第1章
―アイゥ エラム マハル クゥディム。
部族の長が、歌うように祝詞を唱えた。もう今は誰にも分からない、太古の神々のみがその意味を知る言葉だ。
―アーアーアーアーアー。
―オーオーオーオーオー。
部族の男たちと女たちが、一斉に抑揚のない声で応えた。
―ンドゥ マラク エリ サハリィタ。
―アーアーアーアーアー。
―オーオーオーオーオー。
夜になっても尚熱の残る強い風が、村の中心にある高床の小屋の扉に叩きつける。木の扉ががたがたと鳴り、壁の隙間を通して流れ込む熱砂が、私たちの肌を打つ。とうとうと鳴る太鼓の響きと人いきれの熱気で皆の意識が朦朧とする中、私たちの祝詞は延々と続いた。
若い戦士の一人が、突然目を剥いて倒れた。聖なるトーテムは、今宵彼を最初に選んだ。彼は身を激しく震わせ、仰向けのまま床を這いずり回った。白い部族の化粧を落とした彼の露な胸元がわななく。族長が立ち上がり、何かを読み取ろうとするかの如く若者の胸元 に手を伸ばした。
目を閉じて何事かを呟く、年老いた皺深い面をした族長。炎の中に浮かび上がる、半ば意識を失ったような村の男女の顔、顔、顔。儀式を行うこの小屋の中で、彼らは皆一様に無表情に見えた。果てしなく続く、この世とあの世、過去と現在を繋ぐ太鼓の響きの中で、彼らは皆、全てが始まった創世の時代に帰っているのだ。彼らの体が、次々に倒れる。偉大なるトーテム、そして父祖たちの霊が、彼らの体に次々に宿っていく。
死んだ動物が供えられた祭壇の中心にある小さな土器の壷が、かたかたと鳴った。私の背を、悪寒が走った。儀礼用の壷に施された幾つもの蛇の目模様が、私を睨んでいるように見える。私は、あの壷の中が何であるのかを知っている。あの壷は、決して開けられてはならない。決して、開くことなどあってはならないのだ。
儀式の度に、あの壷が動くのを見ると、私の肌は粟立ち、古い記憶が蘇る。初めて部族の儀式を目にした、あの幼い日が。私たちの秘密、偉大なるトーテム、そして父祖たちの魂のおわす黄泉とこの世を繋ぐ儀礼の秘密―それをこの目にしたあの日が。そして、暗い禁忌のうちに葬られた、兄クヴァの面差しが。




