第11話 いなくなったリンちゃん
初めてリンちゃんが門限を破った。
夜の7時になっても家に帰ってこない。
心配しすぎと言われるかもしれないけど、リンちゃんは日本ならまだ小学校低学年だ。
心配は絶えない。
寒くもないのに腕を抱いてしまう。
「今日はわたし1人で試してみたい」なんて、まだ試作段階の映像配信水晶を持って出かけたきり帰ってこない。
こんなことなら、気づかれた後もはじめてのおつかいばりに後方から、ひっそりと観察しておくんだった。
「いつもなら、日が落ちる前に帰ってくるのに……」
後悔は絶えない。後悔しかできない。
完全に私のミスだ。
頭が痛い。
「私が不用意に未完成のものを渡したから、今頃怪我でもしているんじゃ……」
でも、魔導具で事故は起きていないと思う。
多分、他の理由がある。
というのも途中からリンちゃんの位置を把握できていないのだ。
今日は何かがおかしい。
「……ネル。フェ……、フェネル!」
誰かがポンと、私の肩に手を置いた。
反射的に振り払おうとして顔を上げると、そこにいたのはタリス兄だった。
「リンちゃんは、見つかったの?」
私の問いにタリス兄は申し訳なさそうに首を左右に振った。
「ダメだ。村の近くを見て回ったがリンネルは見つからなかった」
ほとんど同じタイミングでササス兄も戻ってきた。
だけど、私たちを見るなり首を横に振った。
タリス兄と同じような表情をしている。
「リンネルは帰ってきて、ない、ですよね……」
「どうだった。なんて、聞くだけ野暮か」
「はい。いませんでした。もう日も落ちているのに、迷子でしょうか」
しょげた様子のササス兄。
みんな心配している。
門限を破ることを責めるつもりはない。
だからこそ、帰ってこないせいで胸から体が破裂しそうになる。
「なあ、外の様子。おかしくないか?」
開口一番、相変わらず方向性の違うことを言うキウス兄。
もういなかったことは察せられるにしても、どういうことだろう。
すぐにわからなかったのは私だけじゃなかったようで、その場にいた全員がキウス兄の次の言葉を待ってしまった。
「いや、フェネルの力を借りりゃ、リンネルがいる場所なんて遠くてもわかるはずだろ?」
「そりゃ、まあ」
「だろ? 俺も感じてるんだよ。近くでなんか変なことをしてるヤツがいるよな」
「……うん」
キウス兄の言葉に私はうなずいた。
相変わらず鋭いや。
今までその探りを入れていたけれど、これ以上やっても収穫もなさそうだし……、
「具体的に言うと、私の出している魔力霧が索敵部分で妨害されてるんだ」
「妨害? そんなのどうやって」
「4体くらいの魔物が村周辺に現れた後、魔力を撒いて消えた。それから、霧を使っても誰がどこにいるのかわからなくなったんだよ」
「じゃあ、リンネルが見つからなくなったのはそこからということですか」
「そういうこと」
ササス兄のまとめに、キウス兄がピクリと動いた。
「最後にいた場所にはすぐに行ってみたのか?」
「もちろん」
「結果は、聞くまでもないな」
「うん……」
思い出したくもない。
あの虚無感。
まるで私がどう動くか知っているかのように、リンちゃんは消えてしまっていた。
「誰もいなかったし、おかしな点もなかった」
「何もなかったのか?」
切羽詰まった様子のタリス兄に私は力なくうなずいた。
「多少踏み荒らされたように見えなくもなかったけど、魔獣のせいとも判別つかなかった」
「「「……」」」
お兄ちゃん3人もお手上げらしく、ため息すら漏れなかった。
それぞれ顔を上げられないまま、視線だけが泳いでいる。
手当たり次第に探そうにも、魔王軍が付近で徘徊しているのだ。
無闇に村の戦力も減らせない。
後手に回った時点で夜の活動はほぼ不可能。
そんな事実を前に私は歯噛みすることしかできなかった。
「何か、何かないのか! リンネルが帰ってこないんだぞ!」
「兄さん。落ち着いてください。あればもうやってます」
「だよな。だけど、居場所を発してくれたら……」
「それだ」
「それ、ってどれだ?」
キウス兄の言葉に私は手を打った。
すぐにスキルを起動。
使用方法はいつもの逆。
つまり、強制的に映像を受け取ろうとした。
「何してるんだ?」
「リンちゃんは映像配信水晶を持って行ったんだ。だから、その水晶からの情報を受け取れれば、居場所がわかるかもしれない」
そこまで説明したらお兄ちゃんたちも気づいたらしい。
そうだよ。どうして思いつかなかったんだろう。
送る方ばかり考えていたから、思いつかなかった。私しかできないから考えたこともなかった。
視聴者側から配信を選ぶ。そんなの配信じゃ当たり前だ。
うまくいかなくとも、水晶の魔力残滓を活用した事後視聴も試せる。
要はアーカイブ。
配信なら、事後のアーカイブ視聴もあるだろう。
私は元々視聴者だったんだから、ある方が便利に決まっている。
「いや、待て待て待て。水晶、あれは映像を送るためのものだろ?」
「魔力を使えば私から能動的にアクセスできるんだよ」
プライバシーがザルなのは、法律が緩いってところで甘く見てもらおう。
それに今はそんなこと言っていられない。
すぐに魔力を接続。
妨害されているのは把握の方だけなので、魔力の届く範囲にあった水晶には問題なくアクセスできた。
「できた」
見えたのは豚ヅラ。
もう水晶に傷が入っているのか、映像はノイズまみれで乱れている。
が、すぐにブラックアウトしてしまった。
「くっ」
見えないならよく聞け。
「コイツダ! ハコベハコベ」
「コイツサエ、イナケレバ、ブリュナサマハ」
「ヤサシクトラエトイッテイタゾ」
「もう離して! いやっ! お姉ちゃ、フェネルお姉ちゃん! 助けて!」
リンちゃんの悲鳴。そう悲鳴。
キンキンと脳が揺れるように響いてきて私は頭を押さえた。
「どうした」
心配して近づいてきてくれるタリス兄に手を出して止まってもらう。
音は今も続いている。
かすかになるリンちゃんの声。乱暴の音。
場所は、いつも魔王軍が攻めてくる方向だろうか。接続できても方向までしかわからない。
ただ、リンちゃんのピンチを認識した瞬間、一気に体から何かがあふれてくるような気がした。
「フェ、ネル……?」
「前にあった力を見せた時とは違うな」
今は私も自分の意思で力を解放したんじゃない。
それなのに、なんでもできそうな気分だ。
「フェネル。その魔力」
タリス兄の言葉も聞かずに私はドアに手をかけた。
「行くんですか」
追ってくるお兄ちゃんたちの顔を見もせずに、私はノブを掴んだ。
「1人で行く」
「妹1人で行かせられるか!」
ここばかりは平凡なキウス兄だ。
本当。みんな、根は優しいんだから。
だからこそ、1人で行かないと。
「お兄ちゃんたちを巻き込みたくない。今は巻き込まない自信がない。だから、ついてこないで」
ひどいことを言っているとわかっている。
だからこそ、私は返事も聞かずに制止も無視して飛び出した。
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