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Celestial sphere  作者: 一条 灯夜
【Gemini】 ~夜の始まり~
5/424

5

 俺たちの物とは明らかに違う、細身の――打ち合いになればすぐに折れそうな剣を構えた女。

 奴隷に武器持つことは認められていないんだが……いや、家畜を絞める加工用の刃物なのかもしれない。突くのはともかくとしても、人を斬る際に適した丸みが刃に無い。

 改めて得物から女に視線を向ける。

 背は高いが、細身というよりは痩せ過ぎに近い体型で、持っている剣と雰囲気が似ていた。ソリッドでシャープな顔。金の髪。後頭部で結われたその髪は、女の動きの余韻で少し揺れていた。

 険の目立つ顔だ。

 悲壮感の漂うその面は嫌いだが、刺すように睨むグリーンの瞳は美しいと思った。

「貴方がリーダー?」

 肩を竦めて、バカにしたような笑みを返す。

「たぶん、な」

「もし、勝てたら――助けてくれる?」

 あン?

 生きるか死ぬかの戦いで、勝って助けるもなにもねえだろうに、なにを言ってやがるんだ、コイツは?

 考えたのは、二呼吸の時間。

 勝てた場合、俺を殺しはしないから、逃げるのを手引きしろってことか?

 俺が理解したのに気付いたのか、女はコクリと静かに小さく頷きあがった。


 一瞬、キレかけた。

 このッ! 奴隷風情が、舐めあがって。

「勝てたらな」

 そう答えて剣を振り被ると――。

「だってよ、クソアマ」

 ガキの頭を掴み上げたクルトが、女に切っ先を向けた。

 あん? お前等が戦うのか?

 折角、盛り上がり掛けてた気勢が削がれた。コイツ等も腹立たしいな。しかし、二人の生意気さで、頭は少し冷えた。

 もしかして、クルトとエーリヒは勝ったら助けるのがこのガキだと思ってるのか? ありえそうだな、バカだから。俺等が全員負ければ、自動的にガキは助かるだろうに。

 つーか、女だから自分達でも殺れると思ってるのか?

 チンケな連中め。力量ぐらい正確に把握しろ。この奴隷女は、今のお前等と互角ぐらいだぞ?

 まあ、バカは一度痛い目を見ないと頭の使い方を覚えないしな。この女も弱くはないだろうが、この二人でも流石に負けはしないだろう。女の言動は腹に据えかねてはいるが、どうせ死ぬなら結果は同じか。

 俺は、嘆息して獲物を二人に譲った。


「子供を放して」

 俺が戦いの空気を解くと同時に、女がクルトに向かって言った。エーリヒは高みの見物を決め込むつもりか、クルトからやや離れてニヤニヤしてる。

 一対一を二回か。二人の勝率が一割ほど下がったな、と、冷静に状況を判断する。殺し合いに卑怯もクソもないんだから、二人で掛かれと指示を出そうか悩んでいると、ニイッとクルトが笑い――、ああ、ヤる気だな、そう思った時には子供の首に剣を当てて横に引き、喉を掻き切っていた。

 胴と首は離れていない。腕が悪いせいで骨の前までしか切れなかったか、と、女に向かって噴き出した血しぶきを見ながら考えていると、女は面白い動きをした。

 呆然とするでもなく怒りを露にするわけでもなく、ただただ冷静に、作業を開始するようなひどくニュートラルな顔で短く横に跳躍し、クルトの正面右方向から一気に突進してきた。

 悪くない。子供を殺した際の隙を適切に衝いている。

 ただ、女の陣取った位置はクルトの利き手側。子供の死体とその血を嫌ったのかもしれないが、剣のある方向へと攻めるのは正しい判断とは言えない。

 五分五分、か? というのが相対する姿勢での判断。

 ただ、次の瞬間にほぼ勝負は決まっていた。クルトが、剣を振り被ろうとしていたから。

 ――バカが!

 怒鳴りつける間もなかった。クルトが腕を引き、溜めに入った瞬間に、速度の乗った切っ先がクルトの胸――心臓を射抜いていた。

 女が手首を返し、傷を広げ引き抜く。

 噴き上がる血が宙を舞った。

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