記者たちの憂鬱(後)
久しぶりに記者クラブの面々が登場いたします。
「やあ、誰かと思えば……」
「おリョウさんもお元気そうで。他の連中は?」
記者クラブの入る大部屋の前で、明美は同じ七条女子学園新聞部――通称ナナツウ――の記者であるおリョウこと、反田涼とばったり出会った。同じ建物の中にある純喫茶「アマリリス」からの帰りなのか、涼の夏服からはふんわりとコーヒーの香りが漂っている。
「トウちゃんが風邪ひいて休んでるから、あとは私とキャップだけだよ。じゃんけんに負けて、目下盛大に電話番の最中さ……」
そう言いながら涼が部屋へ入ると、ドアによって抑えられていたクラブ内の喧騒――というよりは雑多な日常の営みが明美の耳朶へ飛び込んできた。
「そうかぁ、川端署からはいぜん動きなし……わかった、そろそろ引き上げてくれ。こっちからまた交代を寄越すから……ご苦労さん」
「悩ましいところですわ、なにせ肝心のネタが下りてこないんですもの……しばらくは啓発記事のみになりそうですから、あまり欲をはらないほうがよろしいかと」
「諦めてくれぇデスク、おはんも記者なら気持ちはよくわかるじゃろぉ……現場の悲哀じゃ、これは」
「――いずこも同じ秋の夕暮れ、か」
大部屋の両サイドを囲むように並ぶ、六畳余りの小さな空間。京都市学校記者クラブ、通称・中京記者クラブ加盟校の小さな前線基地からは、編集部との切ないやり取りが漏れ聞こえてくる。
「キャップ、アケ子が来とるよ」
涼がそっと覗き込むと、最前まで電話をしていたらしく、疲労困憊の色を顔に浮かべたキャップ――村松登和子がちらりと頭を動かす。
「あっれえ、珍しいなぁ。べー子がこっちに来るなんて……どういう風向き?」
「なーんの進展もねえもんでさ。嫌ンなって引き上げてきちゃったのさ。どうせ帰ってもデスクの小言が待ってるだけだろ?」
猫のような目で軽くウィンクをする明美に、まったくその通りだよ、と登和子も応じる。
「ひでーもんさ。いざとなったらOG会に駆け寄ってゼニはなんとかしてやるから、ひっかぶるつもりで調べてこい! だとよ……。笑えない冗談だねえ、まったく」
「ところがどっこい、やっこさん冗談言ってるつもりがないから……」
弱っちゃうんだよなあ、と、明美と登和子がきれいにユニゾンしてみせる。笑いあう気力もないまま、二人の間を溜息だけが通り抜けていった。
そもそもの事件の発端とはいかなるものか。それは次回、明らかとなります。