果実の終わり
酒井太一の悲しき果実【終章・スイーツのあとで】
桃神との激闘のあと、町には静けさが戻っていた。
ジュースの雨は止み、甘い香りだけが夕焼けの中に残っていた。
太一は、一人ベンチに腰を下ろす。
肛門スイーツの力は、戦いの終わりと共に消えていた。
もう、何も出てこない。
「……終わったんだな」
彼の前に現れたミカが、そっと缶ジュースを差し出す。
「あなたの肛門スイーツ、たくさんの人を救ったよ」
太一は笑った。
「でもさ……結局、誰も“食べたい”って心から言ってくれたこと、なかったんだよな」
ミカは少し黙った後、小さく答えた。
「だって、それはあまりに…尊くて、食べたら壊れそうで、怖かったの」
太一は空を見上げる。
もう宇宙モンスターも、肛門スイーツも、ジュースもいない。
残っているのは、少し甘い風と――思い出だけだった。
彼は最後に微笑む。
「俺はさ、変なやつだったかもしれないけど……誰かの記憶に、少しでも残れたら、それでいいよ」
ミカは何も言わずに、ただ隣に座り続けた。
甘い風がふたりの髪を揺らす。
遠くで、桃の木が静かに揺れていた。
あの戦いの果実が、そこに実っていた。
終わったのだ。
誰にも知られずに、だけど確かに世界を変えた、肛門スイーツの物語が。