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Archetyp―アーキタイプ―  作者: 王道楽土
プロローグ
1/63

0話 絶望

 少年時代はあまりいい思い出がない。奇怪な出来事を経験したせいだ。私こと最善望さいぜんのぞむの人格形成はその出来事によって大きく道を反れてしまった。人体形成さえも。


 簡潔に説明するなら『起因となる日』に少女を――見捨て、愛猫を――見殺し、右眼に――異物が混入し、見殺す能力が開花する。否、『発動』と表現したほうが腑に落ちる。


 いささか簡潔しすぎたので、私の少年時代――少女と愛猫と右眼について少し掘り下げる。


――少女の名は、渦中冷子かちゅうれいこ(当時小学六年生)。


 活発で無邪気で責任感の強い少年。それが私であった。なぜか自然と友達ができた。その友達のひとりに三歳年上の少女が渦中冷子である。


 彼女の実家は古武道道場をしており、その影響で物心がつく前から古武道を習っていたらしい。所謂いわゆる、英才教育。いじめられてた訳ではないが、これまで友達が一人もいなかった彼女に声をかけ、人生で初めての友達が私だった。 

 

しっかり者の冷子を私は特に親しくしていた。頼りがいがあったのだ。その頼りを――間違った扱いをしてしまう。大人になれば酒のつまみになるような話だ。


 起因となる日――当時、大人気携帯ゲームソフトの発売日。私(当時小学三年生)、冷子含む四人で購入しに行くため待ち合わせをしていた。だが私は訳あって大遅刻。待ち合わせ場所に着くも、冷子のみ。残りの二人はゲームしたさで待ちきれず、先に行ったと言う。子供でなくとも、そういった大人もいるが、冷子曰いわ


「裏切った。サイテー」と吐き捨てた。

 

 少し不機嫌な冷子と二人でゲーム販売店へ。ソフトを購入し、店内を出てしばらくすると、ガラの悪い中学生達に絡まれたのだ。――ソフト狩り。計画的犯行だろう。有ろう事か、私はこの状況下で一目散に逃げたのである。たった一人の少女を置き去りに。


――見捨てた。


 冷子はこの行動に「裏切られた……」と何度も呟いたらしく、この日を境に友達にこだわらなくなる。見捨てられた冷子は拘りを捨てた。冷子が成人しても、酒のつまみにならない話だったみたいだ。


――私の事情も知らず。


 逃げ出した私の心境はというと――不良少年に対する恐れではなく、ソフトを強奪されるのはどうでもよかった。それよりも不安に押し潰されそうな心配事があった。冷子には翌日に事情を話し謝罪しようと先送りにした。


――冷子の事情も知らず。


 そんな二人が会話できるのは八年後であった。


 不安に押し潰されそうな心配事とは愛猫――名は、土筆つくし


 当時小学一年生の私が河川敷で拾ってきた真っ白な子猫。あまりのかわいさに心奪われた私は、飼いたいと両親に志願した。両親は責任を持って育てるのを条件に容認してくれた。名付け親は私である。理由はシンプルで、拾った傍に植物の土筆が生えてたというもの。


 真っ白な子猫は最善土筆になって二年。両親は驚いていた。小学生とは思えないほどの完璧な世話。私は一度も世話を怠らず、最善土筆に最善を尽くしていた。


 起因の日――冷子を裏切った日。その日――私は下校の際、先生に呼び止められ、足止めを喰らうも、急いで帰宅した。土筆のために掃除やエサを用意する。


――土筆が見当たらなかった。


 様子を確認する為、探し回るとソファー下の奥で丸まっている土筆を発見した。


「土筆ー、土筆ー」

 

 声をかけるも、無反応。稀に同じ事もあったのと、待ち合わせの時間を過ぎている焦りで、


「すぐ……帰ったらいいか……」


 と怠慢。運も悪い事に、母親も妹も自宅に不在であった。私はソフト購入の為に集合場所へ急いだ。今までの世話を考慮したら責めようのない怠慢。だったのかもしれない……。

 

 怠慢が心配へ、更に不安へ変わり、冷子と合流するも頭の中はもう土筆しかなかった。その後にソフト狩りに合い逃走したのだった。急いで帰宅するも視界に土筆は入ってこない。不安が極度に高まる。


「まだあそこに……寝ているだけだ……そう……だよ……ね? ……土筆……」


 土筆はソファー下で横たわりピクリとも動かない。重たいソファーを火事場の馬鹿力で退かし、土筆のからだに触るも、脈打つ血の鼓動――命の証が両手に伝わってこなかった。


 私は大声で泣き叫ぶわけでもなく、奇声を発するわけでもなく、思考停止。全身の力が抜けその場にへたり込み、ただ涙を流す。一言も発せず。漣漣たる涙。


 どれ程の時刻が経過したのか記憶にない時、母親と妹が帰宅した。状況を即座に把握した母親のとった行動は――係りつけの獣医に連絡していた。それを見た私は、


――そうだ……まだ助かるかもしれないのに……なんで……泣くしかできず……見殺したんだ……二度も……。


――願望をもたず、希望をもたず、絶望をもった。


――土筆の命を望み、最善を尽くさず。絶望を優先していた。

 

 最後の最後に、見てるだけ――見殺す。そんな自分に失望した。


 獣医に診てもらうも土筆は手遅れであった。最初の異変で亡くなっていたのかもしれない。逃走後の帰宅でもう手遅れだったのかもしれない。幼い私は様々な責任の分散をする事なく――見殺してしまったと一点に受け入れた。今想えば幼心なのだろう……。


 傷心しきった私に、追い討ちを掛けるかの如く、奇怪な出来事が起こる。両親の配慮で、最後のお別れだから一緒に寝てあげなさいと勧められ

て、ベッドで土筆と最後の添い寝をしていた。


 受胎した子のように丸まり、土筆の腹部に顔をうずめ心の中で何度も何度も「土筆」と呟く。泣いているのか、寝ているのか、呟いてるのか意識が朦朧もうろうとしてる時だった。


――それは唐突だった。右眼に強烈な違和感。

 

 異物が目に入った場合、涙が自然と排出してくれる。もしくは目を擦り、充血してもいつかは取り除かれているだろう。

 

 擦っても擦っても異物混入の違和感が拭えない。次第に右眼が熱くなってくる。その熱さは徐々に上がっていき、眼球が融けるのではないかと感じる程であった。


「うっうわああああっ、熱いぃっ!!!」


 私は右眼を手で抑えながら洗面台に駆け込み、鏡に写った右眼を見ると、


――奇怪な一匹の蟲が右眼の中で右往左往動きまくっていた。


 なぜ奇怪と言えるのか。大きさが変化しているからであった。大きい時で眼球を覆うほど。小さい時で黒目くらい。大きくなったり小さくなったり。容姿も奇怪でこちらも変化する。わかりやすく言えば、蚊や蝿や蝶や蛾に。文字は似ているが、容姿は明らかに同じではなかった。

 

 大きさも形も変化する蟲。しかも眼球内に這入りこんで、這いずり回しているのである。

 

 私はその場に倒れ、気を失った。両親が駆けつけた時には、スヤスヤ眠っていたらしい。何事も無かったかのように。


 翌日、目が覚めると右眼の尋常な熱さもなく、違和感もなかった。視界に蟲など見えない。鏡を覗き込むまでは……。


 ハッキリといたのである。蟲が。右眼に。しっかり鏡に写っていた。


 少年ながら私は、


「ああ……そうか……」


 と、これを受け入れた。罪と罰。背中に十字架。勿論、幼少時代にそんな概念や思想はもっていない。子供ながら純粋に罰として受け入れた。


――自分が起因なのだから。


 責任感が強いのが裏目に、すべてを背負いこむようになっていった。


 幸い、蟲目は他人からは視認できない事実をすぐに知る。災いの間違いだが私はそう感じたのである。幼い私は蟲目を誰にも伝えず、そして隠し通すと決心した。


             ◇                ◇


 蟲目の少年から青年になるまで蟲目で奇怪な現象といえば、二つあり一つが、


――蟲目が騒ぐ。


 どういった原理なのかわからないが、わかることもある。蟲目が騒ぐと頭痛がするという事。頻度は多くないが、少年時代は気が狂いそうになるほどで、正気を保つのが辛かった。なにせ眼球の中で縦横無尽に騒ぐのだ。鏡越しでないと蟲は見えないが、騒いでいるときは、脳内にその感覚が伝わる。サーカスのピエロが玉乗りでなく、眼球乗りをして足で転がす感覚や、羽音は聞こえないが、眼球内を飛び回り羽が当たる感覚なのだ。だが、物事に集中している時は一切騒がない事実も見つけた。


 残りのひとつが――見殺す。


 絶命寸前の生物がいると、身体が動かなくなり、思考もできなくり、ただ命が尽きるまで待つ。絶命寸前でなく、絶命したばかりでも同じようになり、しばらく動けない。しかし、思考できないのに記憶は残る。これが蟲目の作用だと私が気づいた時には、数匹の動物が絶命し見殺していた。この現象が起きるのはある程度の小動物以上であった。昆虫や魚などには一切反応しない。


 厄介な災厄である。助ける事も、助けを呼ぶ事すらできない。


――なにより、人間と二人きりになるのが危険だからだ。


 そうそう、絶命しかけている状態に遭遇するのはない。だが万が一と思うと私は親しい人や友達を作るのを絶った。


――土筆の死で絶望をもち、蟲目で人を絶つ望(私)。皮肉だ。 


             ◇                ◇


 蟲目の私は十七歳の夏を境に――更に人でない道に迷い込み、人でない者に遭遇することになった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話からセリフの割合上がり三人称へ。0話は意図的に一人称にしてます。

試行錯誤の繰り返しなのでどちらも修正や大幅改変あるかもですが

よろしくお願いします。精進します。

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