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ふと、ドクシアディスが俺の隣に居るままで、連れて来た腕利きに混ざっていないのに気付き、少し眉を顰めてからその視線を追うと――。
「気に入ったのがいたのか? それとも知人が?」
ドクシアディスの視線の先には、奴隷市場がたっていた。特別誂えの簡単な台の上に、教育――ラケルデモンでは、農奴として全体管理なので必要なかったんだが、こちらでは個人所有なので、反抗心を取り払い、服従と技能を叩き込んでいるらしい――の済んだ奴隷が十人ほど並べられ、売れるごとに別の奴隷がテントから引き出されて段にあがっている。
後から出てくるヤツの方が、若干質が良さそうだな。面構えや体格がちょっと違う。
あ、とか、いや、とか、意味のない声を上げてうろたえた後、ドクシアディスは咳払いで真面目な顔を作り「違う、知人も居ない」と、返してきた。
が、逆にその反応が怪しい。
まあ、コイツも成人しているようだが結婚はしていないようだしな。特に目立つ欠点も無いので、縁がないってわけでもなさそうだが……。多分、戦争に巻き込まれてそういう話が延び延びになっているんだと思う。って、昨日のキルクスの余計な一言を引っ張ってるな、俺も。
ゆるゆると首を振ってから――。
一応、俺の補佐というか副官が板についてきた男を見る。無能って訳じゃないが、こちらの期待以上の結果は出してくれない副官だが、身の回りの世話を焼く人間の一人ぐらいつけても、別に構わない。そのぐらいは働いていると判断している。
「別に、お前個人の金でなら奴隷を買ってもいいんだぞ?」
なんの気なしに、軽くからかった俺だったが、ドクシアディスの反応は、少し予想外だった。
「いいのか?」
かなり真剣な表情だ。
まさか、奴隷の中に本当に気に入ったヤツが居るのか?
興味本位でサッと確認する限り、肩甲骨程度までブロンドの髪を伸ばした暗そうな女か、逆にギリギリ結婚できるような幼い十四~五の髪の短い無表情の小娘ぐらいしか、コイツに宛がえそうな年齢の女はいないんだが……。
しかし、……いや、俺も人の事を言えないのかもしれないが、随分と趣味が悪いな。もっと、こう、戦えそうだとか家事をしっかりこなせそうだとか、容姿が優れているとか、そういうのを狙えばいいのに。
「食い扶持もお前が用立てるならな」
肩を竦めて見せながら俺が答えると、ドクシアディスは神妙な表情で考え――もしかしなくても、奴隷の維持費なんかの計算をしているんだろう――、時折、チラチラと奴隷の売買の様子を見ている。
本気で買い取るんだろうか?
つか、奴隷を買っても、奴隷として扱えないだろうに。エレオノーレがまたキーキー騒ぐぞ?
まあ、アイツならこの場で売りに出されている奴隷を全員買い取って仲間にするとか言い出しそうだったので、今日は女衆に引き止めさせ、宿に置いて来ているんだが。
まったく、要らない部分の影響はあまり受けて欲しくはないものだ。