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『異世界最強介護士〜神を看取った男たちのケアプラン〜』  作者: T.EBARA


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第十一章:システムの末期症状と、魂の再結合(リカバリー)

 剥き出しになった王都の地下。そこに鎮座していたのは、想像を絶するほどに巨大で、醜悪な「脳」だった。

 無数の半透明なチューブが毛細血管のように王都中へと伸び、その管を通じて、今も若者たちから搾取された鮮烈な生命力が、ドクンドクンと不気味な脈動と共に吸い上げられている。

 『創造主システム・カナン』。

 この世界の神であり、全ての不条理の源泉。だが、その表面は至るところが黒く壊死し、魔導回路からは火花が散り、膿のような魔力が溢れ出している。

「……見ての通りよ、九条。これがこの世界の真実。……ここは『神の病室』なの」

 サキュバスが、脈動する脳の傍らに降り立つ。彼女の身体が微かに透け、その背後に膨大な演算コードが浮かび上がる。

「私はね、このシステムが限界を迎えた時に、自らを終わらせるために切り離した『自死プログラム』。……創造主は数千年前、老いも死もない完璧な楽園を夢見て、自分自身を世界そのものへと造り替えた。けれど、待っていたのは、終わることのない『生』という名の地獄だった」

 彼女が脳に触れると、脳は拒絶するように激しく痙攣した。

「死にたくても、自分を殺す機能を持たない神。だから、外部から『死』を定義できる異物……すなわち、看取りのプロである貴方を招き寄せた。……でも、九条。今の貴方のままでは、この神は看取れないわ」

 彼女の視線が、九条の隣で唸り声を上げる異形――ゼノへと向けられる。

 ゼノはレベル『**ヌ縺ョウ帙蠕繧繝ヌ』**のまま、肉の翼を羽ばたかせ、周囲の空間を腐食させ続けていた。彼の意識は既に「罪の化身」へと呑み込まれ、九条のことさえ認識できていない。

「その隣の彼……ゼノは、今やシステムのバグそのもの。彼という『不純物』を抱えたままでは、創造主のコアへは辿り着けない。……彼を殺すか、あるいは……」

「……殺さない。……俺が、こいつを『人間』に戻す」

 九条蓮が、静かに、だが絶対的な足取りでゼノへと歩み寄る。

 ゼノは威嚇するように喉を鳴らし、触れるもの全てを腐らせる「罪の爪」を振り上げた。九条の頬を爪がかすめ、鮮血が舞う。だが九条は止まらない。

「……伊藤さん。聞こえるか。……あんたが背負ったのは、化け物になって逃げるための罪じゃないだろ」

 九条は、異形化したゼノの胸元に、迷いなくその手を差し入れた。

 

「スキル発動――『全領域アセスメント:魂の清拭スピリチュアル・クレンジング』!!」

 九条の全身から、無限ムゲンの出力による「白」の閃光が放たれた。

 それは破壊の光ではない。対象を「あるべき姿」へと強制的に再構成する、介護士としての究極の救済だ。

 ゼノの肉体に刻まれた、数千の老人の怨念。九条はレベル∞の演算能力を使い、その呪いの一つ一つを「対話」し、解きほぐしていく。

 

(……この老人の痛みは、孤独だったことへの恐怖だ。……この老人の怒りは、忘れ去られることへの悲しみだ。……全部、俺が引き受けてやる。だから、こいつを……俺の助手を、返せ!!)

 九条の右手の紋章が熱を帯び、ゼノの身体を覆っていたドス黒い外殻を、内側から爆砕していく。

 

「あ……が、ああああああああああああッ!!」

 ゼノの絶叫。

 肉の翼がボロボロと崩れ落ち、肥大化した右腕が元のサイズへと凝縮していく。

 前世で犯した罪、この世界で犯した過ち。それらが消えることはない。だが、九条の光によって、それらは「制御不能な暴力」から「背負うべき重み」へと変容していった。

 バキ、という大きな音がして、ゼノの頭上のウィンドウが正常化する。

【レベル:ヌ縺ョウ帙蠕繧繝ヌ】 → 【レベル:99(固定)】

 泥の中に膝をついたのは、異形の怪物ではなく、一人の男だった。

 ゼノは、震える自分の手を見つめ、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつての虚無ではなく、確かな「自覚」が宿っていた。

「……九条。……悪い。……また、あんたの手を煩わせちまったな」

「……気にするな。……お前の仕事は、まだ残ってるんだ。……最後の患者は、あのでかい脳だぞ」

 二人は立ち上がり、サキュバスを、そして「巨大な脳」を真っ直ぐに見据えた。

 サキュバスは驚きに目を見開いた後、満足そうに、どこか悲しげに微笑んだ。

「……想定外よ。まさか、壊れた魂まで『治療』してしまうなんて。……いいわ。行きましょう、この地獄の最深部へ」

 サキュバスが指を鳴らすと、巨大な脳が二つに割れ、その奥へと続く「神経の階段」が現れた。

 三人は、この世界のOSそのものが眠る深淵へと足を踏み入れる。

 そこは、全ての時間が止まり、ただ一人の「神」が孤独に泣き続けている場所だった。


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