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665―ハーツ―  作者: 桃姫
炎の星――Dazzling flame wraps up the sky and lights up the world――
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7話:過去の幻影

 さて、他の、人(でいいのか?)と契約しようとも考えたが、今のところは、やめておきたいと思い、今日は帰ることとなった。

 家に着き、ベッドで眠りにつく寸前、契約の時の、キスの部分だけが何度も何度もリピートされて眠れなかったのは言うまでもない。


 翌日、眠い目を何度もこすりながら、ふらついて、あちこちよろけながらも教室にたどり着いた。たどり着くなり、俺は、机に突っ伏した。眠すぎる。

「よお、なに寝てんだ、フウキ」

「眠いから寝てんだよ。安眠妨害で訴えんぞ、後藤」

 そんなくだらないやり取りをしていると銀朱の煌きが目に入った。

 なんだ、シリウスか……。

 そう思い、再び机に伏したところで、

「し、シリウスさん、何やってるんですぅぅ!」

 と言う声が響いた。

「うるせぇっ痛ぇ!」

 うるさいから怒鳴りながら顔を上げたら何かに頭を打った。

「きゃっ」

 どうやらぶつかったのはシリウスらしい。

「痛ぇな~。んだよ、何してたんだ?」

 シリウスに聞く。

「マイマスター、私は、ただ、一緒に……」

 尻尾をぶんぶん振り回し、身体をくねくねとし、頬に手を当てて、……何やってんの?

「はあ、とりあえず、学校でマスターとか言うな。色々と面倒だ」

 と小声で、伝えてそのまま席に着かせる。席に着いたあとも、ちらちらこっちを見ては、可愛らしく笑っている。

 そんな様子に耐えかねたのは、俺ではなく後藤だった。

「おい、おいおい、おいおいおい!どういうことだ。何があったんだよ。ありえねぇ……」

 何を言っているんだ、この阿保は。

「五月蝿いぞ、黙れ。そんなんだからお前は……」

 そこで、どうしても眠くなって欠伸をする。んで、何だっけ?

「そんなんだから、何!?めっちゃ気になるんだが!」

「いや、何言おうとしたのか忘れた……」

 はあ、全く……。どうでもいいが、後藤は、この学校では、珍しく、俺と同じ中学の出身だ。ほとんどの生徒が別の学校へ行く中、俺は、適当に決めたこの高校に入ったのだが、何故か、後藤もついて来た。だからか、いつもふざけたやり取りが出来る掛け替えのない(こともない) 悪友(しんゆう)だ。

「全く、お前ってやつは…。それで、ホントにどうしたんだよ。お前が女に興味持つとは……」

「どうも、しねえよ…」

 俺は、中学の時、彼女がいたのだ。それを知っている奴だからこその言葉だろう。あいつと俺の最後を知っている奴だからこそ、そんな言葉が出てくるのだ。

「俺は、別に、コイツとそんな関係じゃないんだ……。ただ……」

 なんとなく、ほっておけない。

 あどけなさ過ぎて、純真過ぎて、美しすぎて、それでいて壊れやすそうで。

 そして、そんなよく分からない気持ちを抱えたまま、ホームルームに突入してしまう。そして、話もろくに聞かないまま、授業、昼休みと時間が過ぎて行ったのだ。

 しかし、不意に、昨日と同じ、頭が躑躅色に塗りつぶされる感覚に襲われる。な、なんだ……。ま、まさか、獣人が襲ってきたのか?そう思い、顔を横へ向ける。だけれど、シリウスは、ただ、一生懸命に授業を受けているだけだった。じゃあ、コレは一体……。

―――……キ。……ウキ。……フウキ。聞こえるかしら……。

 とくんとくんと心音が聞こえる。

 この感じ、この気配、この声、この匂い。

 すぐに分かる。分かってしまう。

 何故か?それは愛しいからだ。

「八雲……」

 俺の声に、世界が完全に躑躅色に塗りつぶされた。

 そして、目の前にいるのは、三縞八雲。

 まるで夜の空のように黒い髪と宵闇の如き黒い瞳。

 健康的な色の肌。

 全体的に整った顔立ちの少女。

 そう、シリウスほどではないが、十分に美少女と形容できる少女。

 そして、俺が愛した少女。

「フウキ、久しぶり、ね」

 綺麗な、そして艶美な唇から声が発せられた。

「ごめんなさいね、あの時は。わたしにも、使命があったから。でも、今はもう、その使命も潰えたの……。貴方のせいでね」

 あの時とは、きっと、去年の三月の末日、彼女が、俺の元を去った時の事だろう。

 あの時、俺は、まさに愛し合っていた。でも、彼女は急に、「ゴメンね……。フウキ」とだけ言って俺の元を去った。それから、一度たりとも会っていない。

 使命、そう言った。その使命とは一体、何なのだろうか。コイツは、一体何をしているのだろうか……。

 そこで、ふと、顔を上げた。すると、目の前に広がっていたのは、先ほどと変らない光景。一生懸命勉強しているシリウス。完全に寝ている後藤。その他、全てが先ほどと変らない教室の風景だった。

 気のせいだったのか……?そう思った俺の耳の奥で、さっきの「貴方のせいでね」という部分が何度も繰り返されるのであった。


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