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『異世界最強介護士〜神を看取った男たちのケアプラン〜』  作者: T.EBARA


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第四章:重力の檻と褥瘡(じょくそう)の断罪

 地下独房を支配する重圧は、もはや物理的な質量を超え、空間そのものを圧殺しようとしていた。

 四天王筆頭、『不動のガイウス』。彼がその巨躯を一歩進めるたび、石造りの床は悲鳴を上げて陥没し、九条の肺からは強制的に酸素が絞り出される。

「若造よ、跪け。重力とは、この世界の理そのもの。老いゆえの重み、支配の重みに抗うことなどできぬ」

 ガイウスが戦槌を振り上げる。その予備動作だけで、九条の膝が震え、毛細血管が弾けて肌に赤い斑点が浮かぶ。

「……九条、伏せろッ!!」

 ゼノが盾を掲げ、重力波を正面から受け止める。

 ギチ、ギチ、とゼノの腕の骨が軋む不快な音が響く。彼の【自由】の翼は重力に縛られ、床に縫い付けられていた。

「ハァ……ハァ……。伊藤さん、少しだけ時間をくれ。……あいつの『本当の姿』を暴く」

 九条は四つん這いになりながら、右手の紋章をガイウスへ向けた。

 瞳の奥で、膨大な情報が火花を散らす。

【アセスメント開始……対象:不動のガイウス】

【警告:全身を覆う特殊魔導銀ミスリルにより、内部情報の読み取りが困難です】

【アセスメント・モード……『触診(触知)』および『嗅覚(官能)』へ移行】

(……見える。鎧の表面じゃない。その隙間から漏れ出す『澱み』だ)

 九条は、鼻腔を突く独特の臭気に集中した。

 それは、長期間風呂に入れない入居者の不潔な臭いとは違う。もっと深く、肉が腐り、脂肪が溶け出し、骨と金属が癒着したときに放たれる、死霊の吐息。

(……仙骨部、および両踵りょうかかと。それに肩甲骨の周辺。……臭う。これは第四ステージの褥瘡……骨膜まで達した深い壊死だ。あいつ、あの鎧を脱ぐことができないんじゃない。重力魔法の出力を維持するために、自分の肉体を『重し』として鎧に癒着させているんだ!)

 九条の脳内に、システムの無機質な声が響く。

【条件達成:対象の致命的な『機能不全』を検知】

【固有能力『解放リベレイション』――出力リミッター、一時解除】

【レベル上昇:15→22……28……35!!】

【新規スキル習得:『体位変換ポジション・チェンジ』・『壊死組織の掻爬デブリドマン』】

 九条の全身を、沸騰するような魔力が駆け巡った。

 レベルアップによる細胞の活性化が、重力の枷を内側から爆砕する。

「……ガイウス。あんた、ずっと痛かっただろ。……その鎧の下で、自分の肉体が腐っていく音が、夜な夜な聞こえていたはずだ」

「……何を……戯言を……!」

「あんたの『不動』は、ただの『寝たきり』だ。動けないんじゃない。動けば、癒着した肉が剥がれ落ちるのが怖いだけだろ!!」

 九条が地を蹴った。

 重力圏を無視したその速度。ガイウスが戦槌を振り下ろすよりも早く、九条の指先が、鎧の合わせ目――最も臭気の強い仙骨部へと差し込まれた。

「スキル発動……『壊死組織の掻爬デブリドマン』!!」

 九条の指から放たれた白光が、鎧の内部で増殖していた腐敗組織を一瞬で焼き切り、強制的に「切除」した。

 

「ぎ、あ、ああああああああああああッ!!?」

 ガイウスが、生まれて初めて叫び声を上げた。

 それは痛みではない。数百年にわたって彼を支えていた、鎧と肉体の「癒着」という名の虚飾が、無理やり剥がされた衝撃だ。

「伊藤さん、今だ!!」

「……了解だ。――『強制敬意サクリファイス・バインド』!!」

 ゼノの盾から放たれた光の鎖が、バランスを崩したガイウスの巨躯を絡め取る。

 通常なら重力で弾き飛ばされる鎖が、今は九条のデブリドマンによって「支え」を失ったガイウスの身体に深く食い込んだ。

「判定。……あんたには、もうその重い鎧を支える筋力ちからも、意地もない」

 九条はガイウスの眉間に拳を置いた。

 

「スキル――『体位変換ポジション・チェンジ』」

 九条の指先が微かに動いた瞬間、ガイウスの身体の「重心」が物理法則を無視して反転した。

 自らの放っていた超重力が、そのままガイウス自身へと跳ね返る。

 ドゴォォォォォン!!

 銀色の鎧が、内側から爆発するようにひしゃげ、ガイウスは自らの質量によって床に沈み込んだ。

 動けない。指一本、動かすことができない。

【レベル上昇:35→45】

【対象:四天王ガイウスの『完全看取り』を確認】

【リワード:『重力操作』の断片を吸収……スキル『ADL補助グラビティ・コントロール』へ変換完了】

 九条は、血を吐きながら床に転がったガイウスを見下ろした。

 鎧の隙間から見えたガイウスの素顔は、驚くほど小さく、ただの「震える老人」に過ぎなかった。

「……ハァ……ハァ……。見てるか、サキュバス。……あんたの作った『不動の神様』は、自分の重みで死んでいくぞ」

「……ふふ、素晴らしいわ。本当に、期待以上の『執刀』だったわね」

 影の中から、サキュバスの笑い声が響く。

 

 ゼノが、肩で息をしながら九条の隣に立った。二人の視線の先には、壊滅した独房と、王都への道が開かれていた。

「……勝ったな、九条」

「……いや。……まだ、三人残ってる」

 九条は、ガイウスの戦槌から剥ぎ取った魔石を握りつぶし、そのエネルギーを自らの身体へと取り込んだ。

 

 次なる敵は、王都の地下で死霊を操る、ババ・ヤガ。

 九条蓮とゼノ、この「最凶の介護ユニット」による王都虐殺の旅は、ここからさらに激化していく。


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