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Celestial sphere  作者: 一条 灯夜
【Argo】 ~Alsuhail Almuhlif~
144/424

6

 天気は、演習への出発直前で晴れた。

 まあ、うっすらと雪が積もってはいるが、足をとられるってほどの量でもない。気温はまだそんなでも無いが、すぐに雪が溶けてぬかるみ始めるだろう。昼間でも凍るって程の寒気じゃないんだし。


 不安定な地形での訓練、か。

 鍛えるには悪くないが、新兵がついて来れるかが不安だな。

 それとなく整列を始めている部隊や、点呼中の部隊の様子を窺うが、半分程度は着慣れない鎧に対し、緊張と興奮の混ざったような顔をしていた。

 ――コイツ等は、はたして戦場で人を躊躇無く殺せるんだろうか? 俺よりも年が上の人間は多い……というか、基本的に十五歳以上五十歳以下を兵士と決めたので、基本的には俺よりも年上しかいないはずなのに……その姿は、随分と頼りなさげに見えた。

 ラケルデモンでの座学の言葉が蘇る。

 人を殺す訓練を幼い内からしていない他国の人間は、我々と比べ歩みが遅い、と。

 戦場で躊躇すれば、死ぬのは自分自身だ。敵を視界に捕らえれば、直ちに殺すもしくは逃げるための行動をとらなくてはならない。だが、それは、どんな言葉でも教えることが出来るようなものではない。条件反射に近いもので、自分自身で体得するしかないからだ。

 どこかで一戦する。それは、この集団のために必要なことだ。

 ただし、勝つためには……敵の調略に虚言の流布等、相当な事前準備が要るだろうな……。


 そんな風に事前に回覧していた内容どおりに行軍陣形を整えさせている合間のちょっとした時間に、ドクシアディスを見つけ、俺は少し迷ったものの声を掛けた。

「ドクシアディス」

「ん? 今日の事で、なにか問題が?」

 違うと、首を横に振って……演習前に言うようなことでもないかもしれない、と、若干不安になったが、どっちみちドクシアディスも各所からの準備完了の報告を待っている身だったので、思い切って俺は――命令した。

「エレオノーレが少し不安定だ。女衆に気にかけさせてやっておいてくれ」

 ドクシアディスは目を丸くしてしばらくぽかんとした顔をしていたが、少し焦ったような調子で問い質してきた。

「なにかしたのか?」

「なにかってなんだ? ああ、まあ、元々は田舎の村しか知らなかったヤツだし、船で世界を回ってるうちに、ホームシックにでもなったのかもしれない。二日前に、昔を懐かしむようなことを言っていた」

 そこまで内々の話をしたわけじゃない。隠し立てするようなことでもなかったし、慰める助けにでもなればとあらましをざっと説明してやると、ドクシアディスはどこか呆れたような顔で俺を見た。

「お前……あ、いや、大将、それは……」

「アン? なんだ? アイツもそうだが、モノははっきりと言え」

 歯に何か挟まったような物言いに、きっぱりと言ってやれば、ドクシアディスは面白くなさそうというか、困り切った顔をして、最後に肩を竦めあがった。

「大将は、戦いの勘以外は鈍そうだ」

「そうか? 商売も上手くやれていると思うが」

「大将は、人の心の機微に疎そうだ!」

 どこかやけっぱちに言い直したドクシアディスは、調理パンなんかを届けていた女衆の方へと大股で歩いていった。

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