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事後処理と父の内緒話


 “王太子暗殺未遂事件”と銘打たれたその事件の事後処理は、可及的速やかに行われた。


 襲撃犯たちは一人も逃がさず全員捕縛することに成功。その後王都に潜伏していた残党も確保した。

 同時に、東の国へ派遣していた騎士団が大きな拠点をひとつ潰したとのこと。こちらは全員捕縛という訳にはいかなかったようだけれど、力を大きく削ぐことは出来たのではないだろうか。


 彼らが僕を殺そうとした理由は、王太子を脅かすように依頼した人物から潤沢な資金が提供されたので、これに乗じて大国の王太子を殺して名を上げたかったらしい。もう十分に轟いていたと思うのだけれど、彼らの考えはよく分からない。


 この事件により、王城外周の警備体制についても改めて見直されることになった。

 決して手薄だった訳ではないけれど、元々王都全体の警備が厳重だったこともあり、長い歴史の中でも王城へ物理的に乗り込まれたことなど数える程しかなかったので、今回はその隙を突かれたのだろう。

 僕が呪われた原因もそうだけれど、あの転位の魔法具が規格外過ぎたせいだ。

 だから今回の件を糧にして、一層の警備の強化に尽力してくれればいい、と首を切りたがった近衛騎士団長と魔法士長に伝えておいた。……首は要らないから。本当に。


 その元凶とも言える転位の魔法具。

 長い間、そして王城に乗り込まれる時も酷使されていたようで、すでに限界を迎えていたらしい。運悪く、僕が拾ってポケットに入れた後に暴走し、遥か上空へと転位させられてしまった。

 魔道具本体は僕が転位する前に落としたらしく、その場に残っていたのを回収。修理できないか試してみた後は、宝物庫にしまわれるらしい。


 ……ちなみにこの件で、「変な物を拾うんじゃありませんッ!!」と号泣する母上にもの凄く叱られた。仰る通りで反論のしようもないのでひたすらに謝り倒す。いや本当に申し訳ない……反省しています……


 それからしばらくして、東の国の“新しい”王が謝罪に来た。

 彼は前王とは違いしっかりと背筋を伸ばして真摯に謝罪を述べた後、かの国での処理について自らの口で告げた。


 例の姫が組織を雇っていたことは間違いなく、取り調べによると僕へ呪いをかけた理由は「どうしても欲しかったから」で、「怖がらせた後に解いてあげると言えば縋って来ると思った」らしい。馬鹿すぎて鼻で笑ってしまった。

 結果僻地へ幽閉処分となった。が、“幽閉が決まったその日に”長年の不摂生が祟ってお亡くなりになったそうだ。王家も長年困ってたんだろうなというのが窺い知れる。


 前王は、姫の一連のやらかしを僕と姫が仲良くなれば無かったことにできると考えて協力していたそうで、実務的な内容を引き継ぎ次第、王城で幽閉されるとのこと。……父上の言った通り、本当にこんな馬鹿居るんだと勉強になった。


 そして新しい王は、騒動のお詫びとして例の鉱山を無償で我が国に引き渡すと申し出た。

 何と言うかまぁ、『舐められてるな』と思う。大国の王太子を殺しにきておいて鉱山一つで許されようなんて、図々しいにも程がある。しかも鉱山を無償で渡されたとしても、そこで働く人員の管理や産出物の運搬などを考えれば赤字だ。正直要らない。


 どうするかは僕が決めて良いと父上から事前に許可を貰っていたので、鉱山の契約を詰めるためと言って庭に連れ出し、あえて置いておいたレンガや瓦礫の前でお茶をしてあげた。


 景気よく飛んで来る飛来物を防御魔法でガンガン弾きながら、「ずっとこんな調子なんだ」「これから一生こうだと思うと本当に大変で」「いや貴殿は悪くないのだけれど……」「明日死ぬかもしれないと眠れない時もある」「それでもこの呪いと向き合って頑張ってゆこうと……ッ、すまない……涙を見せてしまうなんて……」と、呪いの重さと罪悪感を煽りに煽ってみる。今こそ僕の顔の良さを存分に活かす時だ。


 段々と顔色を悪くしていった王は、最終的に“鉱山の産出物を我が国に無償で納品する”ことに同意。さらに多額の賠償金と、ついでに屋根の修理費用を支払うことが決まった。

 王が膝に頭がつきそうなくらい深く頭を下げて帰って行ったその帰り際、防御魔法に弾かれたそこそこ大きな石が脛に当たって悶え苦しんでいたので、満面の笑顔でお見送りして差し上げた。ざまぁみろ。


 交渉の結果としては、そこそこのお金と上質な鉄を半永久的に無償で手に入れることに成功したので、父上に「大儲けしましたね、陛下!」と喜び勇んで報告したら、「お前の命を考えると安すぎる」と不満気ながらも「良くやった」と肩を叩いてくれた。


 そうこうしているうちに、なんと魔法士長が僕の呪いの一部、“死をもたらす”という部分を解呪する方法を見つけ出した。その後無事に解呪は行われ、飛んで来る物が少し減り、致命の一撃に襲われることはないという状態、つまりフェリシエ嬢と同じような形に落ち着いた。

 とはいえ、当たり所が悪ければ普通に死ぬ可能性もあるので、変わらず防御魔法を使い続けている。


 ――…そしてついに、最も恐れていたことが起こった。


「フェリシエ・ガリアード騎士の、一時的な専属護衛騎士の任が一週間後に終了することとなった」


 国王陛下の応接室、呼び出されて二人きりで向かい合う中、陛下は重々しくそう告げる。ずっと覚悟していたことだから、僕は完璧な王子様(いつもの)笑顔を浮かべて「そうですか。かしこまりました」と淡々と返す。

 ……内心は大号泣の嵐だ。『そんなの絶対やだッ!!』ともう一人の僕が泣いている。


「それからもう一つ、お前の婚約者を正式に決めることになった」

「はい。存じ上げております」


 今回の事件の原因を一行に纏めた上で端的にすると、“他国の姫が王太子に恋して手に入れようとした”ということになる。……そうだけどそうじゃない感が凄い。

 ともかく『ならば早急に婚約者を決めるべき』と議会で決まってしまったのである。


 悲しいかな、僕は一気に絶望の淵に立たされた。

 ……仕方がない、仕方がないことだ。だって僕は人生一度きりの大勝負に負けたのだから。潔く、あの日誓った通りに国に全てを捧げよう。……恋心を消す魔法はどうしたら見つかるかな。


「これから婚約候補者を絞り込み、順次交流の場を設ける予定だ。国とお前にとって相性の良い相手を吟味するように」

「かしこまりました。陛下」


 その候補者の中にフェリシエ嬢が居ないかな、なんて甘い考えは抱かない。

 ……今夜は枕がびしょ濡れになりそうだ。


「お前に伝えるべき話は以上だ。ここからは、そうだな……ただの父子の雑談だ」

「……はい?」


 国王然とした姿から一転、気落ちしている僕に優しい声色で突然そんなことを言うと、父上は向かいのソファから僕の隣に座り直して身を寄せながら、やたらと小さな声で言った。


「……なんだ、その、……アルバン、想いを寄せる女性は居ないのか?」

「へ??」


 びっくりした。びっくりしすぎて変な声が出た。

 思わず父上を怪訝な顔で見返してしまったのだが、当の本人は照れたようなワクワクしたような、子供っぽい顔でこちらを見つめている。


「どうしたんですか、父上? お疲れですか? お休みになられますか??」

「はぐらかすな。ほら、居るのか居ないのか、言ってみなさい」


 グイグイと肘でつつかれて、本当にどうしたんだ……と心配になるも、答えればいいのかなと考えてみる。候補者の中から誰を選べば良いのだろう。皆数回くらいしか会ったことがないからよく分からな――


「アルバン。心のままに答えて良い。父しか聞いておらん」


 僕を見つめる父上が優しい顔でそんなことを言うから、真っ先に思い浮かべて消してしまった笑顔がもう一度蘇る。

 そしてそれを口にしようとして、恥ずかしさと照れくささで言葉が詰まった僕を、父上がもう一度肘でつつく。


「……い、……います、けれど……それが、なにか?」

「ちゃんと居るではないか! それで? その子とはどのような感じだ?」

「ど、……どのような感じ、とは?」

「お前の気持ちは伝えたのか?」

「……えっと……はい……彼女が、好きと、言ってくれて……それで……僕も……りょ、りょうおもい、です……」

「そうかそうか! ならば何故早く紹介しないのだ!」

「いえ……その……ぷ、ぷろぽーずして、……彼女が『はい』と、言ってくれたら……のつもりで……」


 ……僕は何故、父上と恋の話(コイバナ)をしているのだろう。恥ずかしくて死にそうだ。……でも、貯め込んでいた想いを話せて、少し心地が良い。


「で? そのプロポーズはいつするのだ?」

「……やろうとして、やる前に失敗しました」

「もしやあの日か? それで庭園に出たのだな……全く、運が悪いなお前は」


 苦笑いしながら、父上が僕の背中を叩く。そして俯く僕の顔を覗き込むと、「こう考えなさい」と続けて言った。


「やる前に失敗したということは、成功も失敗もなく“まだやっていない”ということだ。胸を張ってもう一度やってみなさい」

「ですが父上、正直に言って彼女は……国の利益にはなりません」

「アルバン、それは今どうでも良い。お前の気持ちはどうなのだ?」

「僕は…………」

「うむ」

「僕は、彼女と共に人生を歩みたいです。それが叶うのであれば、国と民、そして彼女の幸福のために生涯をかけて努力し、僕の全てを捧げます。だから――」

「アルバン」


 『彼女を婚約者候補に入れて欲しい』と続けようとした言葉を、父上が手を上げて遮った。


誰が何と言おうと(お前がどう思おうと)、お前は優秀な王太子であり、将来は素晴らしい王になるであろう。そんなお前が国のために努力を惜しまない力の源を得るのであれば、それは国にとって何よりも大きな利益になる。故に、そのような心配など要らぬ。

 ……何も気にせず、もう一度やってみなさい。そして上手く行ったのであれば、私に紹介すればよい。その時は、お前と彼女の婚約を整えよう」


 その言葉に、頭の中が驚きで一杯になった。


「えッ!? よ、よろしいのですか父上!? 王太子の婚約者をそのような私情で――」

「構わぬ。一生懸命頑張っている可愛い息子の、初めての我儘だ。王とて甘やかしたくなる時がある」

「ですが議会への根回しなどは? 婚約者の人選で派閥がどうとかあるのでは!?」

「問題ない。黙らせよう。私はこの国の王だぞ」

「……そんな、暴君みたいな……僕が連れてくるのがメイドとかだったらどうするのですか」


 僕がそう言うと父上は一瞬きょとんとして、堪えきれなかったように笑い出した。


「ふっ、ははは! アルバン、もっと視野を広げて、常に自分がどう見られているか意識するようにしなさい」

「……? はい、幼い頃に言われてからずっとしていますが」

「そうか、そうだな。ならば“恋は盲目”というやつであろう。ははは!」


 父上の言葉の意味を考えて――…僕が好きな相手はバレているのだと気が付いた。その上でこのような話をしているのだと。それはそうだ、立派な王である父上は何も考えず息子を甘やかすような人ではない。


 ……ということは、あれ? 何か今まで変な顔したりしている時があったけど、それはそういう(息子の恋を応援する)目で見てたってこと!?

 恥ずかしい!! 恥ずかしすぎるッ!! それならそうと早く言ってくれ! 知らない体で話を振ってこないでほしい! いや最初からバレバレでしたと言われるのも嫌だけどッ!!


 羞恥に呻きながら顔を隠す僕の頭を、父上が笑いながらよしよしと撫でる。

 そうしてひとしきり笑った後、もう一度僕の背中をトントンと叩きながら「良い結果を待っているぞ」と未だに迷う僕の心を押してくれた。


「……もう一度、頑張ってみます……」

「あぁ、やってみなさい。振られたのなら励ましてやろう」

「縁起でもないこと言わないで下さい……」


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