―Μεταλλουργι´α―
――ここで青銅が多く使われているのは、アカイネメシスの錫が輸入出来るからか?
ああ、アカイネメシスのトロス山脈は錫鉱石の産地だからな。海への連絡も悪い場所じゃないし、現地で精錬した上で輸入している。
――銅鉱石は……。
それは、マケドニコーバシオ産の物を使用している。赤銅鉱の鉱山があるからな。初期は周辺から産出した孔雀石から精錬していたが、赤銅鉱を掘り出す技術も徐々に進歩してきているからな。金山開発で貨幣の流通を活性化させてはいるが、日用品のための青銅の生産も疎かにはできない。
――一応、精錬技術についても確認させてくれ。
ああ、土で造った炉の上部に、砕いた銅鉱石の粉末を入れ、精錬した錫の粉末を混ぜ、下部でひたすら火を焚く。高温になると溶け出してくるので、錫を入れる量を調整して、其々に応じた青銅のインゴットもしくは、鋳型にそのまま流し込んで剣や盾、槍、その他の日用品を作る。
――やはり、銅の多い黄金色の物が好まれるんだな。
まあ、見た目としてその方が好まれて入るし、錫が多いものは硬いが欠けやすいからな。お前程の腕ならともかく、普通の兵士が下手に振り回したり、打ち合わせたりするとすぐに砕けてしまうんだ。
――そういう問題もあるのか。俺はてっきり見た目だけで選ばれているのかと思っていたな。
しかし、鉄器はどうなんだ?
輸入に頼る錫が不要になるし、なにより、青銅よりも使い勝手が良いと思うんだが……。
無いわけでは無いが、難儀しているな。生産量も多くは無い。
ラケルデモンは元々はヘレネスでも随一の鉄生産国だったよな?
――ああ。基本的な炉の構造は青銅の製造時と大きく変わらないが、強い風が吹く場所で風の流れを計算して炉を設営し、青銅の時とは比べ物にならない高温で鉄鉱石を加熱し……。
なんといえば良いかな、独特のぼこぼこした黒い鉄の塊を得る。
それを直火で熱しながら叩いて不純物を剥落させ、鉄のインゴットを作る。インゴットは、そのままで貯蔵し、必要に応じて加熱して叩いたり磨いたりして加工していく。
職工を指導できるか?
――あまり自信はないな。武具の製造は半自由人の仕事だったので、俺等は簡単な概要と、数回の実習を行った程度だ。戦場では、武器を自作する必要があるかも知れないからだが、日常的な生産という意味では、もっと技術が要ると思う。
ふむ。
まあ、今度鍛冶屋に顔を出す際には、工房の中も確認してやってくれ。
――ああ。職人は奴隷か?
いや、無産階級の連中だ。
一応、そこも復習しておくか。
都市国家を構成する人間は、神話の時代に起源を持つ王族や貴族、土地や奴隷、資金、そうした財産を多く所有するが血統を持たない貴族、数名の奴隷を所有し、その奴隷の労働による収入で税を払い有事には武具を自弁し参戦する市民、奴隷を所有せずに労働によって収入を得ている無産階級となる。
奴隷は古くは農場などで集団で管理していたが、滅ぼした国の知識層を有効活用するために、個人所有の奴隷が今は主流になりつつある。
単純作業に従事させる連中には、暴力による恐怖を与えた上で、最低限の日常生活を保証することにより、逃亡や反乱を防止しする。技能に優れる連中には数年から数十年の労働をこなせば開放するという条件を購入時に示すことで、円滑な管理が出来るようになってきている。
そういえば、お前が連れて来た連中の都市は、全員が無産階級という制度を取っているよな。奴隷には抵抗があるか?
――……いや、能力が劣る人間が優れた人間の下で生活を送るのは、むしろ幸せなことだ。功績による開放の約束も、悪くは無いだろう。もっとも、開放されたところで無産階級市民になるしかないので、逆に奴隷の生活の方が安定している、と、考えるのも出てくるだろうしな。
まあな。もっとも、今後、世界国家樹立のために支配地域が増えれば、バルバロイ――言葉の通じない異民族――の奴隷も増えるだろうし、その過程で、奴隷を監督するための奴隷というような制度が必要になってくるかもしれないがな。上級奴隷とするか、解放奴隷の段階としての管理階級を設けるか……。
奴隷の管理体制も、時代と必要に応じて変更させいく必要があるだろうな。