第7話 リンちゃんの写真、遺したくない?
やはり、リンちゃんをこの世界に遺すには音だけじゃ物足りないよね。
必要なのは、そう配信だ。
私が転生前によく見ていたのも配信だったし、今のアイドルはもはや配信者と言っても過言じゃないと思う。
ともかくメインは映像コンテンツに出てくる演者で間違いない。
「ただなぁ、メグルアドベンチャーって、ゲーム内に配信なんてないんだよなぁ。当の配信者もメグルアドベンチャーに関してはキャプチャソフトで対応してたし」
最新作でもその設定は変わらなかった。
そりゃ、世界観はあるにしても、ファンタジー系の他作品では配信者の主要キャラも出てきていたのに、かたくなに出ていなかったな。
ま、次回作ではあるのかもしれないけど、死んじゃったので知る由もなし。
楽観視するなら、録音水晶が魔力霧で遠隔操作できたことを考えれば、工夫さえすれば画像くらいなんとか撮れそうな気はする。
「マジックアイテムの構造上、別ものを用意しないといけないかもだけど、それはそれ」
魔力量に関してはなんとかなってきているし、リンちゃんを遺せるのなら、たとえ火の中、水の中だ。
とはいえ、ここで問題になってくるのは、私は別に無から何かを作り出すのが得意って訳でもないことかな。
うまくいくといいんだけど……。
「そういえば、最近はひいおばあちゃんも満足したのかな。水晶を渡してから話しかけてこない気がするし。となれば心機一転、私も自分で探してみようかな」
気持ちを切り替え家を出る。
といってもそこは敷地内。
8人で暮らすなら十分な広さの家からほど近い場所にある建物の前までやってきた。
大きな物置きとなっている倉庫だ。
これだけで一軒家くらいの大きさがあるんじゃないかと思える物入れ。
基本的に入れるばかりで取り出さないので何が入っているかわからない。
「何かあるでしょ。せめて、ヒントくらいは」
私は、すでにほこりっぽいにおいに息を止めて、倉庫の扉を両手で勢いよくこじ開けた。
キィキィと、悲鳴のような甲高い音を響かせた後で、案の定、ほこりが一斉に舞い立った。
「えほっ、えほっ」
この間の霧みたいな視界を払っていると、まるで人影のようなものが視界に入ってきた。
「誰が満足したと言ったかの? 我が孫娘」
「ひぃっ!」
ガラガラと大きな音を立てるオンボロ扉を開けた先には、化け物、もといひいおばあちゃんが悟りでも開いたように鎮座していた。
「ひい、おばあちゃん……、どうしてこんなところに?」
「今の、ひぃっ、は悲鳴の、ひ、じゃろ」
「……」
鋭いばあさんだ。
「何を言います。冗談はやめてください。驚きの、ひ、ですよ。というより、毎度毎度驚かせるようなことしないでください」
「ほっほー。驚くようではまだまだ精進が足りないようじゃな」
「むむ」
あながち間違いでもないような気がしていて、反論できない。
といっても、このひいおばあちゃんがおかしいんだよなぁ。
そりゃ、ゲームでは魔力感知も特殊なスキル扱いだったけれど、今の私は魔力の動きからたいていのものは感知できる。
だけど、ひいおばあちゃんだけは動きがなくって、なぜか魔力の感知をできないんだよね。そのせいでいつも気配が探れない。困ったひいおばあちゃんだよ、まったく……。
この特異性の方がいけなくない? 死んでるの?
……あれ? そういえば、私以外と話しているところを見たことがないような……。
もしかして、周りはひいおばあちゃんの容姿を驚かないで受け入れているのではなく…………
「しかしお主も以前の水晶をかなり使いこなしているようじゃし、ちと、新しいものをやろうと思ってな」
私に思考に割って入るみたく、いつもの文句を言うひいおばあちゃん。
「ちょっと待って、今いいところなの。何かが考えつきそうな」
「これはその場にあるものの瞬間を切り取り、そして残すことができる水晶じゃ」
「なんですって!?」
この化け物、今とんでもないこと言わなかった?
思考の邪魔というより、自分から思考を放り投げるようにして、私はひいおばあちゃんが手に持つ水晶へ食い入るように目をやった。
それは以前もらった録音水晶ゼロ式より一回りほど大きな小玉スイカくらいの水晶。
これが瞬間を切り取れるって?
「……おい?」
「ひいおばあさま。それは、この見ている世界を残せるってことですか?」
「水晶を動かすことができたらな。のぞけばわかる」
なぜか不満そうなひいおばあちゃんを無視して、私は望遠鏡でも覗くように片目をつぶって水晶へ顔を近づけた。
自分でもわからないながら、無意識のうちに息をひそめていて、心臓がバクバクと素早く動いているのが自分でもわかる。
自然と胸が高鳴る中で見えてきたのは少女が草原で寝転ぶ姿。
見るからに、遊んで疲れてしまったらしい。草の上で気持ちよさそうに眠っている。
まるで、風の音や草のたなびき、少女の寝息すら聞こえてきそうなほどリアルな写真を前に私は思わず息を呑んだ。
「…………私が実現させるべきだったのは、これだ」
8歳だったリンちゃんの姿と重なって、私の計画が一瞬にして現実にしたい欲望へ生まれ変わった。
脳に焼きついている同じような光景。ただ、こうして目に見せるインパクトはデカい。
それは、記憶とは比べ物にならないほど鮮明で、意識せずとも興奮が足から頭にゾワっと走り去った。
「買います」
「金はいらんよ。そもそも払う気もないじゃろう」
「てへっ」
かわいらしい孫娘らしく、私は舌を出してごまかした。
そんな私を前に、ひいおばあちゃんは疑わしげな目を向けながらあきれ顔で肩をすくめた。
「まあいい。お主の真意はいつも読めんからな。まるで外からでも迷い込んだように」
「はあ」
「とはいえ、これだけは聞かせてほしい」
やけに神妙な顔をしてひいおばあちゃんは見つめてきた。
いつも以上に人間味のあるひいおばあちゃんを見て、私はごくりと生唾を飲んだ。
先ほどまでの高まりが収まるように指の先が冷たい。
「なに?」
「この水晶、お主には何が見えた?」
しんとした倉庫の中で、重々しいひいおばあちゃんの声だけが長く響いた。
尋問でもされているように心臓がキュッと縮こまる感じがあった。
だけどここは、嘘をつく場面でもないよね。
「リンちゃんみたいな女の子」
「……やはりそうか。姉として守るべきもの、その幻想を見るとは」
「え?」
「これは不良品じゃよ」
改めてとんでもないことを抜かすクソババア。もといひいおばあちゃん。
はぁ? 急にハシゴ外されたんだが?
「……おい?」
「どういうこと? 瞬間を切り撮れるってさっき」
「魔力を流すだけでは動かせなかった。この水晶は使われずに長い間眠っておったのよ」
「ならどうして使い方を知ることができたの?」
「売り手に聞いた。それだけらしい。ただ、魔力を流せば切り取った瞬間は見てとれる。だからこそ、ワシらは確実に切り取る方法があると確信してはいるのじゃよ」
見つけて活用するといい。
満足したようにそんな言葉を残すと、ひいおばあちゃんは私に水晶を押しつけてどこかへ歩いて行った。
「いや、そんなクエストみたいに渡されても困るんだけど?」
試しに少しだけ魔力を流してみても、見えるのは同じ画像。
たしかに、単に魔力を流しただけじゃカメラ機能は使えないらしい。
「ゴミじゃないだけマシだけどさぁ?」
もっと直感的に使えるようにしてよ。私は現代人だよ?
とはいえ、泣き言も言っていられない。
これでリンちゃんを遺せるのなら、使えるようにならない理由がないんだもの。
私は受け取った水晶を大切に抱きかかえた。
「私はリンちゃんを遺すんだ。だけど、研究者みたく水晶一つに一生を費やしてはいられない」
絶対に使い方を解明して、リンちゃんに使ってやる。
べ、別にあんなことやこんなところを撮ろうとしてないからね!
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