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第5章
満月の夜になった。また今夜も、儀礼が始まる。太古の昔から伝わる、あの儀礼が。私は密かに、トーテムに祈る。禍が、穢れが、我らの村を通り過ぎるようにと。
―アーアーアーアーアー。
―オーオーオーオーオー。
広い儀礼小屋の中に並んだ、無表情な人々の顔。意識を半ば失ったふりをしながら、私は密かに、あの壺に目を遣る。壺はじっと、大人しくしている。私は独り、安堵する。トーテムを宿すことのないこの肉体と、覚醒した意識を持て余す私は。
漸く今夜も、長い儀礼が終わった。儀礼小屋を出た私は、妻と共に家に向かった。疲労した私に、眠りが訪れる。妻の手が優しく、私の背を撫でる。束の間の安寧に身を預け、私は浅いまどろみを貪る。
(了)
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