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Archetyp―アーキタイプ―  作者: 王道楽土
二章 前進 ―信望―
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2話 接近

 共同生活二週間で望は名も無き子供を少しづつだが知っていった。ラルカは興味を持つと追求したがる。カルラは自由奔放で好きなようにする。だがどちらも同一人物であり、二重人格とかではない。望はどちらもそれなりに対応できるようになった。慣れてきたのである。


 共同生活二週間で望は名も無き子供を少しづつだが知っていった。ラルカは興味を持つと追求したがる。カルラは自由奔放で好きなようにする。だがどちらも同一人物であり、二重人格とかではない。望はどちらもそれなりに対応できるようになった。慣れてきたのである。


 ラルカからは集中力の指導までしてもらっていた。常人なら一、二時間で集中力は切れるが、望は才能なのか絶光蟲の影響なのか四、五時間は持続できた。時間だけではなかった。蟲目に集中するよう指導されており、これを毎日訓練すればいずれ絶消見殺しを抑えるまで進歩すると。


 進歩。――アウトクリーチャー寄りになるのである。


 犬牙事件以来、望は冷子に会う事を禁じられていた。冷子の実家に連絡をしても取り合ってもらえないのである。こればかりはどうしようもなかった。嘆いてばかりもいられないのでアルバイトを再会する事にした望であった。アルバイトは家庭の事情という、ありきたりな嘘で休んでいたが開始するのであった。ダジャレに興味を持ったラルカを自室に残し出勤するのであった。


「ラルカ、行ってきます」


 初日に行ったのみで二週間ぶり。本来ならトンズラと解釈されても仕方ないのだが、涼加が店長にフォローを入れており首の皮一枚つながっていたのだ。そんな事情を知らない望がバイト先に到着し店長に謝罪。なんとか夏休み終了までの約一ヶ月先まで雇用確保する。


「おや。久しぶりー! キミー元気してた?」


 先にバイトに入っていた涼加が片手を上げ声を掛ける。


「あ、久しぶり……いきなり休んじゃってごめんね」


 涼加でなくとも読めるような引きつった表情を望は浮かべた。涼加はそれを察し追求せずにアルバイトの話題にシフトチェンジし、お互いレジへ向かった。


 流れ作業のようにレジをこなし、一時間経った辺りだった。蟲目が騒いだのである。


「くっ。やばいな……」


 近くにアウトクリーチャーがいる。外者ならかなり厄介である。今の望では対処できる応用力はない。望はスーパーでなく他の店舗であってくれと願う。なにせ相手との距離がわからない。近くにいれば対応できないにしろ身構えるなり、レジから移動するなりできる。だが距離間が掴めないとなると、ずっと身構えることもできず、レジを離れても同じであり不安はかなり大きい。


 そこで望がとった行動――蟲目に集中するであった。


 どうせ距離がわからないなら騒ぐのを抑え、頭痛を解消するというもの。望は騒ぐ蟲目を抑えるくらいは完璧に習得していた。これがかえって裏目にでる。


 レジをこなしていると、三人先の客に一人の男がうまい棒を一本持って並んでいた。望はこの男に疑念を抱きつつ緊張する。


――異様であったのだ。姿やオーラ云々でなく、大型スーパーで長蛇の列が出来る時間帯にうまい棒を一本だけ買いにくる客などほぼいない。望は蟲目に集中していたのを解くと、蟲目は騒ぎ続いていた。


(やばい……多分あいつかも……しかも外者……でも待てよ、いきなり襲ってこないのは理由があるからだ。接触はしたくないけどもう逃げれないから一か八か)


 望の洞察力は様々な経験によって上昇していた。まだハッキリと顔も確認していない男が次の番になった。


「ありがとうございました。お次の方、お待たせしました……」


 場慣れしてきたとはいえ、緊張する望に対してその男は憮然としていた。


「よーっ。ふーんそんな顔だったのか」


 顔も見たくなかったが、そんな台詞を吐かれた望はその男の顔に視線をゆっくりと上げる。その男は銀髪のツンツンヘアーで、目が鋭く同い年くらいのチャラ男風だった。


「……十一円になります」


――望がとった対応は無視するというもの。じっとりとこめかみと首筋に冷や汗が流れる望を凝視する男は、レジの受け渡しトレイに十一円を置く。


「シカトか! ……まっいいや」


「ありがとうございました。お次の方、お待たせしました……」


 男はすんなり帰っていったのである。安堵するもすぐに疑問を抱く。なぜこちらをピンポイントで感知したのか。望は自分の頭でいくら考えても答えはでないと判断し、ラルカに相談すると決めた。帰っていくその男の背中をチラっと視線だけ送りまたレジ処理を開始した。


 その後何事も起こることはなかった。蟲目の集中を解除し続けても騒がなかったのでホッと一息つく。しかし目的が分からず、望を感知される男の行動に不安は残るのであった。


 バイト終了時間の午後十時になりタイムカードを押すと涼加が望に寄ってくる。


「お疲れ様。久しぶりのレジどうだった?」


「大丈夫だったよ……一緒に帰ろうか」


「うん!」


 望は勿論、あの男の行動に不安を抱いている。蟲目の感知能力があるので一度でも騒げば一人違う方向へ涼加から離れる覚悟をしていた。巻き添えにしない為。だがここで変に一緒に帰るのを否定する言動は、涼加の――対話遊びによって看破されかねないと思い自分から誘ったのであった。


 涼加はこれを読んでいた。間があって誘ったのが照れ隠しの類ではないと。一緒に帰ろうと望から切り出したのは、事情があると。だがその背景までは見えなかった。


「キミは見えないなー」


 小さな声で囁いた。


「ん? 何か言った?」


「ううん、何でもない。帰ろ!」


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