脳内バクナノミクロ
ラインに立ち、手順書通りに組立をすすめる。ねじは3回、まわす。部品は左から順に差し込む何も考えずただ、手が動く。淡々としたリズムで・・・
「違う、違う・・・」
上司の声が後ろから響く。振り返ると眉間にしわを寄せた顔。
"違う"?
手順書通りなのに???
脳がフリーズ開始。思考もループする、《ちがう、チガウ、違う?》
頭の中で同じ言葉に責められている感じ。
(どっ・・・どうして間違えたのだろうか? 正確に動かしたはずなのに)
同僚たちは、淡々と作業を続けている。誰も止まらない。自分だけがバグっているまるで、違う次元にいるみたいだった。
小さなねじ1つ、部品1つ、ナノミクロの世界の中で自分の脳だけが大きく揺れている。
上司はため息をつき、手順書を示す。
そこにはわずかな違いがあった。自分がズレていたのかもしれない。
そして、気づく。数日前、手順が変更されていたのだ。
しかし、それを誰も知らなかった。同僚も自分も。
情報の欠落が、思い込み連鎖を生じていたのだ。
深呼吸して自分に言い聞かせる。
小さな出来事。ナノミクロな出来事、極小なコト。
心の中では、波紋を広げたけれど、今はもう、修復している。
手を止めず、次の作業へ・・・
小さなバグは消え、ラインの音だけが工場内を支配していた。
日常のラインの音が響く。
ちょっとだけ、自分の脳が揺さぶっただけだった。
日常の中には、ほんの小さな出来事がきっかけで、心が揺れる瞬間があります。
手順書の違い、伝達のズレ、誰かの思い込み、それは一見すると取るに足らないことのように見えますが、当事者にとっては大きな混乱を呼ぶものです。
「nano」という言葉には、"極小"という単位の意味と"・・・なの?"という、問いかけの響きを込めました。
小さいけれど、確かに存在する違和感・不安・疑念。それが積み重なった先に、人は自分の思考を見つめ直すのかもしれません。
最後まで拝読、感謝申し上げます。
じゅラン 椿