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見事な突きを放った後、余韻も微かに構え直し、エーリヒと向かい合う女。
「ほう」
思わず声が出た。
一朝一夕に出来る突きじゃない。構えた姿勢から、鋭く一気に踏み込んでいる。溜めや、予備動作が少ない。しかも、多少の回避動作を織り込んだ身体中央への全力突進。
非常に、悪くない。
クルトの反撃がろくでもなかったこと――攻撃動作に相手が入っているなら、大振りせずに軽く薙ぎ払うか、避けて反撃するのが基本だ――を差し引いても、褒めるにやぶさかではない。
まあ、返り血をかわすだけの余裕は無かったらしく、頬に数滴の血が飛んでいるし、剣を持つ腕も僅かに血で濡れていたが。
「貴様、歳は?」
不意に掛けられた俺の声に戸惑ったようだったが、女は表情を引き締めて答えた。
「十六だ」
剣先はエーリヒに向いたままだった。
まあ、理にかなっているか。俺よりもエーリヒの方がこの女に近い。
しかし……二つ上か。
俺等は、監督官と所属する町の全市民による成人審査後に、十五歳の花嫁を娶る。他部族も似たようなものだから――。
「旦那でも殺されたのかい?」
復讐のつもりか? と、からかうような顔で鎌を掛けると、女は、真面目ぶった顔をしながらもやや不機嫌そうな声を返してきた。
「……私は未婚だ」
「成程、成程」
パンパンと手を叩き気のない拍手を送りながら、にんまりと笑ってみせる。
女は調子を変えた俺を訝しんでいる様子だったが、続けた台詞に顔を青くした。
「面白いな、貴様。隠れて鍛えていたんだろう? 今日まで、自分でも太刀打ちできる相手が来るのを待ってたんだろう? ……何人もの同族を見殺しにしながら」
図星だな。
僅かに俯いた顔で分かった。
しかし、落ち込みつつも油断無く構えているあたり、本当に出来た女だと思う。勝つためには優しさや人道など邪魔にしかならない。コイツはそれが分かっている顔だ。
「貴方とは……違う」
その言葉に力がないのは、迷いのせいだろう。
「そうかい」
しかし、そんなのはどっちでもよかった。久しぶりに、面白い獲物が見つかった。それだけで充分だった。なにを考えて武器を取るかなんてのは二の次。得物を取った瞬間から、殺されるまで殺す人生が始まる。
当然だろ? 望みを叶えるために暴力に訴えるんだから、ろくな死に方はしない。正義の味方なんて、バカバカしすぎて溜息しか出ねぇ。
殺って、そいつの復讐をしにきたやつを返り討ちにして、死体をどんどん積み上げていって、その山の頂上で後学に殺される。それがこの国の規範であり法だった。だが……。
ふと、爺さんの死に様が頭を過ぎって……当時の腹立たしさを思い出しつつも、気持ちが僅かに沈んだ。