井太一の悲しき果実【肛門フルーツと再誕の木】
ミカが還ってきた奇跡も束の間。
太一は気づいていた。
――彼の身体に残された“フルーツの種”が、静かに彼を蝕んでいることに。
日を追うごとに彼の体調は崩れ、熱に浮かされる夜が増えていった。
ミカに気づかれぬよう笑い、振る舞い、最後の夜、太一は一人静かに立った。
庭に実った“自分の肛門から出た最後のフルーツ”。
それはミカと過ごしたすべての記憶が詰まった、異様なほど美しい果実だった。
「これが俺の終わりなら、それでいい」
太一はそれを一口、そして残さず食べきった。
──朝、彼は息絶えていた。
静かな笑顔で、ミカに背を向けるようにして。
そして数日後。
太一の遺体の胸から、ひとつの芽が吹き出した。
柔らかな若葉をまとったそれは、まるで心臓の鼓動をなぞるように成長しはじめた。
季節が一巡し、芽は幹となり、幹は枝を広げ、一本の大きな木となった。
ミカはその根元に座り、時折、そっと声をかける。
「……太一」
ある春の朝。
その木の幹が音を立てて割れ、中から若き姿の太一が生まれ出た。
木漏れ日の中、裸足で立ち上がる彼は、記憶の奥にかすかに残る温もりだけを感じながら、ミカの方へと歩み寄る。
ふたりの命は、循環を経て再び出会ったのだった。