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これから語るのは、とある時代のピエロのお話

作者: 一滴

 彼、神井(かみい)シンマは今、学校の校舎裏に呼び出されていた。

 理由はイジメやリンチといった暴力的なものに巻き込まれたからではない。

 校舎裏で行われる主な行為は簡単に別けて三つだろう。

 一つ目はイジメ。

 二つ目は秘密のお話。

 三つ目は、


「し、シンマ君……!」


 告白。

 シンマの目の前には物心ついたときから一緒に育った少女が一人、真っ赤な顔をうつむかせて、プルプルと震えていた。

 幼馴染みである彼女は、昔からシンマと仲がよくそれなりに長い付き合いゆえ、お互いの事はほとんど知っている。むしろ知らない事を探す方が難しいと言えるほどに親密な関係だ。小さい頃は一緒に風呂に入ったこともあるし、一緒に寝たこともある。遊びに行った回数はもはや数えきれない。まだキスから先はやっていないが、恋人同然の行為もたくさんしている。それこそシンマの兄弟と同じくらい、下手すればそれ以上に付き合いが長い。

 しかし先ほど言った通り、キスから先をしていない彼らは、いまだにカップルではなかった。

 互いに知らない事は無いと豪語できるほど彼らはお互いをわかっているから、シンマが彼女の事をどう思っているのか、逆に彼女がシンマをどう思っているのかなど、とっくの昔にお互い気づいているし認めている。将来は恋人以外の関係などあり得ないとお互い確信しているし、親もそう思っている親公認の仲である。


「わ、わ……たし、と…………」


 ではなぜ恋人にもカップルにもなっていないのか。

 それは彼女が、『シンマからコクる事』を禁止しているからだった。

 おかしな話だが、シンマはいままでこの幼馴染みのために色々手を焼いて生きてきた。彼女が危なっかしく、所々抜けているところがあるからなのだが、それこそお目付け役だとか、お兄ちゃんだとか、執事だとか騎士だとか、色々言われるほど世話を焼いてきている。

 だからこそなのだろう。彼女は告白ぐらい自分からしたいと考えた。いつも世話になりっぱなしだからこそ、最後の大事な一歩までシンマに踏んでもらいたくない。そこまで全部おんぶに抱っこで恋人にはなりたくない、と。

 しかし厄介なことに、彼女は超がつくほど頑固者で、さらに超超恥ずかしがり屋で、超超超超超小心者だった。


「……、………………ッ。…………、………………ッ!」


 結果、こんな感じで言葉に詰まってモジモジするしかできない状態が長く、それはもう長く続くことになってしまっていた。

 最初の数回こそシンマもドキドキしていたが、十を越えた辺りから馴れ、二十を越えた辺りから子を見守る親のような心境になり、五十を越えた辺りから悟りが開きだし、百を越えた辺りからもう他事を考えだすようになってしまった。なまじ頑固者だから、シンマが『俺からコクらせてほしい』と身ぶり手振りで表現しても、結局ガンとして譲ってくれない。

 小学三年生から始まったこの告白劇は一歩も一秒も進展が無いまま高校二年生になった現在まで八年、いまだに続いていた。もはやクラスの風物詩、縁起物扱いになっている。今も校舎裏の角や、草むらから視線がある。


「……………………………………………つ」

「!?」

「「「「「!!!??」」」」」


 だからこそだろう。ある日突然いつもと違った事が起こると普段より動揺したりする。

 顔は真っ赤だし、声もまだ上ずっているが、いつもなら「私と……」の後、一分三十秒間口をモゴモゴしたら、羞恥に耐えきれず逃げてしまうところを、今日は恐らく「付き合ってください」の『つ』の部分まで口が動いた。

 校舎裏の角と草むら、あと木上、土の中からもクラスメイト達の動揺が見受けられる。

 『異常事態だ! コード0001から2082までの……え? 2107? また増えた? まあ、いいや。2107までの『恋する乙女の告白見守り隊』、全てのメンバーへ連絡を取れ! 今夜は荒れるぞ!』

 ……とか聞こえてくるが、今は放置。

 なにせ一番動揺しているのは間違いなくシンマだからだ。

 何と言っても小学三年生から始まって今回で丁度八年、総日数2922日目でようやく最愛の幼馴染みが一歩を踏み出したのだから、シンマにとって、これだけで感無量。今夜は家族パーティー決定だった。

 小学三年生からずっと繰り返してきた告白一歩手前からの逃亡劇。それがようやく進展の気配を見せていた。

 しかし、


「……ん? あ、がぁ……!?」


 突然、にシンマの周りから音がなくなった。

 それを自覚した瞬間シンマは脳髄の奥深くにドリルを突っ込まれたかのような激痛を覚えた。

 たまらず目を閉じ、頭を抱えてうずくまる。

 叫び声をあげたはずなのに何も聞こえない。

 音どころか手足の感覚も消えた。

 目が回り吐き気がして、上下の感覚がわからなくなり、痛いのかくすぐったいのか気持ちいいのか悪いのか、感覚が有るのか無いのかそれすらもわからなくなる。

 尋常じゃない恐怖と嫌な感覚にのたうつシンマの目に、一瞬何か別のモノが見えた気がしたが、次の瞬間。


「……いっ!」


 唐突にドサッ、という鈍い音と共にシンマは固い地面に叩きつけられた。

 頭痛は消えたが目眩が酷い。

 グラグラと揺れる焦点の定まらない目で周りを確認すると、


「チッ。またやっちまったか。今回はガキか? めんどくせえなぁ」


 彼の目に飛び込んで来たのは、何となくファンタジー世界を彷彿(ほうふつ)とさせる古風な外国の建物達。

 そして背後からの失礼極まる声。


(……ここ、どこだ? 何でこんなところにいる? さっきまで学校の校舎裏にいたはずだよな。そこら辺の人も見たこと無い格好してるし。……拉致された? いや、手足は縛られていないから拉致じゃないか。じゃあ、なんだ?)

「そろそろいいか?」


 また後ろから声がした。

 振り向くと、ねじれたりこげたりした鉄屑が散らばっている机に座った、髭と髪がボサボサの小汚い中年のオッサンが、シンマをめんどくさそうに見ながら頬杖をついていた。


「……誰?」

「あ~、まず謝らせてくれ。わりぃな、新しい鍵を作ってたらまたやっちまった」

「何を?」

「召喚」

「へ?」


「だから、召喚。間違って召喚しちまったんだよ、お前を。見たところ別世界の成人したての青二才ってところか。しかも相当文化や環境が違うところから来たみてえだな。何もわかんねえところを見るに、引きこもりのお坊っちゃんか?」


 中年のオッサンがそう言った瞬間、シンマの後ろを巨大なトカゲっぽい何かが馬車のようなものを引っ張って通り過ぎた。

 煙が立ち込めたがそんなもの今のシンマにはどうでもいい。


「…………」


 話をまとめるとつまり、彼は『異世界』に『間違い』で召喚されたのだった。


「すううぅぅぅぅぅ…………っ」


 しかも『幼馴染みの告白一歩手前』、という最悪のタイミングで。


「ざっけんなこらああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 時刻は昼間。

 地球とは違う別世界の町の大通りに、美しい姫でも厳格な王でもない、髭と髪のボサボサな中年オッサンに間違いで召喚された招かれざる少年の叫び声が響き渡った。






 場所は変わって王城、その最上階。


「待っておったぞ、我らが勇者よ!」


 豪勢できらびやかな装飾品が散りばめられた玉座から、光沢のある金の刺繍が入ったレッドカーペットが延びている。汚れ一つない真っ白な柱がさらにその色を際立たせ、そこにいる存在達を強く強調させていた。

 そんな王の間で大きな階段の最上階の玉座に座った一人の男が、口を開いて歓迎の言葉を口にする。

 そばには一人の妃と数人の息子娘達が控え、階段には一段につきそれぞれ二人ずつ色とりどりの甲冑を着た騎士が並び、階段の下に数十人の貴族がまるで値踏みするかのように目の前に膝まずいている……

 ……否、怯えてうずくまっている存在に注目していた。


「……シンマ君、どこ行ったのぉ……? 私を、一人に……しないでよぉ……!」


 かくして後に、人間、ドワーフ、エルフ、獣人、妖精、神、猫と様々な国と種族を巻き込む大波乱の時代を巻き起こす原因達が異世界に召喚された。

 国家はこの時代を、主に『混沌と汚点の時代』と呼ぶ。

 しかし一部の吟遊詩人は、この時代を『愛すべきピエロの時代』と呼び、各地で広め、後に劇や本として長く親しまれる事になる、そんな時代が始まった瞬間だった。




■■■




「……と、言うお話じゃ」

「ね、ね、どうなったの!?」

「何でピエロ?」

「愛すべき?」

「何で国と名前が違うの?」

「二人は再会できたの!?」


 一人の老人が語り終え、その周りで昔話を聞いていた子供たちが口々に質問を浴びせかける。

 中でも多い質問が、『再会』と『ピエロ』だった。


「さあのぉ? 無事再会し、元の世界に帰ったと言う輩もおれば、最後の戦争で二人もろとも爆死したと言う話もあるのぉ」

「じゃあ、ピエロは?」

「ねぇ、ねぇ、何がピエロなの?」


 老人はニッ、といたずら小僧の様に笑うと、こう言った。


「そのピエロの正体は言ってはならん。ただ、なぜピエロと呼ばれ、愛すべきとされておるかと言うと、あるたった一人の少女のために国を何度もだまし続け、何度も国の誇る騎士達から逃げおおせた、生粋の曲者がその時代にはおったと、言われておるからじゃ」

「……ねぇ、何でおじいちゃんはその二人がいた世界のこと知ってるの?」


 一人、ずっと頭をひねってうなっていた子供が、顔を上げて質問してきた。


「行ったことあるの?」


 老人は、今度はニヒルな笑みを浮かべて、子供に言った。


「もちろん、あるとも」


 今、世界は新たに生まれた魔王により危機にひんしている。


 勇者召喚の日は近い。


 まだ、魔王の被害が及んでいない小さな小さな村の片隅で語られた、まだ誰も知らない物語。

現在執筆中の作品を試しで投稿してみました。いかがだったでしょう?

物足りなかったり、納得いかなかったり、気に入らない点の他にも、なにかアドバイスがもらえたら嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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