表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

井太一の悲しき果実【肛門フルーツと再誕の木】

ミカが還ってきた奇跡も束の間。

太一は気づいていた。


――彼の身体に残された“フルーツの種”が、静かに彼を蝕んでいることに。


日を追うごとに彼の体調は崩れ、熱に浮かされる夜が増えていった。

ミカに気づかれぬよう笑い、振る舞い、最後の夜、太一は一人静かに立った。


庭に実った“自分の肛門から出た最後のフルーツ”。

それはミカと過ごしたすべての記憶が詰まった、異様なほど美しい果実だった。


「これが俺の終わりなら、それでいい」

太一はそれを一口、そして残さず食べきった。


──朝、彼は息絶えていた。

静かな笑顔で、ミカに背を向けるようにして。


そして数日後。

太一の遺体の胸から、ひとつの芽が吹き出した。

柔らかな若葉をまとったそれは、まるで心臓の鼓動をなぞるように成長しはじめた。


季節が一巡し、芽は幹となり、幹は枝を広げ、一本の大きな木となった。

ミカはその根元に座り、時折、そっと声をかける。


「……太一」


ある春の朝。

その木の幹が音を立てて割れ、中から若き姿の太一が生まれ出た。


木漏れ日の中、裸足で立ち上がる彼は、記憶の奥にかすかに残る温もりだけを感じながら、ミカの方へと歩み寄る。


ふたりの命は、循環を経て再び出会ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ