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結局、移動を止め、訓練と休息に二日使うことを決めた。
当面の寝床として、円形に周囲の草を払い、刈った草をとリュコポーンの穂をたっぷりと敷き詰める。屋根代わりの梢はない。曇り続きの天気がどう転ぶか分からないのが嫌なところではあるが、この時期の雨なら風邪を引くほどの事も無いだろう。
追手の不安はあるが、連中は数を揃えた部隊なんだし、あの崖を飛び降りるなんて冒険はしないだろう。殺してもたいした名誉にならない少年隊の脱走者と奴隷の二人組みの追撃戦では。
迂回して山を降りるのに一日、ここにくるのに更に一日というのが俺の見立てだ。
それに、何人かには手傷を負わせた感触もあるし、損得勘定として勇み足で損害を出すのが割に合わないと考えているかもしれない。
もっとも、そんな危険な手合いだから、怪我が癒える前に狩りたいと思うかもしれないが、そこも賭けだな。
「アーベルは、深刻になりすぎじゃないのか?」
能天気な声が思考を邪魔してきたので、寝床に横になったまま目だけをエレオノーレに向け、仏頂面で俺は答えた。
「蹴るぞ」
足の裏を見せてみるが、今は自分の方が強いと分かっているのか、エレオノーレは一切怯まなかった。
「怪我が癒えるまで、少しの辛抱じゃないか。指が動くなら、治ればまたすぐに戦えるようになるだろう?」
「それなりに動けるようになるのは、早くても約一ヵ月後と俺は見立ててる」
腕を守るように胸の上に乗せ、溜息をつく。傷は、弱くだが張り付くように痛み、そこから体中に広がる熱がうざったい。
うん、と、頷いたエレオノーレに、もう一度嘆息して続けた。
「一ヶ月間戦わなかったことが、俺には無い」
ありのままの事実を言ったというのに、エレオノーレには呆れた顔をされた。バカめ。俺のような少年隊が、一ヶ月も襲撃しないでいてみろ。途端にやせ細って間引かれるぞ。
「怪我を治すのも戦いだろう?」
諭すような口調に腹が立ったが、内容はもっともなので同意する俺。
「その通りだ」
「あ、じゃあ、やっぱり訓練は不要になるか……」
ふと何事かに気付いた顔になり、視線を少し横にずらし、気まずそうに頬を掻いたエレオノーレ。
「怪我をしても戦えるなら、それにこしたことは無い。どんな状況でも戦うのが必要な場面は来るからな」
それに、戦えるのがお前だけでは不安だしな、と、からかう視線を向ければ膨れっ面が返ってきた。
「――だが、まずは休息だ。今日は任せるぞ」
そう呟くように言った後、とりあえず今は体力回復のためにもと、俺は努めて動かずにいて、エレオノーレに雑用を全てやらせてみる。
手際はよくない。いや、はっきり言えば手際が悪い。治療も、かいがいしく世話を焼いているように見えつつも、薬草を噛んで練るのも、包帯を締め直すのもイマイチだ。
いや、それよりなにより、一番悪いのは――。
本調子だったら、ぶっ殺したくなるほど、エレオノーレの作った粥は不味かった。
奴隷だった頃に、コイツはいったいなにをしてきたんだ?
畑耕して、家畜の世話をしてたぐらいか……。飯なんかは、食えればいいとかで料理も適当にやってきたんだろうな。このずぼら奴隷め。
椀の残りを腹に流し込む。
煮過ぎて粘っこいのに、味がほとんどしみてもいない白湯みたいな飯ではあったが、空腹だけは収まっっていった。




