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665―ハーツ―  作者: 桃姫
炎の星――Dazzling flame wraps up the sky and lights up the world――
10/33

10話:桜の炎

 案の定、男は、立ち上がった。しかし、その腹には、紅く炎に焼かれた痕がはっきり残っていた。おそらく、避けるために後ろに飛んだが、炎の範囲があまりにも広くて避け切れなかったのだろう。

「クッソ、エデンの生き残りを殺しに着たら、この様かよっ……!ハーツ、てめぇ、ただのハーツじゃあねぇな」

 ケンタウルス(キリン)は、俺を狙っていたらしい。……助かった。

「私は、ハーツよ。ただの、ね」

 いつになく強い口調でシリウスは言う。

「喰らいなさい」

 シリウスの手の桜の炎が、舞う。火の粉があちらこちらに。その様は、まるで、桜の花びらが、散るかのように。

「桜の舞【円舞】」

 桜の炎がケンタウルスを焼く。幻想的な光景。桜の炎が優しく包み、焼く。

「ぐぉ……。まさかっ、まさかとは思ったがな。お前、やはりあの、炎と光の姫御子(シリウス)か……」

 炎と光の姫御子……?何だそれは。

「その名は、もう捨てたわ。消えなさい」

 そして、男は、焼け、消え去った。それと同時に、躑躅色の空間も消滅した。

 シリウスは、少し、俺の顔を見ると、その場を去ろうとした。

「待てよ。何だ、炎と光の姫御子って……」

「ごめんなさい、マイマスター。今は言えないの。いずれ、いずれ言える時が来ます。そのときまで、待ってください」

 その顔が、雰囲気が、八雲と重なる。

「ああ、分かった。そのときまで、待つよ……」

「ありがとう、マイマスター」

そして、シリウスは、去っていった。


 俺は、考えていた。八雲のこと、シリウスのこと。何故あの時、二人の顔がだぶって見えたのだろうか。

「八雲……」

 お前は、一体、何を、何をやりたいんだよ。

 目的も、やり方も、何もかもわからない。それが、不安だ。

 あいつは、昔から無茶をする。自分のために、そして、他人のために。

「背負い込みやがって……」

 俺のぼやきは、誰も聞いていなかった。いや、一人だけ偶然聞いていた。

 ただ、そこを通った少女が、聞いていた。

「クスッ」

 小さく笑いながら楽しそうに通った少女。

 決して俺を馬鹿にして笑ったわけではないと思う。ただ、その少女は、俺の前に来ると、こういった。

「背負い込んでるのは、使命と言う名の枷。それはもう、外れた枷。彼女は、外れた枷をつけたまま彷徨う狂った娘」

 俺は、驚き、目を擦る。

 すると、そこに少女の姿はなく、ただ夕暮れの空で「カァ、カァ」と烏が鳴いていただけだった。

 幻覚……。


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