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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あやかし幻想奇譚シリーズ

文字喰い

エロゲ転生の世界で生きる人たちの小話となります。

単体ではおもしろくないかも?

 文字喰い。活字中毒。本狂い。

 それは俺への褒め言葉。


 帰宅早々、パソコンのディスプレイをつけ、恭介はにんまりと笑う。

 本当に良い時代になったものだ。




 恭介は狂丞。音は同じだが言霊にこめられた意味は大きく違い。

 いつもは存在を偽って生きている。

 名前を偽るという事はそういう事だ。


 現在は文字喰いにとって、飽食の時代だ。

 本屋は大量に本を所蔵し、図書館だってある。

 他にも、パソコンでタブレットでスマホで。どこでも読める。喰える。

 溢れるほど文字に満ちている。




 キョウスケは文字喰いだ。あやかしである。

 文字喰いは、おそらく獏や悪魔の亜種か仲間だ。たぶん。

 ほとんどのあやかしが自身に興味が無いので、研究など進んでいない。

 基本的に自分以外の存在など、どうでもいいのだ。俺も含めて。




 書籍の活字が一番好きだ。だが、所有するには面積が必要で。何度も味わうと薄くなる。

 パソコンやスマホで拾う、電子世界にちらばる活字は……例えるならインスタント。

 それに玉石混淆で外れも多い。まあ、お手軽さが一番でキョウスケの最近の食事はもっぱらネットから。

 サラリーマンは忙しいのだ。


 ゆいいつ、知っている同属のイサナはBLというジャンルが一番好きらしい。

 キョウスケはあの味はちょっと苦手だ。好みというのは人それぞれなので、なにも言わないが。

 食事中にイサナと会う事は少ないので、彼女の嗜好には助かっている。


 食事中の文字喰いの表情ときたら、恍惚。

 ちょっと人には見られたくないものだ。


 それでも、時々、ごちそうが食べたくなって神保町などにふらりと立ち寄る。

 明日の休みは久しぶりに神保町に行くか。

 キョウスケは古本を思い、頬を緩めた。






「きょーすけ」

 駅に向かう途中、声をかけられた。


「おお。鴉。久しぶりだな」

「うん。きょーすけは仕事ばかりで、あんまり出歩かないからねぇ」

「リーマンって面倒なんだよ。仕事が無い時はあまり出歩きたくない」

「うんうん。人間社会って変な生活スタイルばかりだもんね」


 鴉も人に紛れて生活している、あやかしだ。

 妖気で気取られたのか、惚けた食事中の顔に感づいたのか。

 あやかし同士の気安さで俺の数少ない友人だ。

 友人といいつつ、遊びに行った事すらないが。


「そうだ。最近、他所から面倒なのが居ついてね。君も注意する事だ」

「このあいだの殺人事件か」

「うん。あれ続くね。たちの悪い連中のようだから」


 ほう。珍しいな。


「お前は静観か?」

「どうだろう?判断がつかないから様子を見ているけれど、

 元々、ここは犯罪の少ないところだ。あまり派手に動くなら少し介入するかもね」

「ふむ。俺も手伝うか?」


 鴉はくっくと笑った。基本的にあやかしは個人主義。

 手伝いとか俺も染まったな。


「いいよ。気持ちだけもらっておく。連中は強い。むしろ近づかない事だ。

 イサナさんにも伝えておいて。淫を好むたちのが多いようだから」




 鴉と分かれて、電車の中。神保町に向かいながら俺は一人溜息を吐く。

 騒がしいのは嫌いなんだがなぁ。

 こうやって日々、日常に溶け込んでいるあやかしのほとんどは無力。

 大戦の頃のような大事にならなければ良いが。


 戦火で本が焼けたらどうしてくれる。

 キョウスケが憂うのはいつだって活字の為だ。他に興味は示さない。

 あまりに他に興味が無いので、職場でのあだ名はトーヘンボクだ。唐変木のボク君。

 本人はわりと人に溶け込んだつもりでいるが、残念ながら奇人変人。

 あやかしとして生きていくのもなかなか苦労するものなのだ。

ストーリーに大きく関わらず、閑話にも入れにくい物語が浮かびました。

数が増えたら、まとめると思います。


お読み下さりましてありがとうございました。

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