災害
あらすじ
ここは異世界だと残酷な真実を言い告げられたリサルフィーヌが重く口をひらく
その口から語られる異世界で起こった事情とは?
「私が、いえ、私たちエルフ族が住んでいるのはシュミザール森の奥深く。滅多に人が来られないような場所でした」
ゆっくりとリサルフィーヌが語りはじめる。
それを真剣な表情で聞く時広。もうすでに彼の中に異世界なんてありえない、などという考えは無かった。しっかりと頭の中でこれは現実の出来事だと理解できていた。
彼女の話を要約するとこうだ。
彼女たちエルフ族は基本的に人間と交流を持つ事は少なく、人と接しないよう大陸一の大森林シュミザール森の未開の地のさらに奥でひっそりと生活をしていたらしい。
彼女の家系は人間で言う王家のような存在で、千人近く住んでいたエルフの里をまとめる家だったらしい。
とはいえ王と言うよりも村長と言った方がしっくりくるような規模なので、家も一般家庭に比べれば大きい方だったようだが、そこそこの家だったらしい。
エルフ族はいがみ合う事なく、みんな仲良く平等でとても平和だったそうだ。
しかしそこに悲劇が襲う。
シュミザール森は大陸一の大森林の名の通り、途方もないほど大きい森なのだそうだ。
一番エルフの里から近い人間が住んでいる町でも馬車や馬が通れるような道があるはずもなく、徒歩だと3ヶ月近くかかるらしい。
そして森の奥深くと言えば魔獣が出没するのである。
しかし、里には魔除けの柵や対魔獣設備が豊富に設置してありここ600年は魔獣が里の中に入った事は一度も無いそうだ。
さらに言うのであれば、その近くに出没する魔獣の名前を聞いたら人間の傭兵は裸足で逃げ出すような強力な魔獣だと言うのだからそれほど里の防御が強固であったのだろう。
そしてそのおかげか、平和ボケしていた里の人々は気付かなかったそうだ。
最強最悪の魔獣の姿に。
その魔獣の名前は「喰い足りぬ亡霊団」
何千年と生きた強大な「邪竜」の牙から生まれたとされる骸骨の集団である。
ただでさえ膨大な魔力を誇る竜が何千年と生き、生ける伝説となった末死んだ後のその身にはそれはもう天文学的な量の魔力がそなわるそうだ。
血を浴びたら不老不死、鱗で鎧を作れば傷一つつかぬ最強の鎧、爪や牙で剣を作ればなんでも一刀の元に切り伏せる最強の剣。
しかし、「邪竜」はその天文学的な量の魔力と共に、とてつもない邪悪を生み出すとされている。
台風であったり地震であったり津波であったり。
だが、「邪竜」は名前だけ聞くと邪悪な竜であり、人類に敵なすものと見られそうだがそれは違う。
彼らは地に降り注ぐ不幸をその身に宿し、災いを防いでくれる言わばお地蔵様のような存在なのだ。
知性が高い彼らは子孫に死の間際に封印してもらい、少しずつ災いを放出させ浄化した末に燃やされ灰になる。
現代風に言うならば核燃料のような物であろう。
しかし一万年ほど前になんらかの理由で「邪竜」の封印がされずにそのまま災いを放出してしまった事があった。
そのときまだ人は生きていなかったといわれるが、大陸は割れ、山という山は噴火し、津波によって全ての大地は更地と化しそれはまるで地獄のようだったと言われている。
そしてそのときに落ちた牙、それによって「喰い足りぬ亡霊団」が生まれたとされる。
その身は壊される事なく、スケルトンに効く神聖魔法すらきかず、膨大な魔力を身に宿し、動く姿はまさに災害。
300年に一度の禍々年に現れるとされ、その強さは特S級。対処方法は発生されたとされる「邪竜」の牙を壊す事だけだがその牙はきっと海底深くに眠っているだろうため実質決して勝つ事のできない怪物。
通った道には草木は残らず焼け野原。
大昔に伝説の勇者が立ち向かったとされるが一体一体の強さは強力ではあるがさばけぬ事は無い強さではある。
しかし不滅の体に1000に届く大群。そして大将と呼ばれる10m級のボスの前では全ての者が塵になる。
まさに最凶最悪の怪物なのだ。
そんな怪物に里は襲われた。いや、通過したと行ったほうが正確であろう。
その日でエルフの里は地図から消えた。
里の中は阿吽絶叫。怪物に敵うはずもなく瞬く間に殺されていく。そして殺された者は骸骨になり軍に入って行く。
まさに「喰い足りぬ亡霊団」
対魔物の防御障壁や破魔の矢、そして魔物が嫌う聖水ですら効果が出ない。
逃げ惑う者は殺され、あまりの恐怖に足がすくんで動かない物も殺され、女子供老人も殺されとにかく殺された。
そこには破壊と絶対の死しか無かった。
そしてそんな襲撃を受けている時、リサルフィーヌはウィンディーヌ家の地下に隠れていたが、もうまもなく亡霊たちは自分たちを見つけて殺すであろう事はわかっていた。
父と長男は果敢に戦うも無残に戦死。気が強くみんなに尊敬されていた姉は住民を避難させる最中に死亡。母はすでに病で他界している。
残るは長老たる祖父とリサルフィーヌだけとなった。
しかしなぜかリサルフィーヌは牢屋の中に入れられていた。祖父が閉じ込めたのである。
理由は至って簡単、彼女を逃がすため。
病弱な彼女は家から出ずに地下室へと避難した。
そして祖父に言われるがまま牢屋に入った所で鍵をしめられた。
最初は訳もわからず呆然としていたが、祖父がしようとしている事に気が付いた彼女は必死で叫ぶ。
そう、長老は転移の術を使おうとしていた。
別に命と引き換えに使うような術ではないのは確かである、ただし膨大な魔力を使う事にはなるが。
しかし一番の問題は詠唱の長さである。
リサルフィーヌの居た世界では無詠唱魔法が基本の魔法であり、詠唱有りの魔法はそれに魔力を上乗せするための魔法である。
故に大きな魔法になればなるほど詠唱は長くなる。
彼女たちの避難場所には刻一刻と亡霊たちが迫ってきている。そして祖父は詠唱魔法を使おうとしている。
そして魔力を行使するためには集中力が必要なので動きながらの詠唱などはまず不可能。
故に祖父は自分を閉じ込め、反対されるとわかっていながらその長い長い詠唱魔法を使おうとしているのだ。もちろんそんな大魔術を使った後に魔力は残るはずがない。祖父はきっと死ぬ気なのであろう。
リサルフィーヌは何度も祖父に止めてくれと頼んだが、その願いは聞き入れられなかった。
長い詠唱、10分ほどだろうか。
ついに亡霊が降りてきた。
とてつもない嫌悪感にその場で吐いてしまうリサルフィーヌ。
全身が災いでできているあの骸骨は見ただけでそれはもう信じられないような恐怖と嫌悪感が襲うのである。
祖父の詠唱もあと数秒というところまで完成されていた。
必死に叫ぶリサルフィーヌであったがその声は決して聞き入られる事はなかった。
そして術が完成し、空中に浮かぶ魔法陣に魔力が流しこまれる、が。
あとほんの少しの所で祖父の胸に剣が突き立てられる。
「リサルフィーヌよ……、我が孫よ……。せめて生き残って――」
そこまで言った祖父の首が飛ぶ。
そこで気を失い、目が覚めたらここに居た、というわけだ。
ぜんぜん要約されてませんね。