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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
12/175

10逃走2

「8チュートリアル戦闘2」と「9逃走」の間に未投稿の物がありました。申し訳ありませんが、今から投稿します。

詳しくは活動報告にて


(一気に距離を稼ぐなら今しかない、チャンスを生かせ!)


「アオオオオオオオオオン!」


(!?まただ、フォレスト・ウルフと似たような遠吠え、もう嫌なことが起こる前兆にしか感じないな)


 その遠吠えを切っ掛けに、ウルフ達の動きに変化が出てきた。追ってきていたウルフがアキラの前方に出てきて挟まれる形になる。だが、ウルフは何をするでもなく、そのまま同じ速度で走り続ける。


 訝しむアキラだが、何かされてからでは遅いのでシヴァを前方の狼に向け、狙いを付けて引き金を絞ろうとした次の瞬間、狙いやすい位置だったため、つい狙いに意識を割いてしまった。

 そのせいか、撃った反動なのかと錯覚するほどの脈動をシヴァから感じた。咄嗟に後ろを振り向くと、後方からウルフが接近していた。噛みつくために速度を上げていたが、アキラが直ぐに後ろを振り返ったせいか飛びかかってこなかった。大人しく元の速度に戻っていく。


(前方のが囮で後方のが飛びかかってくるんじゃなかったのか?)


 と、考えた瞬間またしてもシヴァから脈動を感じた。その瞬間に前方のウルフが居たことを思い出し、疑問と言う隙を見抜いたであろうタイミングに急いで振り返りながら、焦るように身体を向き直し、噛み付いてくるであろうポイントに右手を強く振るう。右手のシヴァの銃床から何かを弾き飛ばす手応えを覚えつつ、頭の中にアナウンスが流れる。


【レベルが1上がりました。】

ノービススキル【クイックドロウLV.1】を習得した。


 レベルが上がるがそれどころじゃない。シヴァは未だに反応し続けている。左右からウルフが足止めではなく、アキラの首に跳びかかりその生命を刈り取ろうと行動を起こしていた。

 左に居るフォレスト・ウルフを先程シヴァを振った反動と振り返りの勢いで振り子のようにその遠心力を利用してウルフを殴りつける。

 アキラが殴ることでウルフは吹き飛び、右から来るフォレスト・ウルフにはそのまま右腕を振りながらウルフに銃口を向ける。さっきまでなら当たらないが、今はムーヴショットのスキルがアキラのアシストとなって銃口のブレを少なくしてくれる。


 そのまま引き金を引くと、銃弾を浴びたウルフが「ぎゃん!」と鳴き、地面に崩れ落ちる。この時、アキラは気がついていなかったのだが、たった今習得したノービススキル【クイックドロウLV.1】の恩恵を受けていた。引き金を引く際、ガク引きによる銃口のブレがなかったため弾丸はウルフを捉えることが出来た。


【クイックドロウLV.1】は、トリガーを引く際に発生する腕にかかる射撃時の反動をある程度抑えてくれる効果を持っている。レベルが上がれば、早撃ちに必要な効果が付与されていくパッシブスキルだ。


 素早く対処できたせいかウルフが襲い掛かって来ることはなくなったが、牽制のために後ろへ向けてスライドレバーがかかる程に、シヴァで発砲し続ける。アキラは、弾丸を無制限に使えることに心から感謝していた。


 リロードしてから次に備えるが、シヴァからは何も反応がないのでそのまま逃げ続ける。ここまでシヴァは襲い掛かってくるウルフに対して本能的に恐怖しており、それがアキラに伝わっただけだったのだが、それが上手くこの状況にマッチしていた。

 ウルフは追跡は続けているが、諦める様子もなく何もしてこなかった。アキラは後ろからただただ追跡してくるウルフを不気味に感じていた。自身の乱れている呼吸には一種の興奮と混乱で気づいていないままペースを緩めずに走り続けている。


 この状況下のせいか、アキラはこのまま逃げ続けても良いのかと疑問を覚える。


(まただ、フォレスト・ウルフと同じ動きをしている。諦めたかと思ったが、違うのか?襲ってこないのはラッキーだが、まるで逃さないために時間稼ぎや追跡するのが目的かのような動きだな)


 この疑問に対して深く分析したいアキラだが、今はギリギリの逃亡中だ。それが意味することに意識を割いてしまえば、いざというときに対応できなくなる。気になるが、今はそれを捨て置くことにせざるを得ない。


 現状は先程のフォレスト・ウルフと同じパターンになってる。ウルフ達は一定の距離を保つだけで襲っては来ない。

 さっきの音を出す攻撃に対して警戒しているせいだと思いたいアキラだが、遂に念願の目的である最初の街アジーンが見えた。未だにウルフ達が一定距離を保つのが謎だが、もうどうでもいい。後は街なのだから居るであろう門番に相手をしてもらいたいと考えるアキラだった。


 アキラは運が良かった。シヴァから爆音が放たれた隙に逃げることで、四方から襲いかかってくるウルフから逃れることが出来た。取り囲まれながらも勘と運とパートナーのお陰で、ウルフの森からここまで無傷で切り抜けたのだ。戦闘の素人であるはずのアキラだが、反射的な行動が奇妙な程状況に適応している。


 直ぐに街の門が見えていき、一人の門番が見える。アキラは「門番が一人か、少なくないか?」と多少訝しんだが、そんなことより今は逃げ込むことを優先する。門番がこちらを見て慌てて街の中に入っていくのが見えた。


 門番らしき人物から震えるような叫び声が聞こえる。

「た、た、た、大変だ!ウルフ・リーダーが群れを連れてきた!追いかけられてる人も居るぞー!」


(そうだウルフの群れが来たんだ。応援位呼ぶよな)


 走り過ぎて乱れた呼吸のせいか、酸欠気味になっている朦朧もうろうとした頭で「あと少し、あと少し」と荒い息を吐きつつ、ゴールが近づいていることを言い聞かせて気合を入れる。


 遠目から見える門は、頑丈な鉄でできた牢のような柵でその鉄柵は上から下にシャッターのように開閉するタイプの門だった。

 アキラが門を見ている。すると、鉄柵がゆっくり降りてきている。アキラは、「あの速度なら間に合うだろう」と逃げ切れそうな気配からか、安堵してしまって少し気が緩むが、直ぐに心を引き締める。


 アキラは目の前の「助かりそう」な現状に笑みを浮かべ、「ウォォォォォォオオオン!」という今まで聞いた中でより低い鳴き声らしき物を聞き、体が一瞬竦む。その竦みのせいで走っていたアキラはこけてしまった。だが、運が良かったのか、竦んだ姿勢なのか、笑みは浮かべたが油断しなかったおかげか、こけた草の上で前のめりに滑りながらも。シヴァを握りながら両手を地面に力いっぱい突くことで咄嗟に転がるように受け身を取り、すぐに起き上がれた。


 そして、目の前に迫っていたゴールへ向かうアキラは、降りていたはずの門が止まっているのに気づく。が、そんなことより急いで潜らなくてはならないと焦りつつも、門へ辿りついた。




『ガシャーーーーーン!』




「は?」


 アキラには理解できなかった。いや、理解したくなかった。慌てて中に入る門番を見た瞬間自分が来る前に門を閉めるつもりなのでは?と一瞬だが考えてしまった。

 しかし、すぐその考えを振り払う。なぜならそれが事実と考えていたら、アキラはここまで走れなかっただろうから。

 叫び声でウルフ・リーダーと呼んでいるのは、応援を集めるためだからだ。門がゆっくり降りていたのも、そう思っていたからこそだ。自分のことを待ってくれていると思っていたのだ。


 だが、なぜだろう。鉄柵はもう閉まっていた。理解できない。理解したら死んでしまうんじゃないかと思うほどに、理解するのを頭が、体が、心が拒否している。

 立ち止まったせいなのか、体中が熱く、急激に汗が噴き出してくる。頭から頬を伝う汗をやけにはっきり感じ取ることでが出来る。汗ではなく、油なのでは無いかと思うほどに、その頬を伝う汗の感覚がゆっくりと零れ落ちいてくのを感じる。目の前の現実にただただ呆けてしまう。


 鉄柵の前で立ち尽くしているが、致命的な隙とか、逃げなくちゃとか、そんなことはどうでもいい。閉じている鉄柵を眺めてしまう。ただただ疑問だった。

 自分の幸運と不幸が立て続けて順番にやってくる境遇は、生きろと言っているのか諦めろと言っているのかわからなくなるぐらいアキラを翻弄する。


「ハァハァ、ま、待て…よ…待て…待て待て待て!なんで?どうして!?なぜ門を閉めるんだ!!」


 既に閉じてる門に向かって、アキラは叫ばずにはいられない。疑問を挟まずには入られない。

 もし木製の門で閉めるのに時間がかかるため、モンスターを連れ込んでしまう恐れがある。だから閉めると言うのなら、この対処は理解できる。したくないが、理解はできる。


 だが、これは鉄柵を下に下ろすだけで、完璧な門になる代物だ。例えウルフが入ってきたとしても、その数は数匹、いや、あいつらの頭なら街の中には入らないだろう。例え入ってきても兵士の数で押せばいけるはずだ。訓練を積んでいるだろう兵隊だ、ウルフに引けを取ったりはしないだろう。

 アキラは自身が追い詰められているせいで、事実は別として自分に都合の良い理由を並べ立てる。


 アキラは閉まる理由を否定する材料を次々に考え、思い浮かべる。間違えて閉めたなら早く開けてくれ、と思いながら、立ち尽くす。


(なんでだ?有り得ない。有り得ない筈なのに、なぜ俺は中ではなくまだ外にいるんだ?)


 想定したくない現実が起こっている結果に対して疑問を浮かべるも、酸欠気味の頭で霞がかった思考が、もはや考えが考えにもならない状態を作っていく。それを改善するためなのか、アキラの身体は自然とゼェゼェと荒い呼吸をする。

 アキラの乱れた息遣い以外、何も聞こえない。それ以外音が聞こえないかのように、静かになって閉まった門は一向に動き出さない。


 呆けてるアキラの耳に怒鳴り声が聞こえてくる。


「ばっかやろおおお!なんで人が入る前に門を閉めやがったぁ!」

「だ、だってウルフ・リーダーの雄叫びで腕が…」

「ばっかやろう!そりゃ一人で門を閉めようとするからだ!門を閉める前に人が来るのを待てばいいだけだろう!なんで一人で閉めようとしたんだ!」


 怒鳴り声の主が何かしようとしたのか、そこで一人の青年らしき声が怒鳴り声の主を抑えるように言った。


「グランさん止めてください!こいつ、門番初日なんです!僕だって席を外していたのがいけないんです!ただ、ただ、運が悪かったんですよ!」

「離せぇ!お前もお前だ!研修で何を教えてやがった!俺の管轄でこんな、「雄叫びにビビって門の外に人が居るけどギリギリで門を閉めました」なんてみっともないことがあってたまるかぁ!」


 そんな会話を聞いたアキラは、察した。またなのか…と、ウルフの森からここに来るまで感じていた不運の連続。正確には幸運も相当数あったのだが、気づかない。今正に不運に直面しているアキラには、気づくことが出来ない。

 生死がかかった場面で不運に直面しているのだ。小さな幸運で運が良かったなどと思うことが出来る筈もない。


 だが、アキラは息を整えながら呆けていないでしっかりしろ、と混乱で思考を投げ出したいのを抑えて己を叱咤する。多少はウルフの数を削ったんだ。だからやってやれないことはない、と。頭の中で最悪のパターンが思い描かれているのを無視して、後ろを振り返ろうとして…振り返れなかった。体が言うことを聞かず、手足が震えている。


 なぜアキラは振り返ることが出来ないのか、それは門が閉まる前のフォレスト・ウルフの遠吠えとウルフの遠吠え、そして、門番の「ウルフ・リーダー」と言う言葉が原因だった。

 全てはチュートリアルで倒したフォレスト・ウルフのあの遠吠えからだった。あの遠吠えでフォレスト・ウルフの群れを呼ばれるも、なんとか逃げ切った。

 しかし、群れのフォレスト・ウルフの遠吠えが結果的には平原に居るウルフの群れを動かしてしまう。


 そしてシヴァの爆発するような一撃の後に聞こえてきた遠吠え、あの遠吠えから追跡方法が変わったように感じる。まるで逃さないための追跡のような動き、それはまるで『何か』を待つウルフたちの時間稼ぎのように感じられる。


 それから最後にコケる要因にもなった低く唸るような遠吠えで大凡の答えは出ていた。否定したい未来故に体が竦み、動けず、振り返れない。

 シヴァが先程から嘗て無いほど強く脈打つが、混乱し、動揺が収まらないアキラは振り返れない。自分を励ますか、急かしているかのどちらかだと思いたい。もう少し待ってくれと心の中で思うアキラに対して、背後から迫ってきているウルフにその思いは届かない。

 振り返る覚悟を待たないと言わんばかりに、右手に持っていたシヴァが何かに弾かれた。それは、何故か最初より数を増した20匹のウルフの1匹だ。

 そして群れの一番後ろには1匹の他のウルフとは毛色の違うウルフが鎮座している。そのウルフは他とは違い、より雄々しく通常のウルフより一回り大きく、狼なのに立派なたてがみを生やしていた。そのウルフが、睨みつけるようにその双眸でアキラを映し出している。

 その射殺すような視線に対して、アキラの頭の中は真っ白でただただ見つめていた。

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