4話 助言
「うん! 対話しよう!」
涼加は対話遊びができるという喜びに満ちた笑顔。対して望はしまったという表情。吐き出したものを呑み込むわけにもいかず、恥ついでにぶつけてやろうという、ややヤケクソ。
「虚心さん、バイト休みっていつ?」
「へ? 明日とか休みだけど?」
脈絡もなく突拍子のない質問に涼加は少し動揺する。
「僕も明日休みなんだ。明日、用事なくて暇ならその……話したいんだけど……どうだろ?」
蟲が混入して以来、望から誘うのは初めて。勿論、女性を誘うのは人生初であった。ここまで突き動いたのは涼加の一言もあった。もっと大きな要因は――蟲についてヒントが得られるかもという原動力。
「えー……っと、明日は大丈夫だよ……?」
涼加はデートにでも誘われたのかと一瞬考えるが、この人にそうゆう概念はないと判断。(ああ、聞きたいことがあって、勢いで誘ったのか)と理解する。
「ありがとう!」
――この人ってこんな笑顔するんだと知った涼加であった。
明日の待ち合わせ場所と時間を決め、他愛もないバイトの会話をしながら二人は電車で帰るのであった。
帰宅途中、望は一人で夜道を歩きながら考えた。明日、涼加にぶつける疑問や質問。直接的でなく間接的に。不自然さを消すため、先に用意する。読心術ではないと涼加は言っていたが、望にはあれはあの子の才能だと確信めいたものを感じていた。
――自分に読心術をかけさすのでなく、蟲にかけさせる。
これが望の期待である。蟲の特性を間接的に訊きだす。いささか利用しているようだが、涼加の「対話しよう!」と言った時の笑顔をみると心苦しさも和らいでいた。
◇ ◇
「お待たせー、えらい早いなキミ。まだ十五分前だぞ」
時計を確認しながら涼加が待ち合わせ場所に到着。昨日と違い少しお洒落な格好であった。望はやはり清楚という印象を受けた。「最善くん」から「キミ」になった涼加が続けて話す。
「どこで対話するの? あまり人がいないところのがいいのかな?」
「いや、隠し話するわけでもないから、あそこのファミレスでもいいかな?」
おっけーと涼加は了承し普通のファミリーレストランへ入店。人はまばらながらにいる。店員も必ずいる。望にとって安心できる場所であった。二人はドリンクバーを注文し、お互いジュースを容れ、席につく。
「でっ! なんの対話したいのかな?」
涼加は上半身を少し前のめりにした。
「うん。対話と言えるのかわからないけど、疑問や質問なんだけどいいかな?」
「ふむふむ。なーに?」
疑問や質問でも対話遊びができる涼加は楽しそうな表情。望は一晩考えた、間接的に悟られないような質問を問いかける。
「虚心さん個人の感想を聞かせてね。例えばの話……幽霊が見えるとするじゃない?」
いきなり超常現象系の話題を切り出すも、涼加は表情一つ変えず返す。
「それはキミのこと?」
「ううん、例えばの話……じゃあ僕でいいや。それを虚心さんに信じてっていったら信じる?」
「信じないかな」
考える間もなく涼加は即答した。真っ直ぐ望を視界に入れ観察する。
「だったら、僕が幽霊を。虚心さんはUFOが見えるとしたら?幽霊を信じる?」
涼加は怪訝な表情を浮かべる。これは質問の内容にではなく、間髪入れず質問してきた望の発言に。予め用意していたように感じたのだ。
「信じないかな……ちょっと意図がわからないけど、幽霊とUFOはまったく別物じゃない? その別物を一緒くたするのは無理じゃない?」
「どうしたら幽霊を信じる?」
「キミの信じるってのは確信って意味合いでいいの?」
「うん、そうだね確信だ」
「無理じゃない? それがもし一番信用のおける人物が言ったとしても、確信は得れないと思う。自分じゃないと確信持てないな……私はね。……でもこれは条件付きの話だから別条件つけたら確信までいかなくても信じるかも」
「? どうゆうこと?」
「キミが幽霊見えるから信じてって条件の話でしょ。証拠があるから信じてなら変わってくるかな」
証拠。人を納得させる便利な言葉である。なるほどと望は写真やポルターガイスト現象を目の前でみせたらどうかと問うも、どちらもトリックできると門前払い。
少し落ち込む望に、違和感だらけの涼加であった。なにから投影させての質問なのか。みえない。話がみえてこない。ここで涼加が、ポツリと呟く。
「見えない……」
望はこの言葉に動揺しかけたが、悟られるとやばいと思い会話を探す。だが涼加は斜め前方に、視界を向けていて望は入っていなかった。視線を望に戻し、
「……うん、私はやっぱり見えないと信じないな。幽霊がいたとして、それを幽霊と認識できるのかな? 視覚情報として脳で識別しない限り無理だな。ギリシャのソクラテスじゃないけど知らないものは見えない的な……見えないものは知らないだったかな?」
望は涼加の話に集中していた。ぼんやりだが感じる何か。そんな望を知らずまだ話を続ける。
「んーそうだな……あ、サングラスをかけると、人間に変身してる宇宙人達が見える映画あったけど……『ゼイリブ』だったかな。そうゆうアイテムがないとなぁ。あっ、非現実的なものでそれもトリックできるか……」
ゼイリブを知っている女子高生なんていないよという、つっこみもせず望は集中して考える。
「そもそも、幽霊っていう概念が人それぞれだしなー。うん、私は自分の目で見ないと信じないや。そうゆう得体の知れないの好きだから見てみたいけど」
「それだ!!」
突如両手で机をバンッ大きく叩き、立ち上がる。
「ひゃん! もう! なに急に! ビックリだけど! どれよ……」