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Celestial sphere  作者: 一条 灯夜
【Gemini】 ~夜の始まり~
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2

 帰り着いたのは、町外れにあるドアの無い、箱みたいな共同の寝床。その横には掘り込み式の隠し倉庫があり、歴代の少年隊は、ここに武器や食料、メタセニア人からの略奪品を隠しておけるようになっている。

 この国では、共同体の意識向上のために少年隊時の私財の保持は禁止されているが……。まあ、公然の秘密ってヤツだ。

 半自由人――同属の犯罪者が市民から降格した奴隷商工人――に、俺専用に打たせた剣を取る。革の鞘を外すと、片刃の長剣が鈍く月光を反射した。

 一本の鉄から打ち出した剣で、肉厚の刃は伸ばした俺の腕と同じだけの長さがあり、後付の鍔は無く、柄は握りを深くするために螺旋に捻っただけのシンプルな作りだ。

「よくそんなモンが振れるよ」

 呆れたようにエーリヒが呟く。

 コイツ等の剣も刃渡りは同じぐらいだが、格段に薄く、ちゃっちい飾りの柄と鍔がついている。

「数打ち物では駄目だ。刃と鍔と柄を別にして合わせたのは、全力で振ると刃の付け根で折れる」

 二〜三回剣を振り、調子を確かめる。特に問題は無さそうだ。刃も錆びてない。きちんと砥いでいるとはいえ、かなり高い頻度で人を斬るから滲み込む血や脂、刃毀れで傷みも早い。

 今夜は金も盗って、近々新しいのも打たせようと思う。

「そんなヤツはお前だけだっての」

 もうひとりの取り巻きのクルトがエーリヒに調子をあわせるように呟いたのを適当に聞き流し、鼻で笑う。

 そう、俺だけ。だからつまらない。

 少年隊への入隊が六歳で、十歳までの教育と訓練を終えれば奴隷を殺す権利を貰える。まあ、より正確には、常に宣戦布告状態である奴隷階級との戦争への参戦権が得られるわけだが。とはいえ、奴隷に組織立った抵抗は許可されていないので、宣戦布告っつっても一方的な殺しの宣告みたいなもんだ。

 そんな奴隷共でも、腕の立つのは少しはいた。

 この四年でソイツ等はもう全部殺しちまったし、ただの殺しに少し飽きてきてもいた。殺った人間を数えるのは、百で止めた。楽しめる相手がいない以上、無意味だ。本当に殺したい相手へは、強い弱い云々の問題以前に今はまだ会う機会がない。

 手っ取り早く、他の都市国家と戦争でも起こればいいのにと、去年辺りから思っているが未だ叶ってはいない。


 春の終わりとはいえ冷えた夜風を遮るため、そして夜陰に乗じるため、黒く染め上げた外套を羽織る。細々した小物や、止血や消毒のための薬草なんかを小さな布袋に入れ、腰当てを留める革のベルトに括りつけた。

「さて、どこを攻めるか」

「この近くはあらかた狩ったな……ってか、これ以上殺すと逆にジジイに叱られるぞ」

「「殺り過ぎだってな」」

 二人は声を揃え――、そして、なにが面白いのかゲラゲラと笑い転げた。

 ああ、普通は、もっと殺せ、もっと鍛えろとほざく連中が、俺には逆の説教をするのが面白いのか?

 しかし――。

 ひとりじゃ満足に人を斬れない半人前共に笑われたんじゃ、ジジイ共もたまったものじゃないだろうな。と、そこで、そのクソジジイ共……もとい、監督官や青年隊の連中の言葉をふと思い出した。

「そういやあ……。座学で、畜産用の村が山間にあるって言ってたよな?」

「あ、ああ、でも、山の夜道は――」

「嫌なら降りていいぞ」

 不安そうに言ったエーリヒに、突き放すように言い放つ。

 元々、実力の劣る連中だ。ついてこれないなら置いていくだけ。十四にもなって、まだ十数人しか殺してない素人。それも、腕がたつ連中を俺が殺し尽くすのを待って、余った弱いのを狙って、だ。

 別に俺は独りでも問題ない。ヘロット――国家管理の農奴――風情、なんの脅威でもない。


 しかし、エーリヒは……ここで見捨てられれば、次の春の青年隊への昇格の選別に落ちると思ったのか、不安の残る顔ではあったが「いや、行く」と、答えてきた。

「なら、とっとと付いて来い」

 先頭に立って夜道を歩き出す。

 森は――、月明かりに照らされるのは梢ばかりで、奥へと続く人が踏み固めて出来たような細道は、うっそうとした闇に包まれていた。

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