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Archetyp―アーキタイプ―  作者: 王道楽土
一章 出会い ―希望―
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13話 天性

 冷子は夢を見ていた。それは致命傷を受けた時の夢だった。意識を失う前に望が逃げていく姿が。望の方向へ手を差し伸べるも逃げていく。小学六年生の出来事と重なる。助けを呼ぶわけでも、引き止めるわけでもない。ただ手を差し伸べる。


――心で叫ぶ。私を受け入れてくれたのは望だけ……私を受け入れてくれたのは望だけ……私を受け入れてくれたのは……


「望!!」


 冷子がそう叫ぶと目を覚ました。そこは日共センの病室であった。生きていたんだという実感と同時にナースコールボタンを押す。理由はただ一つ。望の安否であった。看護婦が駆けつけると、冷子は開口一番に望の安否を確認する。


「望は!? 一緒にいた青年は大丈夫だったの!?」


 看護婦が事情を知る訳もない。担当者を呼ぶので来るまで安静にしてくれと伝えられる。また、病院にきてもう二日経っていると知る。いつの間にか冷子はまた眠りについていた。


「おはよう冷子。気分はどない?」


 やさしい口調で問いかけるのは縷々であった。いつ眠りについたのか気づかなかったが冷子は看護婦と同じ確認をする。


「望は!? 望に怪我はなかったの!?」


「ないよ。大丈夫安心しい。あの青年は怪我一つしてへんよ」


 冷子は安堵の表情を浮かべる。しっかり会話できるか縷々が確認をとると、冷子は大丈夫と答えた。親友の縷々にでなく仕事仲間の縷々に事の成り行きを説明した。縷々はプロとしての欠如があったと冷子に指摘する。勤務外になったとはいえ、あの場所で即座にプロテクターを脱いだのが致命傷に繋がったからだ。無警戒すぎる行動と態度も付け加えた。


「自覚してるわ。迷惑と心配かけてごめんね……」


「ならもうええ。これで済んだ事や。とやかくもう言わん」


 縷々が踏み込めない部分があった。プライベートの部分だ。望の行動や言動が気がかりだが、それを冷子に聴取する事は少なからず疑念を抱かせてしまう。疑念は縷々が請け負う事で会話は続き冷子が問う。


犬牙けんがはどうなった?」


 犬牙とは大男である。日共センではターゲットに名を付ける風習があり、犬牙の由来は異様に鼻が利くところから「犬」と、日共センに歯向かうことから「牙」で「犬牙」と呼ばれていた。


 また冷子にはコードネームがあり、『均衡』と呼ばれている。天性のバランス感覚を所有する。それだけでなく、相手のバランスも視認できているかの如く、支点が分かるのである。相手の動きを見るだけで、次の行動が読み取れるのである。


――生物は自然とバランスをとるもので、そのバランスを視認することで行動を読む。勿論、これだけでは行動すべては読めない。才能と呼ぶには劣るかもしれないが、「動体視力」が非常に優れている。それと、今まで培ってきた格闘技術の分析能力も優れている。この「バランス」「動体視力」「分析能力」が冷子を『均衡』と名を馳せる由来である。戦闘の為に生まれてきたような存在。


 彼女と組み手をした道場員の皆が云う。


「こちらの攻撃が読まれている。すべてでない一回だ。その一回の攻撃で的確な場所への反撃がきてバランスを崩し、そのあと連撃がきてやられていた」


 近接戦闘では冷子の右にでる人間はいないかもしれない。それ程強いのである。

――犬牙が一撃を与えたのは幸運であり、千載一遇であったのだ。


 冷子は犬牙について尋ねた。


「やつなら逃げたよ……流石に三度は戻ってこんかったわ」


「そう…………なんで私助かったんだろう……」


 ポツリと呟いた。その答えと呼べるかわからない返答を縷々がした。医者でも理解できない現象だった。損傷した部分に膜のようなものがあり出血を抑えていた。破壊されていた臓器がまるでそこにあるかのように活動していたのだ。医者の本心はこうだ。――均衡でなければサンプルとしていたのに。


「でもまあ助かってよかったやん! このままいけば一ヶ月で退院できるって」


 嬉しそうな顔で喜ぶ縷々の顔が冷子の質問に表情が変わる。


「望は今どうしてるの?」


「…………青年は、監視下におるから安心し」


「監視下!? どうゆう事」


 冷子は怪訝な表情をした。


「あんなことがあったから護衛も含めって事や」


「そ、そう……」


 護衛の名目もあるが、監視がメインであった。縷々は仕事上、いずれ分かる事実なので敢えてそのまま伝えた。


 前日、望に近くの警察署で事情聴取を行っていた。日共センの存在を一般人へ簡単には晒せないのである。望の対応は別の隊員に任せ、縷々はマジックミラー越しで様子を伺っていたのだ。嘘を証言しているようには写らなかった。だが何かを隠しているように縷々には写った。結局その何かはわからなかったが、しばらく尾行を継続させるよう手配させた。疑念は拭い去れなかったのである。

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