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Archetyp―アーキタイプ―  作者: 王道楽土
一章 出会い ―希望―
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7話 子供

「子供!?」


 おもわず声が出る。


 望は店舗側でなく道路側の端にいた。立ち上がる際、視界は左斜めのブランドショップを向いていた。そのブランドショップの窓ガラスに何も写っていなかったが、手をどけた瞬間に見えたのだ――そこに子供が。


 即座に窓ガラスに映っていた反射先の方角に向くと――いる。子供が。


 蟲目、即ち右眼を閉じると――いない。


 衝撃的事実。境遇者でも蟲でもない存在。普段冷静だが想定していない存在に鳥肌がとまらない。収獲があったにしろ、あの「子供」とコンタクトしたくないという拒絶感。


 なぜなら現にあの存在と――目が合っているからだ。ヘビに睨まれた蛙であった。望は身動きできないでいた。


 しかし、その子供は視線を逸らし、望の反対方向へ歩いていく。目が合ったといっても二秒くらいだったが、望にしてみれば十秒以上の感覚。相手は気づいてないのか、誘っているのか判断つかず焦る。


――ど、どうしよう……追ったほうがいいのか。危険かもしれないし。いや、ここは距離をとって尾行しながら考えよう……。


 外見は十歳前後。民族衣装みたいな服装。蟲目で見れば子供だが、左眼で見ればその存在はいない。性別は――わからない。男とも女とも断言できない。それらが現段階で望が知りうる情報だった。


 尾行して五分くらい。気持ちもさっきより落ち着き、集中して考えていた。それは――望が見えていることを知っているかどうか。これを確かめる行動。


――子供の歩く方向へ先回りし真正面から対面し反応をみるというもの。


 一見危険そうだが、リスクは避ける。望からは話しかけず、目もみない。ただ対面するのみ。場所も人通りが多いところ。襲われてもどうにかなりそうという短絡的な発想であった。


――怖い……けどずっと尾行しても意味なんてない……先回りする!


 望は距離をとりつつ先回りした。このままいけばあと十秒ほどで接触する距離。望は携帯電話をとりだす。その場で止まり携帯電話を操作するふりをし、相手の動向を伺う。


――怖い……。


 震えを押し殺し我慢をする。あと三秒くらいで接触。


――気づいてないように……。


 携帯電話を握る手が汗ばみ、小刻みに震える。あと一秒。対面と呼ぶには近い距離。


 子供は望を避けるように歩いていった。


――ふうぅ、よかった……やっぱり気づいてないか……。


 望は多分気づいてないと踏んでいた。相手は誰からも見えてないと自覚している存在。それは歩きながら周りの人を避けていたからだ。そんな自覚している存在が、望という特殊な存在に出合ったら、敵対心なり好奇心なりもったはずであると。一瞬でも表情に浮かんだだろう。それが感じとれなかったのだ。


 望の推理は希望的観測にすぎない。どんな状況だろうが敵対心を顔にださないのもいるだろう。それこそ罠かもしれない。それでも結果オーライの行為だった。


――さてここからだ、本当にどうしよう。コンタクトとるか、とらないか……千載一遇なのか……日常茶飯事な存在なのか……あ!!


 あれこれ思考している望を尻目に、子供は修繕工事しているビルへ入って行った。ファストフード店内から見ていたビルであった。


――ああ……やばいな。人気もいない場所は……何かあれば大声あげたらいけるかな……こっちの存在ばらすほどのメリットあるのかな……。


 そうも思いつつ望はついて行く。修繕工事中のビルに入る軽率な行動。目先の利益云々の話と同じ行為かもしれない。遥か先に大きな利益があるとも知らず、目の前に拾える小さな利益に飛びつき、道をそらして結局大損をするという。


 階段をコツコツ上がって行くのを確認すると、時間を空けて上がっていく。この時間は無人で作業員らしき者はいなかった。望にすればそれが余計に危険であったが、階段を上がって行った。


 上階から扉を開けて閉まる音が聞こえる。どうやら子供は屋上にでたらしい。望はやや早足で階段を駆け上り、屋上へのドアにたどり着いた。


――この扉を開けると多分……いる……引き返すなら今しかないし、行くなら今しかない……なら、いくか!


 もう望の集中力は途切れかけていた。子供を視認してからずっと集中しているのだ。普段ならもっと持続して、集中できていただろう。ただ今回は未知なる存在。秋葉原にきて意識しながらの探索だったので余計であった。


 望は、ふぅと息を吐くとドアをゆっくり開けた。


 静かにドアを閉める。心臓の音が聞こえてくる。脈拍も早い。恐怖心で一歩も前に歩けず、視線のみ動かす。


――あれ? いない?


「ふ~~ふふ~~んふふふふふふ~~ん」


 誰かが鼻歌をしている。おそらく子供であろう鼻歌が聴こえる方へゆっくりゆっくりと近づく。


 この鼻歌で望の心境はなぜだか少し和らいだ。

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