表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Celestial sphere  作者: 一条 灯夜
【Argo】 ~Miaplacidus~
201/424

2

「おい、ティオフィロス」

 とりあえずの聞き取りを終えようと呼びつけると、どこか困ったような顔で言い返された。

「すみません。ティアと呼んで頂いてもよろしいでしょうか?」

 口答えされたようなのは気に障ったが、まあ、どっちでもいいので素直に従ってやる。

「ティア、俺達はマケドニコーバシオの港へと向かっている。お前の目的地は?」

「どこでも……」

 しょげた顔で呟いたティア。

 ああん? と、曖昧な受け答えに眉間に皺を寄せると、キルクスが「船が沈んで行く当てが無いのでは?」と、横から補足してきた。

 そうなのか? と、訊く前に、船の状況が安定したのか、ドクシアディスが割り込んできた。

「察してやれよ、大将。仲間が死んでんだぞ」

 ッチ。めんどくせえなぁ。

 仲間が死んだなら、尚の事、今後の身のふりを考える必要があると思うんだが。

「おい! ティア。マケドニコーバシオへは送る。その後は自分で考えろ。ドクシアディス、コイツは軟禁して船の運航に関わらせるな」

 ラケルデモン遊撃隊との遭遇戦に備えようと、尋問を終える命令を出すと、ドクシアディスには目を丸くされた。

「軟禁? 仲間に迎えるんじゃないのか?」

「なんでだ?」

 所属もなにもかもが怪しい女を船に載せる意味があるとは、俺には到底思えなかった。半島まで辿りつき、陸を臨みながらの航海に入ったら、もう一度尋問して教団とやらの情報を吐かせ、あとは町で適当に降ろすつもりだった。

 他の連中もそうだと思っていたんだが……。

「いや。これまでは、買い入れた奴隷を仲間にしてきたんだし――」

 うん?

 額に手を当てて、少し考えてみるが、どういう理屈なのか理解できなかった。

 奴隷は、買い取った以上、所有権が俺達に移っていて、俺達の方策として奴隷階級を置いていないので、構成員として適性に応じて仕事をさせている。この女は戦利品かもしれないが、別に、奴隷でもなんでもないし、そもそもが俺達と関係のないヤツだ。必要な人材というわけでもない。ドクシアディスが、仲間にすると判断していた基準はいったい?

「確かに、奴隷を買い取る際には事前に完璧な身辺調査が出来ているわけじゃないが、ソレはなんの係わり合いの無い他人だろ? 助ける義理はないし、たいして働けそうにもないだろ、そんな感じじゃ。置いとく意味あるか?」

 ドクシアディスは頭を抱えた後、キルクスに意味ありげな視線を送った。が、キルクスも困ったような顔で苦笑いを浮べただけだった。

 なんだ?

 そして、キルクスが苦笑いを浮べたのが合図だったかのようにエレオノーレが……呼んでもいないのに近付いてきた。

「ティアさんも、私達と一緒に来ませんか?」

 エレオノーレは、俺を無視して女に向き合っている。

 ただ、ティアはどちらかといえば戸惑ったような表情を浮べていた。

「ええと。そのアナタ方は、マケドニコーバシオの?」

 勧誘したのはエレオノーレなんだから、俺に訊くな、と言いたいところだったが、正直、俺自身、自分達について上手く説明できないことに気付いた。

「いや、独立した武装商船隊だ」

「海賊!?」

 ティアが身を強張らせ、エレオノーレが俺に向かって膨れっ面を突き出した。

「もう、それでいいから。逃げる為に海にでも飛び込め」

 いい加減めんどくさくなったので、適当にそう言えば、エレオノーレがまた騒ぎ出した。

「違う! 違いますよ、ティアさん。私達は、商売しながら世界を回っているんですけど、皆、国が無い人で、それで、助け合って生きて行こうってしてるだけなんです」

 エレオノーレの言は、尚更いかがわしく聞こえるのは俺だけなんだろうか? 、奴隷商人とかが難民相手に言いそうな台詞だ。上手い話には裏があるってな。

 それに、確かにそうした側面もあるにはあるが……俺としては、その部分は過程というか、人を動かすために必要だからしているだけで、絶対服従の兵隊だけが手に入るすべがあるなら、そっちの方が嬉しいんだがな。

 やはりというか、エレオノーレの顔をまじまじと見て、どこか疑っている様子のティア。

 警戒は、解けていないらしい。

 エレオノーレも、その程度の事は察せられたのか、苦笑いでこの場での勧誘を諦め、船室の方を指差して言った。

「少し休みますか? 大変だったでしょう? 落ち着きながら、ゆっくりこちらの事もお話しますね」

 ま、拾ってまったんだし、こうなるかな、と予想はしていた。

 だから、溜息だけで済ませられたが、いきなり自由させるつもりもなかった。

「おい! 詳しい聞き取りも終わってねぇんだ。見張りはつけとけよ」

 エレオノーレたちの背中に命じると、不満そうな視線が返って来た。

 バカか? お前等は、と、肩を竦めてみせる。

「問題が起きた場合の責任は?」

 責任を取れないことを自覚しているのか、まずエレオノーレとチビは黙った。しかし、ドクシアディスに命じて付けていたエレオノーレの目付けが余計なことを言ってきあがった。

「アタシが負うよ」

 鼻息も荒く言い切ったニッツァ。

 女衆のリーダーのコイツなら、金銭的な意味でも責任を負える立場にいる。保険が用意できるなら、まあ、泳がせて見るのも手ではあるな。

「好きにしろ。ただし、言葉に責任は取れよ」

 フン、と、鼻で笑って俺は下がった。


 甘っちょろいお遊びに、いつまでも付き合っているわけには行かない。

 今後の調査の結果、役に立つようなら上手く女衆を使って懐柔すればいいし、無能なら状況次第、疑わしい状況の場合は殺すか捨てる。

 キルクスに渡している、麦の穂を上手く使えば、殺すのも船から放り出すのもそう難しい話じゃないだろう。毒のある品らしいって事だしな。もし毒じゃなかったとしても、証拠はこちらの手にある。捏造もできなくはないだろ。キルクスなら、取り引き次第で口裏を合わせてくれるだろうし。


 いずれにしても、最良の選択は様子見か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ