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665―ハーツ―  作者: 桃姫
炎の星――Dazzling flame wraps up the sky and lights up the world――
5/33

5話:ハーツ

 扉を開けるなりシリウスは言う。

「連れてきました」

「その少年が【最後の光の民(ラスト・オブ・エデン)】?」

 ボーっと突っ立つ俺。扉の奥にいたのは、たくさんの獣っ娘達だ。

 犬、狐、狸に、……あれは、キリンか?

 数多の動物が、人と混じったような様子に眩暈を覚えたが、それをなんとか抑える。

 その中で、一人(一匹?)が俺に近づいてきた。思わず、呟いてしまう。

「猫耳猫尻尾……。本物か?」

「……!確かに、猫って言ったわね。あんた、名前は?」

 猫耳の少女に、名前を尋ねられたので、普通に答える。

「篠宮、篠宮風希」

「フウキか。よし、フウキ。あんたは、あたしたちのマスターよ」

 マスターって言うのは何なんだ?シリウスも俺のことをマスタと呼ぶが、俺は、至って普通の人生を歩んできた凡人だ。

「私達は665よ。665は獣の数字の一つ前。獣人と人が交わって生まれた、獣の力をほとんど持っていない欠陥品」

 獣人と人?獣と人ではなく。つまり、獣と人が交われば獣人が生まれる。その獣人と人が交わった結果、彼女らのような獣っぽくなく、しかし、獣の特徴を持った人間が生まれたのだろう。

 ……欠陥品。それを言う時の猫耳少女の声は、沈んでいた。

「私達は、獣人から忌み嫌われて、追い出されたの。だから、私達は寄り集まって集団になった。それが、665」

 ここにいるものは、獣人と人のハーフ。いわゆるクォーターといっても言い存在なのだろうか。

「私達は、【ハーツ】と呼ばれて、蔑まれてきた。私たちが力を行使できるのは、私たちの本当の姿を見ることの出来る【エデンの民】と契約をした時だけなの」

 【エデンの民】。その単語を聞いた瞬間、俺の脳の奥深く、記憶などではなく、DNAに刻まれた思いというものか、それが、反応し、謎の感じに包まれた。安堵感、何故、安堵に包まれたのだろうか。分からない。

「そして、エデンの民は、滅びたの。獣人によって……」

「滅び、た……」

 つまりは、彼女たちは、契約できる人を全てなくしてしまったのだ。しかも、その原因を作ったのは謂れの無い、自分達への非難。

「でも近年、【エデンの民】の生き残りが一人だけいることが判明したの。それが、あんた【最後の光の民(ラスト・オブ・エデン)】」

 俺?でも、俺だけが【エデンの民】の生き残りと言うのはどう言うことだろう。父さんか母さんは?血で決まるのならどちらかが【エデンの民】でないと辻褄が合わない。

「何で俺だけなんだ?俺の父さんか母さんは?」

 聞いてみるが、

「分からないわ。ただ、この世に現存する【エデンの民】は、一人だけ。それゆえに【最後の光の民】なの」

「そうなのか」

「でも、おかしなことがあるのよ。665はずっと【エデンの民】を探し続けていたのよ。なのに、ずっと、どこにも反応がなかった。それで諦めかけて、数年間、探さなかったんだけど、久しぶりに探したら、一人だけ反応があった。それがあんた。完全に滅んだはずだったのに、どこかから湧いたように現れたのよ、あんた」

 湧いたように、か。それは、俺が沸いたんじゃないのだと思う。たぶん湧いたのは、俺の両親。探さなかった間に両親が何かをしたのではないだろうか。

「俺も、俺の生い立ちは知らんし、両親がどこへ行ったかの手がかりがつかめれば、と思ったんだが……」

 それにして、彼女たちは、なんだかんだで強く生きてるよな……。

「そういえばさ。【エデンの民】と契約をした時だけ力が使えるって言ってたけどさ」

「ん?何よ?」

 俺の疑問をぶつける。

「それじゃあ、何でシリウスは炎が使えたんだ?」

 そう、確かに俺を助けた時、シリウスは炎を放っていた。

「あ~、そういうことね。シリウス」

「はい。マイマスターにお伝えしなければならないことがあります。実は、私は、ハーツの中では特殊な部類に入るのです。私の炎は、本来、獣の力ではありませんよね?」

 そりゃ、火を吹く獣なんて見たことないけど……

「そういうことなのです。私は、他のハーツとは異なり、何故か、通常とは異なる力を使えるのです。他にも何人かいますが……」

 なるほど。ハーツにも色々あるってか?

「そういえば、さあ、」

 どんなハーツがいるのか見回した俺が抱いた疑問。

「男はいないのか?」

 見渡す限りの女だ。男は一人もいない。

「ん?ああ、ハーツは女しか産まれないのよ。理由は定かではないけど、事実だけ見ると、本当に一切男の形のハーツが産まれる事は無かったみたいだしね」

 そ、そうなのか。まったくもって、謎が多いな。


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