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呪われ王子とその心境


 王城の応接室にて、重々しい言葉が響いた。


「アルバン殿下にかけられているのは、“飛来物によって命を落とす呪い”です」


 「そんな!」と悲痛の声を上げたのは、王妃である母上。

 「解呪は可能なのか?」と慎重に問いかけたのは、国王である父上。

 その向かいのソファで『ピンポイントで変な呪いだな……』と遠い目をしているのが、王子である僕こと、アルバンだ。


 一体何が起きたのかといえば、僕の十七歳の誕生日パーティー中に一息吐こうと裏へ下がった途端、突如現れた謎の男が放った禍々しい魔法が直撃してしまったのである。

 もちろん護衛や防御魔法などの準備はしっかりしていたが、眼前一歩程の間合いに突然現れて直接体に触られた状態で呪われてはどうしようもない。

 男をすぐさま捕縛して追加の被害を出させなかった護衛の近衛騎士達は、処刑されることを覚悟した顔で謝罪をしてきたので、可能な限り罰を与えないように父上へ進言しておいた。

 ……いや本当に、アレはどうしようもなかったのだから、『そんなところに居合わせてしまって運が悪かったね』の一言で終わらせてあげたい。


 捕縛後の対処はすぐさま行われた。男への尋問、かけられた魔法の解析、同時に害あるものの可能性を考え解呪手配。これを広間の貴族に知られることなく迅速に行い、何事もなかったようにパーティーを無事終わらせたのだから、我が国を支える者たちは皆優秀で素晴らしいなぁ……


 なんて僕が現実逃避をしている間に物事は着々と進み、現在に至る。


 僕にかけられたのは、“飛来物によって命を落とす呪い”

 やけにピンポイントな呪いはその分強力で、解呪は非常に難しく困難。呪いをかけた本人すらも解くことが出来ず、現状は手詰まり。犯人の男は魔法封じを施して地下牢に入れ、犯行に及んだ動機や背後関係、呪いに関する情報を引き続き尋問するとのこと。

 それらを報告してきた近衛騎士団長に続き、魔法士長が悔しそうに口を開いた。


「……アルバン殿下、我らの力及ばず大変申し訳ございません。一刻も早く解呪の方法をお持ち致します。それまでの間、御身を守るためにこちらをお使い下さい」


 その言葉と共に、視界の端に入っていて嫌な予感がしていたソレが壁際から運ばれて来る。

 鎧だ。物理攻撃はもちろん魔法攻撃すらも絶対に通さないという、王国最強の防御を誇る魔法の全身鎧(プレートアーマー)


 ……なのだが。なのだがッ!! 何を思って作ったのか、兜の天辺から爪先まで金ピカ一色。その上、絶対に要らないだろう無駄にジャラジャラしたこれまた金色の装飾が鎧を覆い、ダメ押しのように統一感のない様々な色の宝石がゴテゴテと付けられた、正直に言ってセンスを疑う逸品である。


 こんなクソダサい鎧、絶対に着たくないッ!! 製作者はどうしてコレで良いと思ったんだ!? 性能だけは最高峰に素晴らしいのが逆に腹立たしい!!


 心の内でボロクソに叫びながらも、王子様らしい微笑みは絶やさない僕を褒めて欲しい。生まれてから今日これまで“完璧な王子様”として頑張ってきたのに、なんで死ぬ呪いをかけられてクソダサい鎧なんて着なくちゃいけないんだ……


 もしや“完璧な王子様(それ)”のせいだろうか? 素の僕なんて、顔が良いことくらいしか取り柄のない平々凡々な一般人なのに……上手く取り繕っているとはいえ、皆が僕のことを何でもできる完璧な王子様だと信じ切っていて逆に心配だ。

 あぁ、こんなことになるなら『ぼくはゆいいつのおうじなんだからしっかりしなくちゃ!』なんて見栄を張らずに“そこそこの王子”で居ればよかった。幼い頃の僕を全力で止めたい。


「アルバン殿下? お顔の色が……もしやご体調に異変が!? すぐに医師を!!」

「あ、いや、すまない。何でもないんだ、医師は呼ばなくていい。……情けないことに、少しだけ怖くなってしまってね」


 返事をせずに固まったままの僕を心配して叫ぶ魔法士長を宥めながら、目尻に浮かびそうな涙を誤魔化すために軽く息を吐いて瞼を伏せる。


 怖いのは本当だ。もの凄く怖い!! 『貴方は死にます』と言われて平常心で居られるか!? そんなヤツが居るのなら、その心構えをぜひご教授願いたい!

 ……あぁ、胃がキリキリ痛んできたし、今すぐベッドに潜り込んで泣き叫びたい……


 そんな僕の心身共に悲痛な様子を見て、その場の全員が心を痛めたように息を飲んだ。母上なんて堪えきれずに声を上げて泣き始めてしまった。心配をかけてしまって本当に申し訳ない。……うッ、胃が痛い。


「アルバン、お前は情けなくなどない。このような事態にあってもなお落ち着いて堂々と構えている姿、とても誇らしく思っている」


 すみません父上、びっくりしすぎて固まっていただけです。


「そんなお前をこのようなことで失いたくない。父として、王として、必ずお前の命を守ると誓おう。そして、その為にもこの鎧を身に着けてほしい。……民を第一に想い常に動いているお前のことだ。これによって行動範囲が狭まることを懸念しているのだろう? 窮屈な思いをさせてしまうのは分かっている。それでも、何よりも大事なお前の命には代えられん。どうか、父の願いを聞いてはくれまいか?」


 頼もしく力強い言葉と僕への過大評価を得て、クソ鎧に話が戻って来てしまった。

 違うんです父上、僕は必死になって働かないと優秀な周りの足を引っ張る平凡な人間です。仕事をしなくて良いのなら、のんびり花に水やりをして眺めていたい人間なのです。だからそんな大層素晴らしいクソ鎧には相応しくないので、着なくても良いのではないでしょうか。

 魔法による物理防御は熟練の魔法士でも大きなもの、速いものほど防御が難しくなっていくとはいえ、そもそも室内に飛来物なんて飛んで来ないと思うので、自室に引きこもっていればいいのでは? 見聞を広めるためと銘打った長期休暇とか……なんて素敵な響きだろうか。


 などと必死に代案を模索する僕の頭にゴツンと重い何かが当たり、思わず素で「いだッ」と呻いてしまった。

 一体何なんだと床に転がったそれを見ると、どうやら天井に吊るされたシャンデリアの一部らしい。劣化で折れたのか断面が鋭く尖っていて、万が一頭に刺さりでもしたら大怪我だっただろう。


 ――…その考えに至った瞬間、ぞわりと背筋が震えた。

 なるほど、僕はそうやって死ぬのか、と。


 うわぁぁぁぁ嫌だ怖い怖すぎる!! 僕は寿命で穏やかにぽっくり死にたいんだ!!


「……父上の願い、しかと胸に刻みました。その鎧、身に付けさせて頂きます」


 今にも零れ落ちそうな涙と震えそうな声をなんとか抑え込んで、“こんな些細な出来事、何とも思っていませんよ”というような笑顔を浮かべて見せた。

 覚悟を決めろ、僕。クソ鎧(呪い)になんて負けるな。


 ……あぁでも、せめてあのゴテゴテした装飾だけでも全部剥ぎ取ってくれないだろうか。


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