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帰宅途中の異世界遊戯  作者: おいも
異世界編
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9逃走

「8チュートリアル戦闘2」と「9逃走」の間に未投稿の物がありました。申し訳ありませんが、今から投稿します。

詳しくは活動報告にて


 アキラは運がよかった。序盤はハードなチュートリアル戦となったが、ギリギリ勝利を収めることが出来たからだ。

 シヴァの能力を完全に把握していなくても、勝てたのは運の要素が大きかったのは確かだろう。


 運が悪かったのは、力尽きる直前の悪足掻きでフォレスト・ウルフに群れを呼ばれてしまったことだ。だが結果は無傷で森を抜けれた。幸運と不運を交互に味わいつつも後は街に向かうだけ、そうなるはずだった。


 しかし、結果は何故か進行方向を塞ぐウルフの群れと言う更なる困難だった。一難去ってまた一難とはよく言ったもので、戦いという物をしてこなかったアキラにこの群れを相手にするのは酷だろう。


 なら逃げるしか無いはずなのだが、アキラはテンションの落差で放心状態になってしまった。一度遠吠えを味わっていたはずなのに、嬉しさが油断を誘って遠吠えの意味を忘れていた。


 安全が確保されていないのに幸運で終わると言う結果が約束されているなら兎も角、不運が終わった矢先なのだ。ソウルオルターの世界に来てから少なくない幸と不幸が続いているのなら身構えて置かなければいけなかった。一度苦しめられた行動なのだから予想しなければならなかった。


 予想と言っても一部からは「そんなの予測が付かない!」「仕方ないだろ」と言われるかもしれない。だが、そんなのは弱肉強食の世界では言い訳にすらならない。


 待ち伏せに気づかなかったから、殺さないでくれ等と、どこの世界で通じる言い訳なのか?人間ならまだしも、相手は意思疎通のできない獣だ。そんな危機的状況だと言うのに、アキラの身体は未だ動かない。


 動かないながらもほぼ無意識に思索する。相手はシヴァの1撃で殺せるとしても、群れを殲滅する前にこちらが息絶えてしまうだろう。それに、そんなことが出来るならフォレスト・ウルフの群れから逃亡の途中で殲滅に切り替えている。


 だからアキラはフォレスト・ウルフから逃げることを選択し、それが間違いではなく正解だと思い、追跡から解放された達成感から危機から開放された爽快感から、やはりこの選択は正しかったと納得できた。それ故にテンションも最高潮になり、煽る余裕ができたのだ。


 だからだろう、正解であるはずの答えが出たのに結果は不正解と同じ展開がアキラに待っていた。いや、不正解だったならまだしも、正解してしまったせいで不正解した時よりも、心的状況は悪いのかもしれない。


 答えを当てても死ぬ、答えを間違えてもやっぱり死ぬ。その「答えは合ってても間違っていても結果は同じです」とでも言いたげな現実は、正解した後に聞かされる側としては、やる気を奪うのに十分だろう。


 頑張って正解し、辿り着いた答えが【ウルフ】の【群れ】との遭遇なんて、そんな現実を認識すればショックがでかく、固まってしまうのも当然だろう。おまけにアキラは煽っていたのだから…。


 そんなアキラを放っておくかのように現実は動き始める。ウルフが動き出してもアキラの体は何かに縛られたかのように、動き出さないままだった。


 アキラが動かないままで居るとシヴァが「がんばれ!」「あきらめるな!」とでも言いたげに右手の中で必死にアキラに向かって脈動する。そのおかげなのか、精神的に冷えたせいで動けなかった体に多少の熱が戻り、体を動かせるようになったアキラは相棒に感謝する。また自分を救ってくれたのだと。


 そう、まだ終わっていない。少し帰りのハードルが上がっただけだと自分を鼓舞する。このまま死ぬ訳にはいかないと、アキラは自分に言い聞かせる。


 もし己を支える物がなければ今ここまで来れなかっただろう。妹の深緑が居なかったらここに来た時に心が折れていただろう。シヴァが背中を押してくれなかったら動き出せないまま、何も出来ずに取り囲まれていただろう。


 アキラは運がよかった。ただ、同時に不幸の中に幸運がちょっと混じる程度の幸運なのだ。


 ウルフが動き出してから遅れるように動きだせるようになった身体は、即座に街へ向かおうとするが、すぐそれに待ったを掛ける。深追いをしない判断力を持ったウルフに目的地がバレれば、必ず取り囲むだろう。その位の知性は経験で大凡予測できた。


 ウルフの群れが動き出す前だったなら、フォレスト・ウルフと同じ展開で逃げれると思った。だが、動き出しが遅れたためそれはできない。


 いくら深緑のことを考え、シヴァに励まされようとも即座に動きだせない事実から、アキラに余裕は無くいつもなら「動かなかった反省会をしないとな」と空元気を出すための軽口を心の中で叩くだろう。


 だがそんな言葉すら思いつけない程に、身も心も追い詰められているのが現状だった。


 アキラは取り敢えず逃げるための目的地であろうマーカーを見る。視界には設定した方向に矢印のアイコンが表示されており、このまま街に向かって真っ直ぐ行けばいいのだが、ウルフが道を塞ぐ形で密集しているので真っ直ぐに向かうことが出来ない。

 単純だが今出来る範囲で急ぎ、作戦を考え実行する。


 ウルフの群れに真っ直ぐ突っ込むアキラは、少し街方向と30度程ズラして突進した。その際にウルフ達に向かって威嚇射撃をその方向に行う。如何にもその方向のウルフは邪魔だと言わんばかりに、目的の方向はこの先だと態度で示すため、マガジンの弾丸を撃ち尽くす。


 早めに威嚇射撃をすることで、「目的の方角」を誤認させようとしたのだ。タイミングが重要な作戦で、その後の逃走方法も穴だらけの行き当たりばったりな、最早作戦とは言えない物だが事前に計画することに意味はあるとアキラは信じる。


 考え無しで行動して後悔するより、自身で意図して動き、結果が伴わないで後悔した方が納得できる。そう考えてアキラはこれまでの人生を生きてきた。


 短い間だが、アキラの経験上ウルフは頭がいい生き物で、必ず動いてくれると考えた。ウルフの群れが動かない可能性もあるが、動かないならそのまま追い越せばいいと考える。


 果たして、予定通り少しずつ街方向の道が空き始めた。アキラがその行動に心の中で賛同しながらタイミングを見て、後は本来の目的地方面へ方向転換するだけだ。威嚇射撃をしながら進路上のウルフを誘導しようと必死で揺さぶり、ウルフの群れを翻弄する。


 予定通り動いていることに気を良くしたアキラだが、まだ逃げてる最中なことを考えて直ぐに気を取り直してリロードし、銃撃を繰り返した。


 最後の威嚇射撃を終え、街方向から更に反対方向へと一気に駆け出すフリをする。ウルフ達から逃げ切るために、最後のフェイントを敢行する。そしてすぐに街の方向にターンをして進路を変える。


 この時、アキラは完全にウルフ達野生の生き物を甘く見積もっていた。穴だらけの計画が開始直後で綻びが見え始める。


 急速に後ろから3匹のウルフが追いかけてくる。アキラは、シヴァの動揺を手に感じ取り、既に全部ではないにしろ数匹のウルフが方向転換を終えていると予測する。


 背後を振り返ると同時に数を把握し、その3匹に向けてムーヴショットで補正された射撃をする。2匹に当たり、一番ダメージがデカそうなのを放置し、二番目にダメージがありそうな奴を銃床で殴り殺す。他のウルフは咄嗟のことで、いきなりは進路を変えられずにたたらを踏むも、直ぐに体勢を整える。


 そして銃を構え直そうとして、駆けつけてきた一匹がアキラの胴体に噛み付いてくる。咄嗟に右手にあるシヴァで殴りつけようと、力を込めた拍子にそのまま銃口で殴る形になってしまった。


 ウルフに当たると同時にシヴァを取りこぼさないように強く握る。その反動でトリガーを引いてしまい『ダァンッ!』という発砲音ではなく『ドガァァン!』と空間が爆発してるかのような爆音がシヴァから放たれた。

 ウルフは粉々に消え失せ、反動はさっきより多少強い程度だったが、しっかりシヴァを握っていたアキラの体勢は崩れなかった。


 その音に、ウルフの群れはビクッと一斉に身を竦ませる。中には方向転換中だったためか、転けているウルフも居る。なんでこんなことが起こったかは後回しだ。街まで逃げ切れればいくらでも確かめられる。今のこの不測の展開はチャンスだった。

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