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665―ハーツ―  作者: 桃姫
炎の星――Dazzling flame wraps up the sky and lights up the world――
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2話:編入生

 時間は遡り、朝。

 俺は、その日まで、普通に暮らしていた。そう、平凡だった。凡人だった。俺は、その辺の一般人だった。

 世の中には、不思議なことが幾多もあるだろう。でも、そう言った不思議なことは、俺とは関係ない。きっと、世に言う主人公や英雄の関わる分野なのだ。

 そう、一般人の俺には、きっと、その片鱗すら見れないと思っていた。それでよかった。だけど、それは、違った。

 一人の編入生によって、俺の世界は、まるで変わった。百八十度変わった。


 教室はざわついていた。それはそうだろう。編入生と言う滅多とないことにざわつかないわけがない。ましてや、ろくに娯楽のない進学校ならなおのこと。

「それでは紹介する。男子は、美人だからって欲情するんじゃないぞ。女子は、女子同士仲良くやるように……。では、はいってこい」

 ガラガラとドアが横に開き、入ってきた少女を見た瞬間、俺は息をするのを忘れた。

 途方もない美少女だった。

 白磁のような肌。滑らかそうで、すべすべしていそうな肌。

 すらっとバランスよく伸びた四肢。

 魅惑の体型。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ。女性の理想の身体であり、男性が望む身体。

 闇よりも深い漆黒の瞳。瞳を飾るような二重と長く伸びたまつげ。

 唇は果実のようにぷっくりとしていて、苺のように赤かった。

 頬はほんのり朱に染まっている。スッと通った鼻。

 ただ、それら全ての美貌があり、それでも、それ以上に際立って目立つのは、銀色と朱色の入り混じった銀朱の髪。

 頭上から突き出した銀朱の犬耳……いや、狼耳。スカートから飛び出す尻尾。

 ただ、耳も尻尾もそこまで意識に入り込まなかった。まるで全ての美の結晶のような美少女を前に、耳も尻尾も関係なかった、と言うことだろう。

 しかし、誰も、気にしないのはおかしい。気にし無さ過ぎる。

 隣の席の後藤が話しかけてきた。

「おい、メッチャ可愛くね……。特にあの茶髪がたまんねぇよ……」

 ……茶髪、だと?どっからどう見ても、銀朱の髪じゃねぇか……。どうなってんだ?

「おいおい、こっち見てるぜ。あっ!目があった。ラッキー」

 阿呆は、置いといて、しかし、阿呆だからといって、流石に色を間違えるはずもない。だとしたら、何故、髪色が違って見えるのか。誰も気にしてないところから見て、耳や尻尾も見えていないのかも知れない。

 それは、俺がおかしいのか、それとも周りがおかしいのか。普通なら前者、なのだろう。

「私は、シリウスと言います。よろしくお願いします」

 少女の名は、見た目どおりのとても日本人とは思えない名前だった。……いや、今の日本ならありえないこともないか。

「じゃあ、席はそこな」

 教師が指差したのは、この間まで加藤が座っていた席だ。加藤はどこへやら編入してしまったのだ。

  ゆっくり歩きながら、そして尻尾をぶんぶん回しながら俺の席までやってきた。

「えっと、よろしくね」

「え。ああ、よろしく……」

 俺は、差し出された手を握る。やわらかくてすべすべした手だ。ずっと握っていたい。そんな感覚に陥りそうになる。

 名残惜しく手を離した。

 席に着いた少女は器用にも、尻尾を椅子の背もたれの下の隙間から、出していた。正直言ってものすごく触ってみたいのだが、セクハラで訴えられかねないので様子を見てるだけにしている。

 時々、ピクンっと動いたり、横に揺れたりしていて可愛らしいのだが、俺は気になって授業に集中できなかった。そのたびに「隣が綺麗で気になるのは分かるが集中しろ」と教師に言われた。別に、綺麗だから見ているわけではないのだが、皆に笑われた。

 耳のほうは、上についているのしか、俺には見えない。耳も耳で動くのだが、上を見ていると、顔を見ていると勘違いされかねないので、基本的に尻尾の観察になってしまうのだ。


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