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Celestial sphere  作者: 一条 灯夜
【Auriga】 ~Hoedus Primus~
74/424

2

 俺達の状態に考慮したわけではなさそうだが、その日はそのままキルクスが用意した港町の宿に泊まり、一夜明けてから少し離れたアテーナイヱのアクロポリスを目指すことになった。

 ただ、アクロポリスへと向かう前に多少町を見る時間くらいはあるらしく、朝食後にキルクスを先頭に船着場から町を横断する中央の大通りを歩くことになった。

 まあ、俺としても今後のためにも地形を把握しておくには越したことが無い。場合によっては――どうやっても勝てないと判断したその瞬間や、エレオノーレに危険が迫ると判断した場合に――、騒ぎを起こすんだし、な。

 逃走経路や戦いやすい場所は、余裕のある今の内に見繕っておきたい。


 石造りの倉庫や、食堂、宿泊施設が並び、広い道の両端には市がたっていた。海運のおかげか、並んでいる果物には見たことがないものも多くあり、戦時中であるにも関わらず、物流は充分に機能しているようだった。

 妙なことだが、劣勢と聞いていたわりに戦費調達のために締め付けを厳しくしたような様子はない。劣勢と言ったのはキルクスの方便で、五分五分からやや傾いた程度なのか?

 それならそれにこしたことはないが……。

「干しぶどう?」

 エレオノーレが、シワシワになった細長く暗い色の果実を指さして訊いてきた……が、俺も分からない果物だったので「まあ、そうなんじゃないか?」としか、答えられなかった。

「エレオノーレ様、それは干したデーツで、南のアカイメネスからの輸入品です」

 バカにしたような目を俺に向け、人懐こい声はエレオノーレに向けたチビ。舌打ちは飲み込んだが、反射的に睨みつけてしまうのまでは我慢出来なかった。

 チビは、すぐにエルの後ろに隠れた。

 キルクスが苦笑いでひと籠買い求め、俺達、そしてキルクスの付き人連中にも適当に配った。

 手の上に五~六個乗せられたデーツを眺め、保存食かなんかだろうな、と、軽い気持ちで口に放り込むと――。

 なんだこれ?

 じわっと、舌が溶けるほどの甘みが染み出してきた。蜂蜜みたいな上品な感じではなく、ジャリっていうか、ガリッていうような、固体の強烈な甘さだった。

 思わずキルクスを睨んでしまったが、どうやらこの味が苦手なのは俺だけらしかった。エレオノーレはこの甘過ぎる干しデーツが気に入ったみたいで、チビと談笑してる。

「ダメですか?」

 キルクスに苦笑いで訊ねられ、素直に頷いてから残りを腰の薬草を入れている皮袋に適当に放り込む。捨てるのももったいないしな。

「俺は苦手だ。甘味は蜂蜜の方がいいな」

「食事の参考にします」


 エルとチビの談笑が終わるのを待ってから、俺はキルクスに改めて向き直る。

「しかし――。随分と広い町だな」

 ざっと見た感じ、一般的なラケルデモンの都市の倍程度、ラケルデモンの公共市場都市と比べても一回りは大きい。道も石畳で舗装されているし、ロバの荷車が充分に行き出来るほどに広い。商業に便利なように、都市内の交通網もしっかりしているようだ。

「我々は、外港都市ペイライエウスと呼んでいます」

 認めたくない部分はあるが、これは、流石に、良い造りだと思った。劣勢と言ってるのに、国土に進行されていない理由は、多分これだろう。

「アクロポリスとこの町が相互に連携して防衛する構造か」

 ここからも見えるが、アクロポリスそのものは、丘の上に城塞都市があり、城壁外に城下町が広がる、典型的なヘレネス――全ての都市国家市民の総称――のアクロポリスだが……。

 アクロポリスから延びた城壁は、俺達がいるこの街までの街道にまで張り巡らされ、最終的にはこの町の城壁と繋がっている。

 流石に海の上にまで城壁は無いが、それを補うかのように多数の軍艦が係留されており、その殆んどが戦闘準備を終えている様子だった。

 正攻法で攻めるなら、相当の犠牲が出そうだ。

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