戦い・・・?
あらすじ
目が覚めたリサルフィーヌであるが、
激しい剣幕で時広に詰め寄り押し問答
らちが明かぬとでていってしまうリサルフィーヌであったが・・・?
玄関から今まさに出ようとしていたリサルフィーヌであるが、その腕を時広は掴んで止めた。
「なんですか!! 今本当に急いでいるんです!! 手を離してください!!」
それはもう鬼のような表情で時広を睨むリサルフィーヌ。
すでに彼女のつかまれていない方の手に魔力を纏わせている、もしここでこの男が下衆な行動に出たとしても彼女の魔力を纏った手ならすぐに大の大人一人消し飛ばすような魔法が発動できるだろう。
しかし、そんな事はつゆしらず時広は焦っていた。
今さっきのプチ台風の轟音とスタングレネードの光でほかのアパートの住人がなんだなんだと顔を出しているのである。
もしここで人間離れしている彼女が外に出たら大問題になるであろう。
どうにかして引き止めねば! と思っていたらついつい彼女の腕を掴んでいた。
「いやちょっと待ってって!! 今出て行かれると非常に困るんだ!!」
本当に心の底からの叫びであるが、彼女は彼女で今出て行かないと非常に困る事になっているのである。
両者とも最優先事項が正反対の事なので押し問答になるのは至極真っ当な事だった。
「あーもうっ! ごめんなさい!!」
彼女の片手に纏わせていた魔力を魔法に変換する。
それは風属性の魔法「吹き荒れる風」である。先ほど言った大の男が
消し飛ぶ魔法ほどではないが、軽く4~5mは飛ぶであろうその魔法。
掌底に「吹き荒れる風」を纏わせたまま時広に繰り出す。
そしてそれを食らった時広はそのまま風に打ち抜かれアパートの壁をぶちやぶり、隣のマンションの壁に勢い良く当たる。
―――はずだった。
「ごふっ!」
時広は軽く触る様な弱さの掌底だったのにもかかわらず、けっこう本気のパンチを腹に食らうような衝撃に訳もわからず打ちぬかれた。
しかし、そこは男の子。だいぶ痛いとはいえまだ立っていられる強さであった。
「ってぇぇぇぇぇ。いきなり殴るなんてひどいな……!」
一瞬腹をかかえてうずくまった時広だったが、すぐに立ち上がりその痛さについ怒鳴って
しまう。
そしてその怒鳴った時広の目の前には……。
大きく目を開き驚きに固まっているリサルフィーヌがいた。
な、なんで私の「吹き荒れる風」が効かないの!?
まさか対魔法障壁を展開……いや、それは無いわ。だって魔力が感じられなかったもの。
じゃあ単純に体だけで受け止めた、いやそれもありえないわ!! これは例え2mの熊のような大男だって吹き飛ばしてしまうような魔法よ!? こんな私と大して身長が変わらないような男が受け止められる魔法じゃないわ!! もしかしてなにかしらの魔道具で威力を削いだ……? って事はかなりまずい相手なんじゃ……。
そこまで考えたリサルフィーヌはもう一度時広に向かって魔法を放つ。
「くっ……! 「荒れ狂う水」!!!」
この魔法は術者の手のひらから間欠泉のように水が敵に向かって行く魔術である。リサルフィーヌの家系は家名のウィンディーヌでわかる通り水の精霊に祝福を貰った家系であった。このウィンディーヌ家の者が放つ水属性魔法はとてつもない威力があり、この水属性下位攻撃魔法「荒れ狂う水」を放ったとしても中級と同等かそれ以上の威力になるため、何の害意も無い人間に使うのをためらったが風が効かないとなると残りは火しかなく――リサルフィーヌが使える魔法は水・風・火――殺傷能力を持ってしまう。
そのためかなり魔力を抑えた状態でリサルフィーヌはその術を発動させた。
しかし魔力を抑えたと言え、ウィンディーヌの名は伊達ではない。その状態ですらこのアパート程度なら押し流してしまう水量と水圧を発動させる。
そしてそれを食らった時広は轟音と共に家財道具一式と仲良く川流れをするはめになる。
―――はずだった。
しかしリサルフィーヌの手の平から出てきた水は蛇口にホースを付けて限界までひねった程度の水量であった。
ジョボボボボボボボボボボボボボボボボ。
二人とも唖然としてその光景を眺める。
時広は自分のズボンがびしゃびしゃになっているが、それすらも気付かないようで開いた口がひらきっぱなしである。
「な、なんで……どうして……」
リサルフィーヌが魔術の発動をやめると同時に「キュッ!」と幻聴が聞こえてきそうなほどであった。
中々にシュールである。
「あなた……、もしかして魔力妨害結界をここに張っている!?」
「魔力妨害結界……? なんだそれ……?」
「ど、どういう事なの!!!」
「どういう事なのって……こっちが聞きたいわ……、いきなり腹パン食らわせたかと思ったらこんどは水攻めですか」
「あなた「吹き荒れる風」と「荒れ狂う水」を
知らないの!? 5大元素攻撃魔法の基礎中の基礎よ!?」
なんとなく魔法名っぽい事は時広にもわかった。
そして水をかけられたかどうかわからないがここで一気に冷静になった時広はリサル
フィーヌの両肩に手を置く。
「ひっ……!」
自分の魔法がことごとく打ち消され弱体され、自分では適わないと悟った――といっても
勘違いしているだけだが――リサルフィーヌは肩を掴まれ戦慄が走った。
「落ち着いて聞いてくれ、今から俺の言う事は嘘偽りの無い言葉だ」
あまりの恐怖に震えていたリサルフィーヌであったが、敵意の無いまっすぐな時広の目を見ると不思議とその恐怖感は段々と引いて行った。
そしてまるで「魅了」がかかったようにその瞳に吸い込まれそうになったリ
サルフィーヌに時広は告げる。
「ここは多分……、君が居た世界とは違う世界だ。エルフも居ないし魔法使いも居ない。そしてシュミザール森なんてのも存在……しないとおもう多分」
「な……どういう事ですか……?」
あまりの衝撃にリサルフィーヌはただただ時広に聞き返してしまう。
「きっとどっか違う次元から飛んできてしまったんだろう。日本ってのは国の名前でね、自慢じゃ無いんだがとても有名で、ほんの少しでも学がある人なら誰でもしってる国なんだよ。君はとてもじゃないが学が無いようには見えない。そんな君が知らないなんてありえるはずがない。」
見る見るリサルフィーヌの顔が絶望に変わっていく。
「そして、これはこちらの世界の物語では良くある話しなのだが……、きっと帰る手立ては無いはずだ」
残酷な、しかし真実を聞いたリサルフィーヌはその場にぺたりと座り込んでしまう。
その顔は極無表情で、きっと今は脳が追いついて居ないのであろう。
「混乱しているところ申し訳ないんだけど、良かったら詳しく話しを聞かせてくれないか
な?もしかしたら力になれるかもしれない」
最後の言葉を聞いたリサルフィーヌの顔に僅かな表情の変化が訪れたが、しかしまだ脳は全力演算中であろう。
そのまま少しまっているとようやく我に返ったのか、先ほどよりは悲惨な顔をしていな
かったがその顔は暗く、今にも泣き出してしまいそうに見えた。
そして、ゆっくりリサルフィーヌが口をひらく。
あと4~5話したらもう少し恋愛物っぽくなるはず、てかそうしたい……。