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俺たちの物とは明らかに違う、細身の――打ち合いになればすぐに折れそうな剣を構えた女。
奴隷に武器持つことは認められていないんだが……いや、家畜を絞める加工用の刃物なのかもしれない。突くのはともかくとしても、人を斬る際に適した丸みが刃に無い。
改めて得物から女に視線を向ける。
背は高いが、細身というよりは痩せ過ぎに近い体型で、持っている剣と雰囲気が似ていた。ソリッドでシャープな顔。金の髪。後頭部で結われたその髪は、女の動きの余韻で少し揺れていた。
険の目立つ顔だ。
悲壮感の漂うその面は嫌いだが、刺すように睨むグリーンの瞳は美しいと思った。
「貴方がリーダー?」
肩を竦めて、バカにしたような笑みを返す。
「たぶん、な」
「もし、勝てたら――助けてくれる?」
あン?
生きるか死ぬかの戦いで、勝って助けるもなにもねえだろうに、なにを言ってやがるんだ、コイツは?
考えたのは、二呼吸の時間。
勝てた場合、俺を殺しはしないから、逃げるのを手引きしろってことか?
俺が理解したのに気付いたのか、女はコクリと静かに小さく頷きあがった。
一瞬、キレかけた。
このッ! 奴隷風情が、舐めあがって。
「勝てたらな」
そう答えて剣を振り被ると――。
「だってよ、クソアマ」
ガキの頭を掴み上げたクルトが、女に切っ先を向けた。
あん? お前等が戦うのか?
折角、盛り上がり掛けてた気勢が削がれた。コイツ等も腹立たしいな。しかし、二人の生意気さで、頭は少し冷えた。
もしかして、クルトとエーリヒは勝ったら助けるのがこのガキだと思ってるのか? ありえそうだな、バカだから。俺等が全員負ければ、自動的にガキは助かるだろうに。
つーか、女だから自分達でも殺れると思ってるのか?
チンケな連中め。力量ぐらい正確に把握しろ。この奴隷女は、今のお前等と互角ぐらいだぞ?
まあ、バカは一度痛い目を見ないと頭の使い方を覚えないしな。この女も弱くはないだろうが、この二人でも流石に負けはしないだろう。女の言動は腹に据えかねてはいるが、どうせ死ぬなら結果は同じか。
俺は、嘆息して獲物を二人に譲った。
「子供を放して」
俺が戦いの空気を解くと同時に、女がクルトに向かって言った。エーリヒは高みの見物を決め込むつもりか、クルトからやや離れてニヤニヤしてる。
一対一を二回か。二人の勝率が一割ほど下がったな、と、冷静に状況を判断する。殺し合いに卑怯もクソもないんだから、二人で掛かれと指示を出そうか悩んでいると、ニイッとクルトが笑い――、ああ、ヤる気だな、そう思った時には子供の首に剣を当てて横に引き、喉を掻き切っていた。
胴と首は離れていない。腕が悪いせいで骨の前までしか切れなかったか、と、女に向かって噴き出した血しぶきを見ながら考えていると、女は面白い動きをした。
呆然とするでもなく怒りを露にするわけでもなく、ただただ冷静に、作業を開始するようなひどくニュートラルな顔で短く横に跳躍し、クルトの正面右方向から一気に突進してきた。
悪くない。子供を殺した際の隙を適切に衝いている。
ただ、女の陣取った位置はクルトの利き手側。子供の死体とその血を嫌ったのかもしれないが、剣のある方向へと攻めるのは正しい判断とは言えない。
五分五分、か? というのが相対する姿勢での判断。
ただ、次の瞬間にほぼ勝負は決まっていた。クルトが、剣を振り被ろうとしていたから。
――バカが!
怒鳴りつける間もなかった。クルトが腕を引き、溜めに入った瞬間に、速度の乗った切っ先がクルトの胸――心臓を射抜いていた。
女が手首を返し、傷を広げ引き抜く。
噴き上がる血が宙を舞った。