5話:ハーツ
扉を開けるなりシリウスは言う。
「連れてきました」
「その少年が【最後の光の民】?」
ボーっと突っ立つ俺。扉の奥にいたのは、たくさんの獣っ娘達だ。
犬、狐、狸に、……あれは、キリンか?
数多の動物が、人と混じったような様子に眩暈を覚えたが、それをなんとか抑える。
その中で、一人(一匹?)が俺に近づいてきた。思わず、呟いてしまう。
「猫耳猫尻尾……。本物か?」
「……!確かに、猫って言ったわね。あんた、名前は?」
猫耳の少女に、名前を尋ねられたので、普通に答える。
「篠宮、篠宮風希」
「フウキか。よし、フウキ。あんたは、あたしたちのマスターよ」
マスターって言うのは何なんだ?シリウスも俺のことをマスタと呼ぶが、俺は、至って普通の人生を歩んできた凡人だ。
「私達は665よ。665は獣の数字の一つ前。獣人と人が交わって生まれた、獣の力をほとんど持っていない欠陥品」
獣人と人?獣と人ではなく。つまり、獣と人が交われば獣人が生まれる。その獣人と人が交わった結果、彼女らのような獣っぽくなく、しかし、獣の特徴を持った人間が生まれたのだろう。
……欠陥品。それを言う時の猫耳少女の声は、沈んでいた。
「私達は、獣人から忌み嫌われて、追い出されたの。だから、私達は寄り集まって集団になった。それが、665」
ここにいるものは、獣人と人のハーフ。いわゆるクォーターといっても言い存在なのだろうか。
「私達は、【ハーツ】と呼ばれて、蔑まれてきた。私たちが力を行使できるのは、私たちの本当の姿を見ることの出来る【エデンの民】と契約をした時だけなの」
【エデンの民】。その単語を聞いた瞬間、俺の脳の奥深く、記憶などではなく、DNAに刻まれた思いというものか、それが、反応し、謎の感じに包まれた。安堵感、何故、安堵に包まれたのだろうか。分からない。
「そして、エデンの民は、滅びたの。獣人によって……」
「滅び、た……」
つまりは、彼女たちは、契約できる人を全てなくしてしまったのだ。しかも、その原因を作ったのは謂れの無い、自分達への非難。
「でも近年、【エデンの民】の生き残りが一人だけいることが判明したの。それが、あんた【最後の光の民】」
俺?でも、俺だけが【エデンの民】の生き残りと言うのはどう言うことだろう。父さんか母さんは?血で決まるのならどちらかが【エデンの民】でないと辻褄が合わない。
「何で俺だけなんだ?俺の父さんか母さんは?」
聞いてみるが、
「分からないわ。ただ、この世に現存する【エデンの民】は、一人だけ。それゆえに【最後の光の民】なの」
「そうなのか」
「でも、おかしなことがあるのよ。665はずっと【エデンの民】を探し続けていたのよ。なのに、ずっと、どこにも反応がなかった。それで諦めかけて、数年間、探さなかったんだけど、久しぶりに探したら、一人だけ反応があった。それがあんた。完全に滅んだはずだったのに、どこかから湧いたように現れたのよ、あんた」
湧いたように、か。それは、俺が沸いたんじゃないのだと思う。たぶん湧いたのは、俺の両親。探さなかった間に両親が何かをしたのではないだろうか。
「俺も、俺の生い立ちは知らんし、両親がどこへ行ったかの手がかりがつかめれば、と思ったんだが……」
それにして、彼女たちは、なんだかんだで強く生きてるよな……。
「そういえばさ。【エデンの民】と契約をした時だけ力が使えるって言ってたけどさ」
「ん?何よ?」
俺の疑問をぶつける。
「それじゃあ、何でシリウスは炎が使えたんだ?」
そう、確かに俺を助けた時、シリウスは炎を放っていた。
「あ~、そういうことね。シリウス」
「はい。マイマスターにお伝えしなければならないことがあります。実は、私は、ハーツの中では特殊な部類に入るのです。私の炎は、本来、獣の力ではありませんよね?」
そりゃ、火を吹く獣なんて見たことないけど……
「そういうことなのです。私は、他のハーツとは異なり、何故か、通常とは異なる力を使えるのです。他にも何人かいますが……」
なるほど。ハーツにも色々あるってか?
「そういえば、さあ、」
どんなハーツがいるのか見回した俺が抱いた疑問。
「男はいないのか?」
見渡す限りの女だ。男は一人もいない。
「ん?ああ、ハーツは女しか産まれないのよ。理由は定かではないけど、事実だけ見ると、本当に一切男の形のハーツが産まれる事は無かったみたいだしね」
そ、そうなのか。まったくもって、謎が多いな。




