一体、君に何回驚かされるのだろうか
初投稿です、よろしくお願いします。
新学期が始まる。ついに待ち焦がれた輝かしい高校生活が幕を開けようとする。
部活を始めて目標に向けて努力する。先を見据えて勉学に精を出し頭角を表す。はたまたひょんなことで彼氏彼女ができるかも知れない。そんなたくさんの夢と希望を抱えてとある県の私立高校の桜ヶ杜高校、通称桜高の門を新しい制服に包まれた新入生が通り抜けていく。その中にある平凡な男子高校生が人知れずに葛藤していた。
まず、僕の名前は風見蛍。今日から桜高に入学する平凡な男子高校生です。どれくらい平凡かって言ったら中学時代は成績は全て平均点、運動神経もよくも悪くもなく成績は良くて中の上。ただ波風立たない中学校生活を過ごしてきた。ある程度自己紹介を済ませたところである質問がある。まずいくつか設定を決めておこう。
①選択肢はYES or NOで答えよう。
②この僕が特に秀でるもののない主人公補正もないただの高校生であることを覚えて
おいてほしい。
③上の二つを理解した上で、なるべく最適解を導き出せるよう手伝ってほしい。
それじゃあまず状況を整理しよう。僕は今日入学する新入生、入学式に備えて少し緊張気味で余裕があまりない。そこで僕はある女性を見つけた。驚くほどに顔立ちが整っており、スタイルも良くておそらく新入生だろうが、巷で可愛いと有名な桜高の制服の着こなし具合はもはや学生モデルと言われても納得できてしまうほどの素晴らしさだった。
そんな完璧そうに見える彼女は一体何をしていたかというと…
「ひっく、うぅ…うううううぅぅ…」
そう、人気のないところで静かにうずくまって泣いていたのだ。あまりの光景にもはや自分の脳内は混乱状態に陥っていた。君たちならこの状況をどう切り抜けるだろうか。周囲の人間たちは彼女に気付いてはおらず、ここで勇気が出ないものは『声をかける』というコマンドが出たらすかさず NOを選択してこのまま入学式へ向かうだろう。別にそれは悪いことではないかも知れない。しかしあまりにも気になってしまい、このまま放置していても良くない気がしたので、僕は仕方なく『YES』を選択することにした。べっ、別にこれを機に仲良くなって交流が持てるかも〜、なんて思ってないからな!勘違いするなよ!
そうして脳内シュミレートを完結させて彼女の元に歩み寄り、そっと声をかける。
「あ、あのっ大丈夫ですか?」
「ひっく、うぅぅ?」
彼女は大粒の涙を流しながら怪訝にこちらに目を向けた。正面から可愛い子の泣き顔をもろにくらった僕はなんとかポケットからハンカチを取り出して彼女に差し出す。
「これ、よかったら使って。洗ってまだ使ってないから一応綺麗だよ」
そう言って渡そうとしたが、彼女は一度泣くのをやめて目を丸くしていて、流石に知らない男子に声をかけられるのはキモすぎたか…、とあたふたしていると
「うえぇぇ、どうもありあとう…、ぐすっ」
彼女は蛍の手からハンカチを受け取り、涙を拭いて立ち上がった。耳や頬が赤く染まっていて、一体何があったのかすごく気になるが、初対面でずけずけと人の事情に首を突っ込むのは良くない気がしたので控えておく。
「ありがと…、ちょっと落ち着きました。これでなんとか乗り切れるかな…」
「乗り切る?まあよくわからないけどそのハンカチ返さなくていいよ、それよりもうすぐ入学式が始まるから急がないと」
「入学式…?ってあああああぁぁぁ!?すいません、今って何時か分かりますか!」
「今って、えっともうすぐ9時で入学式が9時30から開始ですね」
というと学校のチャイムが鳴り始めた。すると彼女の顔が赤く染まっていたのが今度はみるみる青くなっていき、血相を変えて素早く立ち上がった。
「すいません、私ちょっと用事があって。このご恩はまたいつか返します、それじゃあ!」
そう言って彼女はものすごい勢いでどこかへ走り去っていった。ほんとになんだったのだろう。そういえば自分も時間が危うくなる前にそそくさと体育館へ向かう。無事学校説明の地図を見てたどり着いた体育館に入ると、中学校の時とは比べ物にならないほど綺麗で大きな建物だった。中ではすでに多くの新入生や教師陣が集まっているので自分の席を見つけて早めに座っておいた。これからはじまる高校生活に自分自身も淡い期待を抱きながらついに時間がやってきて入学式が始まった。新入生歓迎やら教師紹介など淡々とプログラムを進めていき、新入生代表の言葉となった。
「それでは、新入生代表の望月いつかさん。よろしくお願いします」
そうして呼ばれて壇上に上がった女性はマイクの前に立ち綺麗な所作で一礼すると、凜とした声で大勢の前でも気押されることなく話し始める。周囲では彼女の姿を見てざわめきだつが、容姿が美しいのもそうだが新入生代表ということは地元では割と偏差値の高いことで有名な春高の入試試験で主席だったということになり、頭もずば抜けていいということだろう。しかし蛍は少なからず他とは違う動揺を見せていた。今目の前で様々な方面に感謝の言葉などを述べている彼女は、さっきまでうずくまって泣いていたあの子だった。
「以上です、ありがとうございました。そしてこれから何卒よろしくお願いいたします」
蛍が呆けているうちにいつの間にか最後の言葉が終わり、再び観衆に向けて一礼すると体育館は大きな拍手に包まれた。教師陣は涙ぐみ、新入生の一部には立ち上がったり「うわあー!望月さーーん!」と歓声を上げて怒られている人もいる。それほど彼女の影響力は凄まじかったということだ。そして彼女が壇上から降りると最後に春高の校歌をきいて閉会となった。なんともいえない余韻に浸りながら、各自で張り出されたクラスの名簿を見て教室に向かう。綺麗な校舎の3階、1−Aと印刷されたプレートが掲げてあるクラスの扉を開けている。窓際にあった自分の名前の貼ってある机に腰掛け、しばらく待つと新しく担任になる気だるげな女性の先生が自己紹介を始めた。なぜか蛍の隣の席は空いていて、新しい友達ができるかもと淡い期待を持っていたが、また会えたときに話しかけてみようと思いこれから始まる高校生活に想いを馳せているその時…
「すいません、遅れました!」
そう言って教室に入ってきた彼女、一体今日は何度驚いたらいいのだろうか。望月いつか、入試試験トップで容姿端麗、一見完璧無敵な人かと思えばどこか謎の一面のある彼女。教室の入り口から自分の席をキョロキョロと探している。
「おお、望月か。新入生代表の言葉よかったぞ、えっと君の席は後ろの…、ああ風見の隣だな」
蛍は名前を呼ばれてビクッとなる。ちょっと待ってほしい、それはまずい。
「ありがとうございます!えっと…、この席か。私望月いつかです、よろしく…」
だんだんと近づいてきて鞄を掛け、蛍の顔を見た瞬間彼女が固まった。先生が色々な説明をしていくが、どうやら平穏と適度なワクワクを望んでいた高校生活を送りたいという僕の願いは却下されたらしい。その理由はクラスの男子の殺意のこもった突き刺さる視線だ。お前ら前向けよ!話聞けよ!そんな願いは虚しく消えていく。
ーあぁ、もうどうにでもなれ…。どうぞよろしくお願いします…。
こうして風見蛍の高校生活は不穏な始まりを告げ、幕を開けていくのだった。