもそれがこうも続くのは有り得ない。現実世界で同じ目に遭えばとっくに死んでいるだろうことを考えれば尚更ね》

「……」

《だからね、僕は遂に見つけたかもしれないこの面白い存在に試練を課したくて課したくて仕方が無いんだよ!》

「も、もし試練が失敗に終われば他の者達同様精神を……」

《廃人になるのは仕方ないでしょ》

「貴方はっ!」


 ロキは声しか届かない相手にやり場の無い怒りをぶつけたくて仕方が無い。だが触れることすら出来ない相手には届かない。


《普通に生きていれば彼は魂魄の力を引き出す存在と出会うことは無かっただろうね。でも絶対に触れることがなかった筈の存在、その有り得なかったを有り得なかったが手にした結果がこの人(アキラ)なら、例え資質が無くても僕の試練に打ち勝ってくれるはずだよ! まぁ英雄でも神話の存在でも救世主でも無いんだけど、強いて言うなら一般人代表かな?》

「な、もし、もしも本当に一般人であれば貴方の前に出れば……!」

《ははは、そこは安心してよ。オルターという彼ら特有の存在がその魂を守ってくれてるみたいだからさ》

「それでも!」

《ごめんね。決めたことだから!》

「デフテロス! 止めなさい、デフテロス!! こんな……こんな終わりって…………」


 ロキの悲痛な叫びだけがその場に残る。もうデフテロスという存在は居ない。顔を手で覆い、座り込む彼女は折角見つけた可能性が潰えたことに絶望する。そしてデフテロスの声が消えてからすぐ、彼女に呼びかける声が聞こえた。


「ロキさん」

「……運命の王が私に何か御用がありまして?」


 それはこれまでアキラの未来を占った予言師だった。


「よしてください。私はただの予言師、その行く先を見ることしか出来ない中途半端な存在です」

「……そうですか」


 ロキは力なく項垂れる。


「この未来は私の視た中で避けられぬ未来でした」

「……?」

「彼が生き残った場合、デフテロスに目を付けられるのは必然だったのです」

「そん、な」

「ロキさん、貴方には言っても問題ないでしょうからお教えします。彼を視ましたが、彼の行く末は避けられぬ死が待っています。これを避けることは出来ません」

「でも、それは死転の面で……」

「それでもです。この世界が仮に救われ、私達・・が解放されても、彼に待つ運命はそう遠くない死なのです」

「……え?」

「勿論彼にはそれを伝えています。この事実のみ不変の物ですから」

「なっ」

「最初は信じていなかったようですが、今では実感しているはずですよ?」

「そんなのって……」


 ロキはデフテロスが巡り合わせ最悪な運という言葉を理解した。何がどう足掻こうがアキラの待っている最後は死しかない。これまでボロボロになり努力してきた全てが結果的には無に帰す。正しく最悪な運を持っている。


「あんまりではありませんか……」

「ですが、それでも彼は進むことを止めていません。彼の妹という存在が支えになっているお陰です。しかし、それもデフテロスが課す試練を前にすれば――」

「その支えすら、消え、る」

「はい」

「う、運命の王。貴方は、わ、私に一体何を言いに来たのです?」


 結局は終わりではないのか? ロキは言外に告げているが、予言師は首を横に振る。


「もし彼が死して尚、“全て”を諦めなければ、破壊の概念デフテロスの試練に打ち勝てるかもしれません。私は打ち勝った場合の未来を視ています。生憎とどのように勝ったかは見ることが出来ませんでしたけれど」

「それは、あのデフテロスを前にして不確定の未来だとでも言うのですか?」

「ええ、もしかすればその試練さえも越えてくれることを私は期待しています」

「あの試練をクリアではなく……越える? 運命の王、貴方は一体その目で何を……」

「もし彼が帰ってくることがあれば全てがわかります」


 それは帰ってこないことも有り得るが、予言師はそれを言わずに姿を消した。

次回もよろしくお願いします。

評価、ブクマしてくれると嬉しいです。


結構前ですが予言の内容は

104顔を覗かせる悪意

にあります。


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