番外編 破壊と創造
番外編です。
本編も投稿します。
現実世界のとある場所、意識のみがやり取りをする場所が存在する。その場所は人類が到達して数十年も経つが人は未だ自由に活動出来ない空間であり、暗く寒く呼吸も出来ない。危険極まりないが、行くことは困難で遠くから眺める分には綺麗な星々が情緒溢れる景色を作り出している。その景色の中で決して見ることは出来ないが、声なき声でやり取りを交わす存在が居た。
《聞いてくれ! 遂にやったんだ!》
《今は君のお遊びに付き合っていられないんだ。早くしなければまた星が滅びてしまう》
《これはプロトスにも関係ある話なんだよ?》
《……君はいい加減に変な呼称で呼びかけるのを止めないか、名前など意味が無いだろう》
《そんなことないさ! こうして意識があるのに個として活動しないのはよくないよ! 君だって意識はあるのにやってることは生まれる前から変わっていないじゃないか!》
《そうして自我を持ち役割を放棄した結果、終わりを手に入れてしまった存在を忘れたのか? あれの性質上、生を受けられる可能性は人類に依存しなければならない。それも人ですらないのだ、生まれることすら定かではない》
《そうだけど僕の話にはあれっていうか、あの子も関係してるんだよ!》
《そうか、なら話を聞こう》
プロトスと呼ばれた意識だけの何かは、上機嫌な意識だけの存在に耳を傾けるため何かの作業を止める。聞く姿勢をとったようだ。
《僕とプロトスが何度も破壊と創造を繰り返してどれ程の時間が過ぎたかは考えても意味が無いよね?》
《君がいい加減に破壊を繰り返すせいでどれ程の生命や文明が壊れたかを考えるな、と言うことか》
《まぁまぁ、流石に生まれた頃は意識も何も無いんだから勘弁してよ、今じゃ反省して壊し方を選んで今日までやってきたじゃないか!》
その言葉にどうしようもないような声音で返事をする。
《だがどれ程手段を構築しても形ある物はいつしか破壊され、消えてしまう》
《そう! それだよ!》
声だけ聞こえるためイマイチ伝わらないが、もし人の姿をしていればプロトスに指を突きつけているだろう。
《この前プロトスが創ってくれた生命が居ただろ?》
《……? 最後に私が生命を創造したのは何万年前だと思っている。この前という言葉の使い方が正しくないぞ》
《相変わらず君は細かいね。過去の時間の経ち方なんてどうだっていいだろ? 話を戻すけどその時の生命、人の魂魄についてなんだ》
《ああ、あれか。一握りの才ある種だけが扱えるように調整した力のことだろう?》
《そうそう……そういえばどうしてそんな制限掛けちゃったの? 生まれた時から使わせればよかったのに》
プロトスに語りかける陽気な意識だけの存在は、話したいことを後回しにしてついつい質問する。
《正しく認知し、発展させるには常識にしてはいけない。その力が大きければ大きい程にな。それにもし常識にしてしまえば種の成長を妨げる原因にもなる。それにあのような力を種関係なく幼子が使えればふとした拍子に大災害に発展する可能性も高い。だがいずれは全ての人が扱えるように調整をした力の……筈だった》
何かを間違えたように呟く。第三者が見ていれば落ち込む雰囲気を感じ取れたかもしれないが、プロトスは言葉を句切っただけで落ち込んだりはしていない。ただ後悔しているだけなのだ。
《発見とか活用とかで人は……なんだっけ? まぁいいや、でもそのせいで魂魄を扱えない大多数の人が魂魄を扱える者を虐殺したよね。細かくは知らないけど同じ種なのに迫害したり、魔女狩り? とかいうのをしたり異端な存在として多数の魂魄を扱えない者達でそれはもう見るに堪えない――って言っても何が問題なのかよくわからなかったんだけどね》
《……そうだな》
人の良識が無い故の発言に溜息が聞こえそうな程重い相槌がプロトスから発せられる。話を進ませるためにもプロトスは己のもたらした結果について続ける。
《流石に創り出した私もあそこまで悲惨な結果になるとは思ってもみなかった。感情という物を甘く見積もりすぎたのかもしれない》
《そもそもなんでそんな物創ったのさ? 最初から完璧な、それこそ感情の無い完全な生命を創ればいいのに》
《完璧な生命を創ることに意味は無い。創ってしまえばその時点で過程は生じず、結果だけが残ってしまうし感情すらもあってもなくても変わらないだろう。完璧な存在は上も下もない、と言うことは上がることも下がることも出来ないんだ》
《ならどうして感情なんて不確かな物を付けたのさ? 僕個人としては素晴らしいと思うんだけどね。そんな種の存亡に関わる大事件が起こる程醜くなることもあるのに、その真逆の存在だって居るしさ》
《成長の余地を生むためにも不完全な存在として生命を創る必要があった。……皮肉なことに、その意図的に創った欠陥の1つは優秀な個を駆逐するまで歪に成長してしまったのだが》
《へぇ! って話を戻すって言ったのに全然戻ってないじゃないか! いいかい?》
改めてプロトスへと語る元気で明るい声だが、もし第三者がこの場に居ればその明るい言動の端々からおかしな物に気づく者も居るだろう。話す内容が時々過激だったかと思えばそれを全く気にしない。かと思えば聞いている内容を放り出したりもする。始末に負えないとても元気な子供のような振る舞いを。
《折角頑張って創った地球が壊れるのは仕方が無い。でも君はそれを嫌がっているから僕にも対処法を探せって言ったよね?》
《私の言葉は忘れられているのかと思っていたよ》
《酷いな~》
《話の続きはなんだ?》
《うん、それなんだけど今の人って種は凄い成長の仕方をしてるよね?》
《ああ、まるで生き急いでいるかのようにある日を境に文明が想定外な発達の仕方をしているな》
《それでさ、つい最近あの子が生まれる条件も整ったよね?》
《私が創造したわけではないから忘れていたが確かにそうだな。……そうか、あれは生まれる所まで来ていたのか、人の成長は想定外過ぎるせいで気がつかなかった》
プロトスは今は無き意識だけの存在だった物に、顔があれば考え深い面持ちでほっとしたような雰囲気を浮かべる程度の安心感を感じていた。
《てっきり僕は神みたいな崇拝される存在として生まれると思ってたよ。形は違うけど似たようなもんだったし。まぁそれは置いといて、もし人が僕達みたいに破壊と創造が出来るようになっていたら……どう思う?》
《どういうことだ?》
かなり興味があるのか、食い気味に質問するプロトスを宥めながら続ける。色々な意味で聞いたはずだが、質問は後者のみ答える構えのようだ。
《君は星を救う手段として色々創ってばかりいたけど、人は破壊も創造も出来るようになったんだ》
《無から有を生み出せるようになったというのか? 有を無に帰することが出来るようになったというのか? いくら人が成長しても有り得ないだろう》
バッサリと切り捨てるプロトスだがもう片方は朗らかに話を続ける。
《君の基準はスケールが違い過ぎるよ。文明ばかり見ているせいで気づいてないのかもしれないけど、娯楽には目を向けていないだろう?》
《私は楽しめないからな》
《実はその娯楽が破壊も創造も可能にしてるんだよ!》
《?》
《単純さ! 人は電子っていう世界を操ることで、擬似的に僕達のやっていることを再現しているんだよ。内容によっては僕達以上に優れているね》
《電子……あの子の世界で擬似的に再現する、か。あるべき物を利用して世界を創るという発想は無かった。世界はそのようにして生み出せる物では無いからな。だがそれは不完全だろう? 所詮は疑似世界だ》
問題点をすぐに理解し、断定するようにプロトスが問う。もし姿が見えていれば肩を竦めたであろう仕草が見て取れた。
《まぁ言ってしまえば無から無を生み出してるとも言えるね。だって現実には決して反映されないんだから》
《前提としてそこまでの技術を高々数百年で生み出せるわけも無い。もし無から有を生み出せるとしても問題だらけで現実的では無い。人が鍬を持って畑を耕す方が現実的だ》
人は機械を使って物を動かすことは出来るが、物を生み出すことが出来るのは電子の世界の中だけだ。現実ではコピー&ペーストすら出来ない。
《でもね、その世界って擬似的とはいえアイディア次第でなんでも出来る世界だよね?》
《それは否定しない。仮とは言え人の数だけ世界を創れるということは予期していない成長だが喜ばしいことだ》
《そこでさっきの魂魄の話に戻るけど、その擬似世界と魂魄を組み合わせればその星が消滅する対処法が生まれる可能性も出てくるんじゃないかと思ったんだ》
《だが魂魄を扱う者は迫害される。それは歴史で証明されただろう? 魂魄を扱える者はほんの一部しか居ない》
《フッフフン》
プロトスに得意げな雰囲気を漂わせて「君は本当に創ることばかりなんだね」と前置く。
《確かにそうだけどそれは過去の話だ! 生まれた国によってはむしろその力を望む人も居るんだよ! 現に1つのゲームという娯楽はそれこそ迫害された者以上の力を振るっているんだ! それを喜び、楽しんでいる!》
《確か少し前にお前が見ていた英雄と呼ばれる存在や神と言われる存在が居たな? あれとは関係ないのか?》
《君も僕のことを言えないね、少し前って言っても数千年も前じゃない? まぁいいや、あんなの魂魄を上手く扱えた成功例だけど、その一部の人もすぐ寿命が来て扱う者が消えていった果てに廃れてしまったじゃないか、当然違うよ》
その言葉にプロトスは考える。成長を促した結果、失敗だけではなく成功もあった。しかしそれは一瞬のことで、その成功は長くは続かない。代を重ねて強化されるはずの物が結果的には消えてしまっているためだ。正確には世間から隠れてしまっていると言った方が正しい。
《人の創る娯楽は凄いんだよ? 本来なら現実には無いのに、現実にあるように見せかけてるんだ。現実に仮初めの現実を作る、仮想現実って言うらしいんだけどそこで僕は気づいた!》
《……待て、お前あの星に干渉してないだろうな?》
《話は最後まで聞いてよ!》
《あ、ああ》
なんとも言えない迫力に確証を得られないままプロトスはつい同意してしまう。
《この世界なら僕はいくら壊しても問題ないと気づいたんだ! 破壊を乗り越えられる存在を破壊をもって造り出せるかもしれないってね。そして魂魄を扱えるように出来れば更に凄い成長が期待出来ると気づいて……やってしまったよ!》
《……やってしまったか》
プロトスは薄らと予感はしていた。やってみようでもやれるかもではない。もう全て終わっていたのだ。だから知らせに来たのだろう。
《その世界もこの星同様最後は終わりの危機を迎えるようにしてるんだ! 仮想現実なら僕という個は仮初めの姿で、あの子のように遊ぶことが出来る! あの世界でも壊すことで人の成長を促すことが出来るんだ!》
《まぁ待て》
すぐにでも意思が消失しそうなのをプロトスが止める。勿論遊びたがることについては個を得てしまった以上止めることもしない。
《なにさ?》
《お前は魂魄がどう言う物なのか知らないのだろう?》
《当たり前じゃ無いか、壊すことしか知らないんだからね》
《当然のように言うな。お前の言うようにそれをやってしまったことは破壊のための一環として特に問題は無い》
《なんか問題無いって言ってるのに問題ありそうな言い方だね?》
《大問題だ。娯楽というからには何度でも遊ぶことが出来るのだろう?》
《当然さ!》
《だがそこに魂魄を持ち込むことで遊びでは済まなくなる。間違いなく魂魄を使える者がその仮想現実で活動すれば、下手したら死ぬことになる》
《へぇ……あ》
《……どうした?》
死に対して特に思う所は無さそうだったが、その後のやってしまったような言葉にプロトスはなぜこいつは自分と同一の存在なのかと疑問は尽きない。
《魂魄って廃れていても一部の人が扱えるよね?》
《ああ》
《でもその人達って隠れてるよね?》
《そうだな》
《この星の時代は隠れる方法は大分限られるから、今では隠し方を変えてるんだけど知ってた?》
《失敗した成長に興味は無い》
《だから時代が変わって……まぁいいや、その人達ってほとぼりが冷めた時に社会に進出してて、力を隠して現代に溶け込んでるんだ》
《私に合わせて全部説明してくれるのは嬉しいが、要点だけ頼む》
まるで言い訳するように段階を踏んだ説明にプロトスが急かす。
《……その人達に仮想現実で遊ぶ遊具を作らせて、その遊具を使うことで魂魄を扱えない人も遊具を介して擬似的に扱えるようにしちゃったんだ》
本来であれば一部の者しか使えない力をゆっくりと広める予定だった。しかしこのやり方を実行すれば爆発的に力を扱える者が増える。そして同時に死者も爆発的に増えるのだ。
《……………………ふむ、やはり魂魄は失敗だったのだな。歴史は繰り返すと言うが、まさかこちら側がやってしまうとは》
長い沈黙の後、結果をシミュレートしていたのだろう。プロトスが吹っ切れたように告げる。
《ん~いい感じに進めてるんだから水を差すようなこと言わないでくれる?》
《気づいていないのか? お前は表舞台に引っ張った魂魄を扱う者、所謂修練者を再び苦境に立たせていることを》
《へ?》
《その遊具を使って魂魄が電子の世界行ってしまうとまず間違いなく大半は死ぬだろう》
《なんでさ?》
やれやれと頭を振りたいが、人のように形は存在しないため溜息を吐きたい気分を言葉に乗せる。
《仮とは言え魂魄を電子の世界で扱えるようにすれば、その者の魂魄は間違いなく電子の世界に引っ張られてしまう。現実の肉体は消滅し、仮想の世界で仮想の身体を使って生きる羽目になる。そしてその世界の死を経験すれば間違いなく魂も死ぬだろう。仮初めの肉体を維持出来るなら別だが問題はそれだけではない》
《まだあるの?》
《先程も言ったろう? 電子の世界に行った身体を現実世界で再構築するには魂を戻さなければならない。魂さえ戻れば問題ないが、魄を象る際に発生するエネルギーは何が、又は誰が負担する?》
《どうなんだろ?》
明らかに他人事に聞き返す様に呆れながらプロトスは答えを返す。
《他に方法を用意していなければ……いや、現時点では不可能か、なら魂魄所持者から直接負担することになる。そしてそれに耐えることは未熟な魂魄では不可能だ。今の文明でその問題が明らかになれば過去に例の無い大規模な人災が起こると考えられる》
《……あっちゃ~その仮想現実で遊んだ人達が一斉に死んだら確かに恐ろしいね。まぁそこら辺は人に任せるしかないね! もういいだろ? じゃ僕はその仮想現実の中で面白い人間を見つけたから早く“試したい”から行くね!》
既に仮想現実で結果的に人が死のうが気にしていないらしく、やりたいことを優先する風に語る相手に、プロトスは注意しながら試すと聞いて疑問を上げる。
《他人事みたいに言うんじゃない。それに試すと言ってもお前が課した難題を突破した者は過去英雄と呼ばれたが、それ以上に犠牲になって者が比にならない程居たはずだ。壊し方を選ぶなら人の選別も必要だと思う。その犠牲とて無意味に人を減らしたりはしていないだろ? ただ突破した者達は乗り越え、出来なかった者達は心を病んだだけだ》
その独白が聞こえていたのか、最後に「それで自殺を選ぶ人なんてその程度だよ」と人を人とも思わぬ発言をするが、その声なき声にテンションは変わらず起こったことは仕方が無いで済ましている節が見られる。
《それでも結果として何も変わっていないではないか、本当に“壊す”必要があるのか疑問だ》
《僕の課す試練の代償のことを言ってるの? そうは言っても、感情を創ったのは君だろ? 僕はそれに沿ってその人を壊し、這い上がらせることで英雄を造ってきたんだ。無から有を生む君とは違うんだからそこは勘弁してよ。有を無にする方法しか、僕には無いんだから》
言うべきことを言い終えた後、その場から1つの意識が消失するのをプロトスは感じた。
《お前は有を無にすることで新たな有を造る。その結果様々な英雄達をこの星に作り上げてきた。だがそれは本当に必要なことなのか? 過去に生まれた英雄は偉業を為せばそれで燃え尽きてしまい、その場限りの力で終わってしまう。それでは後が続かない。敗北を与え、大事な物を壊し、それを乗り越えたことで得られた力は人の身にしては確かに素晴らしい》
一頻り賞賛するが、その声音には含む物があるのは当然だ。何度繰り返しても同じ結果にしかなら無いのなら辞めるか変えるしか無い。その考えを、意思はなくともその相手に伝わると知っているプロトスは独白のように語る。
《失敗した成長に興味は無い。が、人はいつだって想像を容易く越えてきた。……お前はただその可能性を摘み取っているだけなのかもしれないのだ。デフテロス――そうまでしなければ得られない程度の力でこの星の消滅を退けられるとは思えないのだ。それこそ根本的な変化、お前の課す確定している敗北すら退けられる“何か”を持つ者が現れてくれと思わずにはいられない。……私らしくもないな。新たな可能性の模索に務めよう》
そうしてプロトスは止まっていた作業を再開する。地球から見える星々の輝きは何千年も前に発した光にもわからず眩しく輝いてるが、いつしかその時が来れば光は途絶えてしまう。地球が他の星と同じ輝くだけの運命を辿ることにならないよう切に願っていた。
次回もよろしくお願いします。
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